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第3話 コンビニ店員は迷宮都市へ入る



 森の出口付近で野営をした一行は、翌早朝には迷宮都市へ向かう準備を始めた。

 トウロの話によると、ここから半日程度で到着するらしい。

 

 さて、トウロをどうしようか?

 転移者の街に入るときは、魔物と間違えられる恐れがあったので、腕輪スタイルの装身具に変化させ俺の腕にはまっていた。

 今回も、そうすべきだな……と、考えてトウロに声を掛ける。

 

「なあ、トウロ。迷宮都市に入るときは、また腕輪スタイルになるんだよな?」


『うむ、その方が良かろうな。何せ、人族は魔人族と魔物の区別も出来ぬからな』


「それじゃ、出発の準備が整ったら教えてくれ」


『わかった。で、御者はビエラ殿に任せても良いか?』


 俺は、集めてきた草を馬に食べさせているビエラさんをチラリと見て、了承の意を伝えた。

 

「あと、スライムのエミーちゃんはどういう扱いになる?」


 俺の腕の中でぷにぷにしているエミーちゃんは絶滅していると言われているスライム。

 そもそもスライムが絶滅するなど、信じられない話だが、それでもこの世界では、そういう事らしい。

 人前に晒しては不味いだろう。

 なので、一応トウロに訊いてみた。

 

『従魔で、良いのではないか?』


「え? それでいいのか? 絶滅危惧種なんだろ」


『問題なかろう。珍しい魔物をテイムして従魔とする者もおる様だ。そもそも、人族が数百年単位の魔物の生態を把握しているとも思えん。我の様な体躯だと警戒される恐れがあるので対処は必要だが、スライムなら警戒する者もおらんだろう』


「なるほどな。それなら、俺の従魔ということでいいのかな? エミーちゃんもそれでいいか?」


 俺は腕の中でぷにぷにしながら、話を聞いていたであろうエミーちゃんに声を掛ける。

 

『うわー! ヒロシさんの従魔になれるの? 従魔になると、ずっと一緒に居られるんだよね? 従魔になるー従魔になるー!』

 まあ、ある程度は予想はしていたが、ここまで喜ばれると少し照れる。

 俺は頭を掻きながら、従魔にするための手続きをトウロに尋ねた。

 

『そうだな、通常は従える為に主従関係の術式を刻み、主の命令に従う様にするのだがな。エミー殿は意思疎通が出来る故、必要ないであろう』


 そうか、普通の魔物は意思の疎通が出来ないらしいから、従魔の術式を刻む必要があるけど、エミーちゃんに関しては不要ということか。

 そういえば、エミーちゃんに魔力を通そうとすると阻害されるんだったな。そもそも、術式を刻むことすら出来ないわけだ。

 

「ああ、分かった。んじゃ、このままで良いってことだな」


『うむ、問題なかろう』



 よし、これでトウロとエミーちゃんの件は片付いた。

 あとは、現地でどのような手続きがあるかだが、それは行ってみなければ分からない。

 

 その後、出発の準備が整ったのを確認する。

 

「こっちは準備オッケー!わくわくするねー」


「馬車の準備は問題ないわよ。ヒロシちゃん」


『わたしはーヒロシさんのージューマー。いつもーいっしょーなのー』


"──手間を掛けさせて申し訳ない。この身体が元に戻ったら、きっちり元の世界へ送り届けるので、宜しく頼む"


『うむ、こちらも準備完了だ』


 約一名、現状は一匹か。スライムのエミーちゃんが謎の歌を口ずさんでいるが、他のみんなは準備が出来た様だ。

 

 俺はトウロに近寄り、ゴーレムボディに触れる。

 魔力を流しつつ、腕輪のイメージを強く思い浮かべるとトウロのゴーレムボディが液体金属の様になり、俺の左腕へと移動する。

 どの様に体積や質量が変化しているのだろう? などと考えているうちに俺の左腕には、以前と同様の腕輪スタイルのトウロが嵌っていた。

 

「よし、これで準備完了だな。出発だ!」


 俺たちは馬車に乗り込み、森の街道を迷宮都市まで半日ほどの時間をかけて向かった。

 

 

 ◇

 

 

 森を抜け、しばらくすると迷宮都市の外壁が見えてきた。

 古びてはいるが、石造りの頑丈そうな外壁だ。

 全体に蔦が覆っていて、歴史を感じさせる。そんな印象だった。

 

 迷宮都市への入り口には数台の馬車が並んでいる。

 恐らく、中に入るための手続きをしているのだろう。

 俺は、辺りを見回してからビエラさんに声を掛けた。

 

