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追放されたその後


頑張るといいつつこの体たらく…なんでパソコンって難しいんですかね(白目)




〈世界最強、コードネーム『オンリーワン』死す?!〉


そんな記事が大きく取り上げられた新聞を片手に、黒い髪に暗紫色の瞳をした少年は一人で喫茶店の二人がけのテーブル席に座ってコーヒーを口に含む。


〈マカ変異種との戦いの中、彼は相当数のマカと変異種、加えて特別危険指定個体を自らの命と引き換えに殲滅。彼の戦いと今までの軍への貢献に対して勲章を授与される。〉


そんなことを書かれた新聞を読み進めている少年の口角は歪につり上がっている。


「ふーん? 軍はアレをそういう風に捏造するわけだ…? まあ軍にはもう充分なほど稼がせてもらったし……別なとこ行ってもいいかなー」


彼が一時的に雇われて所属していた軍では、どうやら彼を危険分子として処理するといった判断をされ、彼はマカの大群の中に置き去りにされるもその全てを殺戮し、軍にバレないように姿を消した。


「あの中に置き去りにしておいてよくもまあ名誉の戦死っぽく書けるもんだよ」


当初の作戦では、先遣部隊を派遣するための情報を得るための、いわば斥候役を任された…と思っているのだが、気付けば敵のど真ん中で通信を切られ、土産とばかりにマカに効くはずもない爆撃で全てのヘイトが彼に向けられた。


「あの時は本気で軍を破滅させてやろうかと思ったなあ…」


普通のマカの大群に加えて、変異種の群れ、さらに変異種の統率個体数体に、極め付けには特別危険指定個体『グラム』の存在。


変異種たちは普通のマカを喰らってどんどん進化していき、統率個体のせいで少しずつ頭を使うようになり、『グラム』のせいでそもそも雑魚を倒す暇がない。


思い出すだけでため息しか出てこない。


「はあ…正直よく生きてたよ…疲れたし」


「…疲れたの一言で済ませて良いことではないかと思いますが?」


何も得るもののない新聞を退屈しのぎに読みつつコーヒーを飲んでいた彼だが、決して暇だから喫茶店で座っていたわけではなく、呼ばれてここにいた。


待ち人がようやく来たと新聞を置いて話しかけてきた人物に目を向けると、金髪にスカイブルーの瞳といういかにも外国人ですといった女性が対面に腰かけた。


「いや、外国人っていうかこの場合は僕が外国人か……」


「なにがですか?」


「ああいや、ちょっと独り言」


周りを見渡すと、対面に座る彼女と似たような色合いの人が多く見える。その他にも茶色であったり銀色であったり色は様々であるが、黒い髪の人は一人も見当たらない。


彼は手を挙げて店員を呼ぶと、対面の彼女を見て、


「追加で注文してもいい?」


「はい。ここのお代は全部私が持ちますので」


彼女の言葉に頷くと気分が良くなった彼は注文を告げた。


「それじゃあね…カフェオレとチョコレートパフェにパンケーキと…あとバニラアイスとミルフィーユで」


「……甘いものがお好きなんですね? ああ、私はコーヒーを一つ」


注文を受けた店員を見送りつつ彼女は彼に告げる。


「まあね。甘いものは人を幸せにしてくれるよ? マカを殺すよりよっぽど簡単に幸せが手に入るさ」


「…貴方であればマカを殺す方が手間がかからないのでは?」


「うん? それはそうだけど…マカを殺したところで別に幸せだなんて思ったことはないからね。あえて言うなら暇潰しのゲームみたいなもんさ。それで言うなら、軍は僕に結構な娯楽を提供してくれたね。その点だけは感謝しても良い」


そう言って元々あったコーヒーを飲み干す彼に彼女は口元が引きつるのを感じた。

常人ならばマカを見た瞬間に狂ってもおかしくないというのに、彼はそれをゲームだと言う。


上の命令とはいえ、異質な雰囲気を持つ彼に自分なんかが交渉人として来ることになり大丈夫だったのかと心配になってきている彼女をよそに、彼は運ばれてくる甘味を食べ始めた。


「あー…美味しい」


パンケーキを切り分けて口に運ぶ彼は見た目だけなら可愛いい雰囲気とかっこいい雰囲気を併せ持つ少年だが、その中身は一人で世界と戦えるのではないかと疑われるほどの戦闘力を持つ戦士なのだ。


