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うららかな春の夢

作者: そら
掲載日:2018/12/22


「絨毯みたいやなぁ。」


母はためいきを吐くときみたいに、ゆっくりとそう言った。母と私は、花びらの絨毯の上を歩き、そこにあったベンチに腰掛けた。


「ミスド買って、桜公園でお花見しよっか。」

と、母が急な思いつきを口にしたのは、つい1時間前のことだ。


私はミスドの箱をあけ、ポンデリングを取り出し、一口齧った。


「ママは何食べよっかなぁ。」


呟きながら箱の中を覗く母の横顔を、私はもぐもぐしながら見た。

今日は調子が良いようだ。比較的顔色が良い。


「なおもあと一週間で六年生かぁ。早いなぁ。」


母はいちごのドーナツにしたようだ。


「ごめんな、ママが入院してたら、なお、寂しいよなぁ。」


「大丈夫やで。学校も楽しいし、塾の勉強も順調やし。そんなことよりママは無理せんと、病気治すことに専念してな。」


私は二口目のポンデリングを齧った。一生懸命もぐもぐした。涙が出ないように、一生懸命。


すると、突然、母の両腕が私の肩を抱いた。

私はびっくりして一瞬固まったが、状況が飲み込めたと同時に、母のあたたかい胸の中に顔をうずめた。

そのあたたかさとは裏腹に、私の頬には何か冷たいものが伝った。それが涙だと気付くまで、数秒かかった。


母は私の肩から腕を離すと、

「いちごのクリームついちゃった。」

と、私の髪を指で拭った。笑っていた。





「バサッ」


私は目を覚ました。


辺りはやはり、桜の絨毯だった。

いつの間にか、居眠りをしていたようだ。

私は絨毯の上に落とした単行本を拾おうと、手を伸ばした。


すると、本の上に、花びらが一枚舞い降りた。

私は上を見上げた。


そう、あの日もここで。


あのときは母と一緒に。


母のいない春は、これで七回目だ。




私は本を鞄にしまい、ベンチから立ち上がった。


私の大学生活が、はじまった。




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