第6話 コンビニ店員は腰を抜かす
何とか森を抜け、開けた土地へと足を踏み入れた。
まだ日は高く、感覚的には昼を少し過ぎたころだろうか。足元には短めの草が所々生えており荒れ地というほど荒れていない印象だ。
暑くもなく寒くもない。柔らかな風がスッと頬をかすめる。森の湿度とは違う爽やかな空気がそこにはあった。
「んー、空気が美味いな。」
俺はそう言うと背伸びをして気分転換を図った。
重苦しい森の中とは違い、そこには開放感があった。遥か遠くには高い山脈が見える。
ああ、これが観光旅行なら……。
などと心の中で呟くが、今は虚しいだけだ。
『この先に街があるようだな。』
トウロは進行方向を指さし俺に告げる。
俺は示された方向を凝視する……。
「お!あれが転移者の街なのか?」
俺が期待を込めてそう言うとトウロが答える。
『うむ。恐らくはそうだろう。ただ、そこまで大きな街ではないようだが、まずは行ってみようかの……』
そんなトウロの言葉が終わる間際、俺たちの周辺が黒い影で覆われた。
俺は何が起きているのか分からず辺りを見回すが、影はどんどん大きくなってゆくだけだった。
『ヒロシ殿、伏せろ!!』
トウロの叫びに俺は咄嗟に反応し、その場に伏せた。
次の瞬間、ブワッと突風が吹き地面をえぐる巨大な爪の様なモノが視界に映った。 地面をえぐった爪の向こうには、回避態勢にあるトウロの姿があった。
魔物なのか?
俺はそれを確認すべく爪が過ぎ去った方に視線を向ける。
「ドラゴン!?」
まさにそれは西洋の神話に出てくるドラゴンそのものだった。
赤黒い鱗に覆われ、巨大な尾と翼を持つ体長十メートルほどの体躯だった。
俺は驚きのあまり腰が抜けてしまって一歩も歩けない。
再び襲って来るかも知れないというのに何の対処も出来ないでいた。
『こやつは我を狙っておる。ヒロシ殿はそこにジッとしておられい!』
トウロは俺に向かいそう伝えると、空中で旋回を始めたドラゴンを見据えた。
ドラゴンもトウロに向き直り、急降下して来る。
巨大な体躯を持つドラゴンがトウロに迫り、大きな顎を開きながら襲い掛かろうとした。
トウロはいつの間にか腕の形状を巨大な剣へと変化させ、ドラゴンを迎え撃つ。
迫る両者。衝突の瞬間、凄まじい爆発音が響き渡る。
ドゴオオオオオオオオオン!
地面が爆ぜ、周囲は土煙に覆われる。
何が起きたんだ?
そう思いながらも彼らが居るはずである土煙を凝視すると、中では二つの影が衝突を繰り返しながら激しい戦闘状態にある様だ。
すると、一体の大きな影が翼を広げ暴風を起こし、土煙を払う。
払われた土煙の中から姿を現したトウロは暴風を避けるため態勢を低く構え、ドラゴンの首を狙いに行く。
ドラゴンも姿を現したトウロを睨みつけ、身をよじり回避すると巨大な尾を振り応戦する。
凄まじい勢いで振られた尾ではあったがトウロは軽く躱し、身体を一回転させると、その回転によって遠心力を乗せた剣先をドラゴンの尾の根元に斬りつけた。
グギャアアアアアアアア!!!
斬りつけられたことによる痛みか、それにも勝る怒りのためかドラゴンは咆哮を上げで巨大な体躯を激しく暴れさせる。
トウロは一旦距離を置き、ドラゴンの正面に立つと止めを刺すべく剣を構えた。
ドラゴンも何とか冷静さを取り戻し、トウロを見据え巨大な顎を大きく開けて反撃の構えをとる。
先にトウロが動いた。ドラゴンに向かい突きの構えで加速する。
それに反応したドラゴンが口の中から赤黒く禍々しい爆炎を吐きだし……炎の中にトウロが飲み込まれた。
「トウロッ!!!!」
俺は姿が見えなくなったトウロの名を呼び、叫んだ。
すると爆炎を吐き終え一瞬の硬直を見せたドラゴンの背にトウロの姿があった。
ドラゴンが状況を掴めないまま硬直状態から復帰しようとしたその瞬間、トウロの身体から超高速振動による甲高い金属音が周囲に響き渡り、腕を変化させた剣をドラゴンの背中に深々と突き刺した。
突き刺された部分を中心に背中の周辺が徐々に波打ち、鱗が剥がれ飛び、その波動は全体へと広がる。
ドラゴンは成す術もなく、その巨体はボロボロと崩れ落ちてゆく。
残った頭部にある双眸に怒りと悔しさを宿し、最後には崩れ落ちただの肉塊へと姿を変えていった。
◇
周囲に静けさが戻り、爽やかな風が吹き抜ける。
俺は今、目の前で起きたことを頭の中で整理しながら呟く。
「ふぅ…一体何が起きたんだ?」
身を起こし、土埃だらけの衣服を払い今一度周囲を見回した。
すると巨大な肉塊が横たわっている方向からトウロがゆっくりとこちらに歩いてくる。
巨大な剣に変化させていた腕は、いつの間にか元の腕に戻っており、見た目も戦闘前と変わらぬ黒光りするゴーレムボディであった。
トウロに異常がないことを確かめるべく声を掛ける。
「見たところ、怪我とかは無いようだけど大丈夫?」
『うむ。いきなりの敵襲だったので、一瞬戸惑ったが問題はない。あの程度の雑魚竜魔族では相手にもならぬ。』
自信満々といった雰囲気を纏いながらトウロは答えた。
ああ、あれがトウロ達石魔人族を襲った竜魔族なのか。
それにしても、伝説のドラゴンとそっくりで驚いた。しかもそれを倒すトウロの実力はどうなっているんだ?
こんな危険な状況にあっても自信満々な態度だとか、俺は何かとんでもない者と眷属契約をしてしまったのではないだろうか。
「それで、もう危険はないの?」
俺は確認のためトウロに尋ねる。
『しばらく危険はないはずだ。奴は森の中に居た我らを察知し、気配を消して待ち伏せしていた様じゃな。改めて注意深く探ってみたが付近に危険な気配はない…だが、石魔人族である我を狙ったのは間違いないだろう。』
「ああ、トウロ達と敵対している勢力と言っていたからね。でも、あんなのが度々襲って来ることはないんでしょ?」
『いや、この辺は弱いながらも奴らの影響下にある地域の様だ。向こうに見えるエグリガンド山脈には奴らの集落がある。仲間が戻って来ないことを案じて捜索に来る可能性もあるからの。』
「じゃあ早く街に行った方が…。」
『そうも思ったんだが、このままでは街そのものが奴らに襲撃される可能性も否めん……あ、そうじゃ!何とかなるかも知れぬぞ!』
何やら現状を打開する名案が浮かんだようだ。
トウロは腕を組みながら納得したようにウンウンと頷いている。
俺はその様子を見つめ、今後の安全を願った。
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