パンケーキにたっぷりのメープルシロップとバターを塗りたくり、糖尿病待ったなしの状態にして、それを口に放り込み少年は告げる。


「それで、話ってなに?しばらくは休みたいなって思ってるところなんだけど」


この少年一人が休むだけで人類にどれだけの損害が出るのかと女性は一瞬考え頭が痛くなった。


そしてそんな少年を危険分子として排除しようとした軍の上層部に対しても、頭のおかしい老害が、とそんな考えしか浮かばない。


「その前にどうかこちらをお受け取りください」


そう言って女性が渡したのは、彼女自身の名刺と何かしらの資料である。


「私はマカ対策組織『ロゴス』、スギリア支部で支部長の補佐をさせていただいております、セレーナと申します」


「うん? 軍と並ぶくらいの組織…ロゴスの人が僕なんかに一体何を…って、何これ、訓練校の入学案内?」


渡された名刺には軍と肩を並べるほど大きな組織『ロゴス』の名と、その組織が設立し経営しているマカと戦うための術を学ぶ場である訓練校への入学案内であった。


「必要経費は全てこちらで持たせていただきます。貴方には、ここに入学していただきたいのです」


「……わからないなあ。どうして僕にそんなことを?」


彼はパサリと渡されたものをテーブルに放り、ロゴスの一員であり、名刺に書かれた名前が正確であるならば、セレーナ・オリバルという名の女性を見つめる。


一方で見つめられた彼女は、これからの自分の対応で依頼の成否が決まるのだと緊張した面持ちで話し始める。


「現在、ここスギリアでは、ロゴス本部との距離が近いこともあり、優秀な戦士の卵が多くいると自負しております。けれど、本部が近いことで、実戦経験が圧倒的に足りておらず、いざ戦場に出ると動けなくなってしまう…といった問題が生じております。


そこで徐々に実戦訓練と称して小型のマカを討伐させていくといったことを実践しているのですが…今年の入学者には少々問題がありまして…」


「わざわざそんなことするなんて随分ロゴスはお優しいんだね? ああ、いや、皮肉を言っているわけじゃなくてね? 軍じゃそんなの考えられなかったからさ」


「…マカを殺すために人を犠牲にするようなやり方に我々ロゴスは否定的です。人は財産ですから」


そう言って寂しそうに笑うセレーナを見て、少年は持ちかけられた依頼の内容を推測し始めた。


人が財産と言うのならばロゴスは今までの訓練内容を可能な限り安全かつ結果が得られるように考えてきたのだろう。


ということは、依頼の内容は…安全策をとっておきつつもそれだけでは払拭しきれない何かを拭い去るためか。


少年は飄々とした態度とは裏腹に、自分の力を正しく理解し、それに伴った行動と責任を負うことを自覚している。


「それじゃあ今回の依頼は護衛か何かかな?」


「…はい。そちらの資料にもある通り、貴方にはこちら生徒を守っていただきたいのです」


セレーナはテーブルの上に置かれた資料に挟んである写真を抜き取り差し出した。


そこに写っていたのは銀色の髪に翡翠の瞳を持つ一人の少女だった。


「彼女は?」


「詳しいことは資料に書いてありますが、簡単に説明させていただきますね。彼女の名前はヴィオレッタ・ウェーブル。魔力量は多いけれど、精々が一流になれるかもしれない程度。けれど特筆すべきなのはその性質です。


貴方も知っている通り、魔力には術式に適したものと、魔技に適したものと、その両方にある程度の適性があるものの三つが存在していることが確認されています。


けれど彼女の魔力は今までに例を見ない四つめの性質があうのではないか、と我々は見ています」


「四つめかー…。まあ、僕には関係ないことだけど、一応聞こうかな」


少年は既に自分自身が特別であることがわかっていたため、新たなものだと言われたところで特に惹かれるものはなかった。


「彼女は魔力を事象として使うことだけでなく、物質化することができるのです」


その言葉を聞いて少年はつまらなそうだった顔に嘲るような笑みを浮かべた。


存在が確認されているものの、魔力を物質として留めることは不可能だとされていたが、それが可能になるかもしれない。その結果得られる恩恵は計り知れないものがあるだろう。


「君らはこの子を永久機関にでも仕立て上げるつもりかい?」


ひらひらと写真を目の前で揺らす彼は、しかしロゴスがそのようなことをしないだろうという予想はしていた。


「違います!!」


ドンとテーブルを叩くセレーナに喫茶店にいる人々の視線が突き刺さる。


「【偽装工作】」


しかし少年が一言呟くと、人々はまるで何もなかったかのように過ごし始めた。


「気をつけなよ。聞かれて困るというわけじゃないんだろうけど情報を秘密にしておくことは切り札に繋がることもある」


「…取り乱してすみません。けれど、我々はそのような非人道的なことに彼女を使うつもりはありません」


「だろうね」


少年は溶けかかったアイスを行儀悪くぐるぐるとかき混ぜ、飲みかけのカフェオレに注ぎ込んだ。


先ほどまでとはうって変わった少年の態度に鼻白むセレーナ。


「魔力の物質化。永久機関の可能性。マカを倒すための実戦訓練。これだけわかればどこかの組織がヴィオレッタ…だっけ?彼女を狙う可能性には辿り着く。


そしてその護衛を僕に任せたいということは相手は相当な駒を持つ組織か、魔力の多い人間を狙う強大なマカか。後者は正直問題はないだろう?幸いにも本部に近いここには僕が軍にいた頃から活躍する彼女がいるだろうしね」


そう言って少年が思い出すのは燃えるような赤い髪にきらめく琥珀色の瞳を持つロゴス最強を冠する少女。

そのうちまた会うこともあるかもしれないな、と懐かしく思う。


「今、このタイミングで依頼を持ってくるってことは、軍が主体ってことかな?」


「…はい。その他にも…」


「ああ、他はいいや」


「え?」


セレーナが彼の顔を見ると、思わず生唾を飲み込んでしまうほどの凄惨な笑みを浮かべいた。


彼はテーブルに放った資料をパラパラとめくり、少ししてパタリと閉じる。


「いいよ、その依頼受けよう」









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