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第4話 コンビニ店員は迷宮都市名物を頼む



 迷宮主ミラーに会うためには迷宮に入らなくてはならない。

 そんな事は予想だに出来なかった。

 まさか! と思えるほどの衝撃だった。

 但し、それは俺にとってはということらしい。

 

「何をそんなに難しい顔をしてるのー? 迷宮主なんだから、迷宮に居るに決まってるでしょー?」


 固まっている俺を下から覗き込むようにマリーが言った。

 クスクスと笑いながら、さも当然といった風な表情を浮かべている。

 

 俺はてっきり、迷宮の管理人として入場する探索者の管理をしている人物だと思い込んでいた。

 もちろん、管理人なのだから迷宮入り口付近で。何らかの業務を行っているものとばかり思っていた。

 

 でも、それは見当違いであるということを案内をしてくれているガトーさんが教えてくれた。

 

「何か思い違いをされているようですので、ご説明したいと思いますが、よろしいですか?」


 どういう訳か、痛い子の面倒を見る様な雰囲気になってしまったこの場だったが、俺はあえて訊いてみた。

 

「ええ、良く分からない部分があるので詳しく教えてもらえると助かります」



「ええとですね、迷宮主ミラー様は迷宮そのものを管理する立場にあります。実際、迷宮都市と直接的な関係はございません。具体的に申し上げますと、迷宮主ミラー様が管理する迷宮の周りに人々が集まり、都市を形成して生活を営んでいるということになりますね」


 ガトーさんは、言葉の一つ一つを丁寧に噛み砕くようにして説明してくれた。

 

『うむ、その通り。ミラー殿はこの都市が作られる以前から迷宮主であった。故に、我らは迷宮に入り、ミラー殿に会いに行かねばならないのだ』


「ああ、トウロも追加説明ありがとう。何となくだけど、理解できたよ。ガトーさんもありがとう」


 完全に俺の思い違いだった。

 よく考えれば、トウロや妖精王ヌーデルさんの知り合いという時点で、普通の人であるわけがない。

 そんなことにも気付かないとは、少し疲れているのかもしれない。

 

 そんな俺の状況に気付いたのかは分からないが、ガトーさんがこの迷宮都市で人気のある食べ物を御馳走してくれるという流れになった。

 

「どうぞ、こちらです」


 ガトーさんの案内で、大通りに面した店に到着した。

 ファミレスより少し小さい感じの小綺麗な店だ。この世界に来てから初めて見るレストランに少し心躍る。

 

 カランとドアベルが鳴り、店内からは明るい店員さんの声が聞こえる。


「いらっしゃいませー! 只今お席をご案内しますのでお待ちくださーい」


「わー!ちゃんとしたレストランに来るの何年ぶりかなー」


「そうね、転移者の街には屋台くらいしかなかったから、私も五年ぶりくらいかしら。お料理も楽しみだわ」


 マリーとビエラさんも久しぶりのレストランに喜んでいる様だ。

 馬車と妖精王ヌーデルさんは店舗横にある広場が馬車置き場になっているというので、そちらで預かってもらっている。

 

 俺は店内を見回して、他の客が食べているものを観察している。

 

 ……スパゲティ? しかもミートソースが掛かっているぞ。

 

 もしかして、これが迷宮都市で人気なのか?

 まあ、異世界と言えど食べ物の進化に共通点くらいはあるのだろう。見た目は完全にミートソーススパゲティだが、同じ味とは限らない。

 もしかしたら、他の転移者が広めたという可能性もあるだろうけど、まずは食べてみてからだ。

 

 案内された席に座り、俺とマリーとビエラさんはガトーさんお薦めの料理をそれぞれ注文した。

 頼んだメニューはミートソーススパゲティ。

 名前はそのままだった。

 マリーとビエラさんは何か疑問を持っているという風もなく、静かにおしゃべりをしている。

 うーん、このモヤモヤは何だろう? やっぱりこの料理の由来くらいは確認したい。

 

「ガトーさん、このミートソーススパゲティの由来とかって分かりますか?」


「あ、はい。これは大賢者様が帰還されたときにもたらされた、異世界の料理と聞いています。何でも、大賢者様のお孫様の大好物らしいのですよ」


「ああ、なるほど。ありがとうございます。これでスッキリしました」


 俺がウンウンと頷きながら一人納得していると、ガトーさんが尋ねてきた。

 

