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第5話 コンビニ店員は移動する


 トウロはサムズアップを決めながらこちらを見ていたが、ハッと思い出したように言葉を発する。


『そういえばヒロシ殿、狩りをしている途中で転移陣を見つけたのだが、そこに《転移者の街はコチラ》という立て看板があった。どうじゃ行ってみるか?』


 トウロはさらりと言っていたが、それってとても重要なことなのではないのか。転移陣があるということは元の世界に帰ることができるかも知れない。しかも《転移者の街はコチラ》とか、この世界は転移者ありきで…あっ、その街に行けば元の世界の人たちも居て、色んな情報が得られるのでは。

 少々短絡的な発想であるのは分かっていたが、俺は足長ウサギの肉を食べながら答える。

 

「食事が終わったら早速行ってみたい。その転移陣で元の世界に帰れるかもしれないし。」


 するとトウロは言いづらそうに答える。

 

『その転移陣は出口専用であった。おそらく設定条件に合った不特定多数の箇所から呼び寄せるための陣だと察する。』


 まぁ、そんな甘い話はないよな。

 嘆息気味に心の中でつぶやいた。

 しかし、望みはまだある。転移者の街に行くための情報を得て、ほかの転移者から話を聞きたい。もしかすると元の世界に帰る術を知っているかもしれないし……。

 

「わかった。でも転移者の街には行ってみたい。とりあえずは、その出口専用の転移陣に行ってみよう。」


俺はトウロにそう告げると、残りの足長ウサギの肉を頬張る。



 ◇



 食事が終わり、トウロがホットプレートの様な石のテーブルを片付け始める。


「ところで、トウロは食べなくても大丈夫なの?」


 散々一人で食べておいてなんだが、今になってトウロが何も食べていないことに気付く。もちろん、その容姿からは食事をするようには見えない。石で出来た体躯、顔と思われる部分には蒼く輝く二つの目っぽい何かがあるだけだ。口や鼻など常識的な生物としての部位は確認できない。それでも一応聞いてみた。

 

『うむ。食事は必要ない。』


 トウロは普通に答えた。続けてその理由についても答えてくれる。


『我らは魂を核として魔力と概念によって存在し活動している。魂を維持するための魔力と、ヒロシ殿が《石》と認識している大地の概念により周囲から魔力を吸収し活動することが出来る。なので食べ物を摂る必要はないのだ。』


「へぇ、魔力って凄いんだな。」


 素直な感想だった。そういえば、トウロを使役するときに魔力をゴッソリ持っていかれて倒れそうになったのを思い出し、更に魔力の偉大さを感じた。

 

『ヒロシ殿、そろそろ向かおうか。』


 片付けが終わったトウロがスッと立ち上がり、転移陣のある方角に向かいながら言った。

 俺は無言で立ち上がり、頷きながらトウロの後に付いて気を引き締めた。

 

 

 

 俺がこの世界に来て一時間とちょっと経った位か、やっと移動を始めた。

 相変わらず森の中ではあるが、目的をもって移動している。この初めて出会う世界の中で、やるべきことが分かったというのはとても大きな一歩だと思う。

 巨大な樹木の間を抜け、足元にある草や倒木を踏み越え、見知らぬ世界の大地を目的地である転移陣へと進んでゆく。

 一度は帰還を期待した転移陣だが、出口専用であるという事実の前に単なる目標地点となった。しかし、そこにあるという《転移者の街はコチラ》という立て看板に新たな期待を抱きつつ、トウロに続き歩を進めていった。

 

『うむ。この辺りだな。』

 

 体感で数十分ほど移動したところで、トウロが周囲を見回しながら言った。

 俺も周囲を見回し、出口専用の転移陣とやらを探す。とは言っても、どの様なモノなのか全く知らないので正確には探しているフリなのだが。

 

 注意深く見回してみると、確かにこの一帯は先程までの森とは様子が違っていた。巨大な樹木が直径数十メートルの円を囲う様に生えており、何らかの意図をもって作られた空間の様に感じた。

