第4話 コンビニ店員の食事事情
早速トウロが差し出した魔石と木の実を受け取ろうと手を伸ばそうとして、一瞬戸惑う。
危険はないよな・・・。
そう思いながら、もう一度トウロの様子をチラッと見てみる。表情は全く分からないが自信たっぷりの雰囲気でこちらの様子をうかがっている。
そこまで自信たっぷりにされると一瞬でも疑った俺が悪者みたいじゃないか・・・。
「あ、ありがとう。」
俺はそう言った後、上半身を起こしてトウロが持ってきた魔石と木の実を受け取る。
掌の上の魔石と木の実からは危険な雰囲気は感じられない。・・・きっと大丈夫だ。トウロを信じよう。
『あと、この木の実はマコの実といって魔力回復に役立つ。ヒロシ殿の魔力は現在枯渇状態にある様なので有用であろう。皮ごと食べられるので食べた後、しばらく横になっていれば気分も晴れるだろう。』
「ああ、そうなのか。それはありがたい。」
トウロの説明を聴き、早速マコの実とやらを口の中に放り込み奥歯で噛み潰す。
プチプチとした食感で爽やかな酸味が口の中に広がる。甘さ控えめのブルーベリーといった感じだろうか。特に美味しいというものでもないが、知らない世界で食べられるものに出会えたのは僥倖だろう。
『どうだ?』
マコの実を食べている俺を見つめながらトウロは聞いてきた。
「ああ、悪くない。でもこれだけしかないの?」
俺は率直に感想を述べた。
それはそうだ。バイト帰りで帰宅後に食べようとコンビニ弁当を準備していた程度には空腹だったのだ。小さな木の実が数個では全く足りない。
『ふむ。では腹の足しになるような物を準備して来よう。あと、周辺の様子も見てくることにする。今のところ危険な雰囲気はないが、もしもの事もある。それに現在地がどこかも知りたいからの。』
トウロはゴーレムボディをグッと起こし、俺に向かってそう言うと踵を返し走り去ってしまった。察しが良くてありがたい。そして即断即決の行動派らしい。
そんなトウロを見送り、俺はマコの実を食べながら手の中にある魔石を見つめこれからの事を考える。
とりあえずこの世界ではトウロの世話になりつつ、元の世界へ戻るべく行動しなければならない。まずは気力・・・この世界では魔力か。それと体力を回復して移動しなければならない。
乗り物は無いようだし、徒歩での移動になるのか。この世界の広さや地理に関しての知識は皆無だ。方角も元の世界と同じ様に東西南北となっているのかも不明だ。どこへ向かえば良いのかはトウロの指示に従うとして、いったい徒歩でどれくらい移動しなければならないのか・・・・。
ああ、本当に元の世界に戻れるのだろうか。
そんな事を考えているうちに魔力が回復してきたのか、気分が軽くなってきた。だからと言って急にポジティブな思考になれるかといえば、そうではない。
手の中にある魔石だが、トウロは魔物を倒して得たと言っていた。この世界には魔物が存在するのだ。
出来れば遭遇したくないが、一体どのような物なのか気にはなる。魔物というくらいだから、禍々しい何かなのだろうか? 食料として使用できるのだろうか? 美味しいのだろうか? 魚っぽい魔物なら塩焼きとか出来そうかな? 牛っぽい魔物ならステーキとか・・・・。
グウゥゥゥ・・・・・腹が減った。
無駄な妄想で強まった空腹感に耐えるため、ゴロリと横になり腹に手を当て堪える。
◇
しばらくするとトウロが動物らしい何かを手に持ちながら帰ってきた。
『ヒロシ殿、待たせたな。これから食事の支度をするので今しばし待たれよ。』
トウロはそう言うと手の先を刃物の形状に変えて獲物を捌き始める。
生き物の解体を直視することには慣れていないので横目でチラ見しながらトウロに話しかける。
「トウロ、ありがとう。本当に助かるよ。」
『いや、眷属として当然のことをしたまでだ。気にすることはない。』
トウロは一瞬肩をすくめて答え、作業を続ける。
「ところで、今捌いている生き物は何?」
ウサギっぽい動物であるのは分かるが・・・異常に足が長い。
そして手際よく解体され、肉と毛皮に分けられていく。
『これは足長ウサギという低級魔物だ。繁殖力が強く食用として一般的な魔物だ。肉質は柔らかく脂肪分が少なめなので人族の女性には人気だと聞いておる。』
え?足長ウサギ・・・ネーミングが安直すぎるだろ!