「もしかして、ヒロシ様は異世界の方で? いえ、他意はありません。ただ、このメニューを知っている様に見えましたので」


 別に隠す必要もないだろうから、俺は正直に答えてみた。

 

「ええ。他の世界から転移してきました。このミートソーススパゲティが元居た世界にもあったので、もしかしたら他の転移者が伝えたものかと思ったもので」


「はあ、なるほど。それなら別の料理をお薦めすべきでしたね」

「いえいえ、道中では魔物の肉を焼いたものばかりでしたから逆に新鮮です」


 ガトーさんは少しだけ困り顔をしていたが、俺の言葉を聞いて安心した様だった。

 

 

 そんな会話をしているうちに料理が出来上がったのか、店員さんが慣れた手つきでミートソーススパゲティを運んできた。

 

 

 プル……プル……

 

 おや? 膝の上で何かが震えている。

 

 プルル……プルル……

 

 ん? 少しだけ震えが大きくなった、のか?

 

『ヒロシさーん! わたしにもスパゲティくださーい!』


 スライムのエミーちゃんが俺の膝の上で一生懸命に主張をしている。

 いや、無視していたわけじゃないんだけどね。

 ただ、レストランで魔物が食事をするのは如何なものかと思っていただけなんだ。

 

「エミーちゃんごめんな。ここはレストランだから後で何か食べさせてあげるよ。だから、今は少しだけ静かにしていて欲しいんだ」


『ミートソーススパゲティ食べたーい! ミートソーススパゲティ食べたーい!』


 膝の上で激しく揺れながら主張するエミーちゃん。

 それを必死に抑え込む俺。

 その様子に周りの客の視線が俺たちのテーブルに集まり、何事かと注目している。

 

「ヒロシ様、よろしいではありませんか。皆さんで召し上がった方が美味しく頂けるというものです」


 助け舟を出してくれたガトーさんに甘えて、エミーちゃんの分も追加注文することになった。

 エミーちゃんも納得した様で、大人しくなった。

 

 場の雰囲気も収まり、マリーとビエラさんは美味しそうにミートソーススパゲティを食べ始めた。

 エミーちゃんも早く食べたい様で、膝の上からスライム体の一部をテーブルの上に伸ばしている。

 

「仕方ないなー、先に食べてもいいよ。エミーちゃん」


 俺の前に配膳されている皿をエミーちゃんが届く位置までずらして、先に食べてもらうことにした。

 

『ヒロシさん、ありがとう! いっただきまーす!』


 器用にスパゲティを食べ始めるエミーちゃん。

 しかも、きちんと頂きますをしてから食べている。うん、良い子だ。

 

 すると、ガトーさんが耳打ちをしてきた。

 

「このスライム、言葉を話せるのですか? 念話とはいえ、人語を使えるスライムは初めて見ました」


 俺も小声で答える。

 

「あ、ああ。詳しくは俺もわからないんだけど、元は人間らしいから人語が話せるみたいなんだ」


「なるほど、特別な事情がおありの様ですね。そちらに関してもミラー様にご相談なさってみてはいかがでしょう?」


 そうか! 妖精王ヌーデルの身体を修復する技術をもっているというミラーさんならば、何か分かるかも知れないな。

 俺はガトーさんに改めて、エミーちゃんのこともお願いしようとした、その時だった。

 左腕の腕輪から微かな雰囲気を感じ、そちらに意識を向けた。

 

 

『ハハハハ! ヒロシ殿よ、我は最初からミラー殿に相談する腹づもりであった。なーに心配はいらぬ、我が付いているのだからな。ハーハハハハハ!』



 突然、トウロの俺たちにしか聞こえない"言葉"が響く。

 

 マリーは手にしていたフォークを落とし、ビエラさんは美しい面貌を歪め、エミーちゃんはビクンとスライム体を跳ねらせた。

 ガトーさんも肩をすぼませハッとした表情になっている。

 俺も苦笑いの表情を浮かべて俯いてしまった。

 

 俺たちのテーブルだけ時が止まったように固まってしまったのだ。

 迷宮都市に於いても、石魔人トウロニギスの存在感は偉大であった。

 

 

 

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