「あの列に並んで受付を待てばいいのかな?」


「多分そうね。私たちも列に並びましょう」


 御者台のビエラさんは、そう言うと手綱を緩めて迷宮都市の入り口へと馬車を進ませる。

 ガラガラと鳴る馬車の車輪の音を聞きながら、入り口付近をぼんやり眺めていると、トウロから声が掛かった。

 

『出迎えの者が来たようだな。一度止まった方がよかろう』


 トウロの言葉に御者台のビエラさんは、太めのアイラインで彩られた目を少しだけ細めながら手綱を引き絞り、ゆっくりと馬車を停止させた。

 俺はリラックスしている体を保ちながらも、周囲の気配に注意して出迎えの者を探す。

 

「あっ!」


 馬車の荷台。妖精王ヌーデルさんが入っている石箱を挟んで向かい側に座っているマリーが、軽く身を跳ねさせ小さく声を上げた。

 マリーの視線は俺の背後に向けられている。

 何の気配も感じる事が出来ないまま、マリーの視線が示す意味を理解し、ゾクリと背筋が震えた。

 

「驚かせた様で申し訳ありません。トウロニギス様の先触れに応じ、参りました。迷宮主ミラー様の使いでガトーと申します」


 背後から聞こえたその声に、硬くなった背筋をゆっくりと動かし振り向くと、目深にフードを被った外套姿の男が立っていた。

 トウロは感付いていた様だったが、俺はこのガトーと名乗る者の気配に気付けないでいた。

 目の前に立つ得体の知れない存在に少しだけ警戒しながらも、出迎えの者であるということを意識しつつ応える。

 

「お出迎え、ありがとうございます。俺はヒロシといいます。迷宮都市へ入る為の手続きをしてもらえると聞いているんだけど?」


「はい。ヒロシ様、マリー様、ビエラ様が都市内へ入る手続きはすでに終えております。トウロニギス様は偽装されておられる様ですし、ヌーデル様もそちらの箱の中に居られる様子。問題なく門を通ることが出来ます……で、そちらは?」


 迷宮主ミラーの使いガトーは都市内に入る手続きを終えたことを伝えると、フードの中の視線を俺の膝の上へと向けた。

 

「あ、ああ。これはスライムのエミー。一応、俺の従魔という扱いなんだけど、大丈夫?」


 ぷにぷにと身体を揺らすエミーちゃんを抑えながら、ガトーさんに確認を入れる。

 

 ガトーさんは顎に手をやり、少し考えている様子。

 そして、スライムのエミーちゃんを見つめながら何度が頷くと、フードから覗く口端を上げながら答える。

 

「いやー、スライムとは珍しい。絶滅していたと聞いていたのですが、現存していたとは。いえ、従魔としてご一緒に都市内へ入ることに関しては問題ありません。人族は、魔物の存亡について頓着しておりませんから」


 俺の話を聞いていたのかは定かでないが、問題なく都市内へ入れるということは確認できた。

 

 その後、ガトーさんの案内で迷宮都市入り口へと向かい、何の問題もなく通過できた。

 ガトーさんが優秀なのか、ミラーさんの影響力が大きいのか、定かではなかったが、この段取りの良さには感心させられた。

 

 

 迷宮都市内に入った俺たち一行。

 まずは、人の多さに驚いた。

 

 行き交う人々。背中には大きな荷物を背負い、腰には帯剣をしている。そんな姿の人が多かった。

 

「みんな、大きい荷物を背負っているなあ」


 俺は見たままの感想を独り言の様に問うてみた。

 すると、ガトーさんは、この街の特徴であろう事柄を説明してくれる。

 

「そうですね、この都市では迷宮から産出される素材が主な産業でして、迷宮探索者として登録された人達が多いのですよ。なので、迷宮で得た素材や鉱物資源などを成果としてギルドに収める姿をよく見かけますね」


「なるほど。でも、迷宮と言うくらいだから危険もあるんですよね?」


 ガトーさんの応答に再び疑問をぶつけてみた。

 

「探索者の経験にもよりますが、やはり深部へ行けば行くほど危険は増しますね。でも、心配はいりませんよ。迷宮内は私が案内しますので」


「え? 俺たちも迷宮に入るんですか?」


 迷宮内を案内してくれるというガトーさんの言葉に、旅行のオプションじゃあるまいに……などと思いながら言葉を返した。

 すると、腕輪スタイルのトウロが、何を言っていると言わんばかりに伝えてきた。

 

『ヒロシ殿、迷宮に入らなければミラー殿には会えんのだぞ。何せ迷宮主なのだからな』


 その言葉を理解するために、俺は表情を硬くしないではいられなかった。

 

 

 



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