 樹々の木漏れ日だけだった空もここではポッカりと口を開け青い空と雲が見えている。

 久しぶりにみた青空に意識を奪われていると、弾んだ声でトウロがこちらに向かって声をかける。

 

『ヒロシ殿、あったぞ!ここが転移陣だ。』


 慌てて視線をトウロに向け、駆け寄ると足元の質感が変わった。

「あ、これが転移陣か……。」


 すぐに分かった。柔らかな草を踏みしめている感触が硬質なものへと変化したからだ。

 更に足元を見ると汚れた乳白色をした二メートル四方程度の石板が敷かれていた。何やら紋様なものが刻まれているが、それが何を意味するのかは分からない。

 出口専用という話だが、扉の様なものはない。一体どのような感じで出てくるのか少しだけ興味が湧いた。

 すると転移陣から淡い光が現れ俺を包むみ、一瞬たじろいだ。

 

『そうだ、これが転移陣だ。少々古い仕様ではあるが今現在も稼働している様だ。誰が何のためにこのような陣を設置しているのかは分からんがな。それとその輝きはこの世界に順応させるための術式が起動した様だな』


 俺の小さな興味とは関係なくトウロは腕を組みながらこの転移陣について説明してくれた。

 そしてトウロは足元の転移陣の先にある立て看板を指さした。

 俺は指された立て看板を見て驚いた。

 

 そこには《転移者の街はコチラ》と日本語で書かれていたのだ。

 俺が驚きの表情を浮かべ小声で「転移者の街はコチラ」と呟くとトウロがふふんといった雰囲気で言ってくる。

 

『ふむ。ヒロシ殿にも読めるのか……やはり先程の順応術式で内容が理解できる様になったのだな』


 はぁ、そういうことなのか。

 何だか日本語を見てホッとした俺がバカみたいに思えた。本来ならばそんなことが可能なテクノロジーに驚くべきなのだろうが、何せここは異世界だ。何が起きようと簡単に驚きはしない。実際、目の前には石で出来た動くゴーレムっぽいトウロという存在がいるのだから。

 

 

「で、この立て看板に従って転移者の街に向かった方がいいのかな?」


 あまり意味のない質問とは知りつつトウロに確認してみた。

 

『そうだな、現在地を知る手掛かりになるやも知れぬ。まずはその街を目指すのが第一だろう。』


 トウロはそう言うと立て看板に描かれた矢印の方角を見ながら更に言葉を続ける。

 

『この先をしばらく行けば森から出られる様だな。ここは静かな森の様だったが、魔物が身を隠し潜む場所が多い。決して安全であるとは言えない。できれば早い段階で森を抜け見晴らしの良い場所へ進むのが正解だろう。』


 それには俺も同意だ。

 足長ウサギの様な美味しい魔物だけではないだろう。この世界の住人であるトウロが警戒する程度には害になる魔物も存在するのだろう。おそらく俺では歯が立たない。というか、そもそも身を守る手段がない。

 

「よし、じゃ早速街を目指して先を急ごう!」


 怖気づいたわけではない。安全策を優先させただけだ。

 そう自分自身を納得させ、トウロに向かって言った。

 

 トウロは無言で頷き、立て看板の指示に従い森の出口と思しき方向へ歩き出した。

 

 

 

 

 やっと森の外へたどり着いた。

 

 無事にというわけでもなかったが、森の出口へ向かう途中、一度だけ魔物が襲ってきた。まぁ、トウロのワンパンによりあっさり撃退できたわけだが。

 とはいっても体長二メートルを超えるオオカミに角が一本生えた感じの魔物で、地響きを鳴らして走り来るほどの力強さを示していた。

 動きも素早く、俺は一歩も動くことが出来ず目で追うのがやっとといった状況だった。

 そんな中、俺に向かって大きく跳躍してきた魔物の頭をトウロは横から殴りつけ一瞬のうちに倒してしまった。

 恐るべき破壊力である。魔物もトウロも元の世界の常識からは考えられないほどの強力さだった。

 

 うーん…俺はこの世界で生き延びることができるのだろうか。

 

 

 

 

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