そして魔物かよ。全然魔物っぽい名前じゃないけど、それに女性に人気とか、そんな情報いらないよ。
心の中でそんなツッコミを入れているうちに足長ウサギは完全な食材へと姿を変えていた。
「なるほど、魔物は食べられるんだね。でも普通の動物とかは食べないの?」
俺は心の中のツッコミを放棄しつつ素朴な疑問をトウロに投げかけた。
トウロは地面に直径50cmほどの丸いテーブルの様な石を出現させながら答える。
『魔物は一般の動物にくらべ、数が多く捕らえやすいのもあるが、栄養の面でも優れておる。また地域や宗教によっては一般動物を捕獲することを禁じている場合もあるので、一般動物を食用とすることは稀であろう。』
「つまり、この世界の主な食用肉は魔物ってことか。」
『うむ。もちろん毒性のある魔物は食用とはならないし、無機物系の魔物も基本的には食材には向かない。』
「基本的に?」
『ああ、無機物系でも岩塩やアルコールを主とした構成の魔物は食材として利用されている。』
俺はウンウンと頷き、この世界の情報を少しずつ吸収していく。
トウロは淡々と質問に答えつつ、テーブル型の石の横に自身の腕を接続して魔力を通す。
するとテーブル型の石の天板中央付近が赤熱化してきた。
トウロはそこに先程捌いた足長ウサギの肉を置き焼き始めた。
まるで焼き肉用ホットプレートみたいだな。
そんな感想を抱いていると肉の焼ける香ばしい匂いがしてきた。
トウロは何度か肉をひっくり返し全体に焼き色が付いたところで近くにあった小枝を刺し食べやすくした状態にすると俺の方を見つめ言う。
『焼きあがった様だ。食べられるか?』
「おお!旨そうだ!頂きますっ!!」
早速焼きあがった足長ウサギの肉を手に取り齧り付く。
特に調味はしていない様だが獣臭さとかは感じられない。逆にサッパリとした肉本来の旨味が口いっぱいに広がる。
「美味しい!」
俺は思わず声を上げてしまった。
空腹だからというだけではないだろう、本当に美味いのだ。食材が身体に染みこみ自身の肉や力になっていくのが感じられる。元の世界では得る事がなかった感覚だ。
今一度感謝の言葉を告げようとトウロに視線を向けると、何故か彼はこちらに向けてサムズアップをしている・・・・。
俺も苦笑いをしながらサムズアップを返す。
「美味しい食事をありがとう・・・で、こちらの世界でも親指を立てて意思表示する習慣があるの?」
異世界にもサムズアップがあるとは知らず、思わず質問をしてしまった。
そんな質問に対してトウロは答えた。
『そんな習慣はない。』
「え?じゃ、これは何かのサイン?」
『それも違う。』
「は?」
『この意思表示の仕方はヒロシ殿の世界での習慣であろう。我の役割は空間転移技師だからな。様々な異世界の文化や習慣などを空間接続することによって観察することが出来たのだ。不思議ではなかろう。』
そういえば空間転移陣を操作していたとか言っていたな。それにしてもそんな使い方も出来るのか。とんでもない技術力だと改めて感心した。
「そうなのか、じゃあ俺の世界の事も勉強してたということ?」
『もちろんだ。この肉を焼いている台もヒロシ殿の世界のホットプレートを模して造り出した。どうじゃ?違和感なかろう。』
トウロは自信満々といった様子で、再度サムズアップを決めてきた。
更新ペースは長いですが、ボチボチやっていますので楽しみにお待ちいただければ幸いです。
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