第1話 コンビニ店員一行は絶滅危惧種を見つける
前章までのあらすじ
異世界に転移したコンビニ店員ヒロシが、魔王討伐に参加して強くなって、妖精王を救って、西に進むことになった。
今話から迷宮都市編スタートです!
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魔王討伐という名の妖精王救出劇を終えた一行は異様な雰囲気を背に受けながら、西へ向かって馬車を走らせていた。
目指す場所はバラン王国領にある迷宮都市。
封印されていたクリスタルの浸食によって、重要な器官を失った妖精王ヌーデルを完全な状態に戻すため、迷宮都市に居ると言われているミラーという人物を訪ねるというのが目的だ。
妖精王ヌーデルはホムンクルスの肉体を持つ、次元間の魔力の流れを統べる者。
それは小規模な転移から、大規模な異世界間の転移までを管理する立場にあるということだ。
しかし重要な器官を失った状態では、新たに転移の術式を作り出すことは出来ず、俺とマリー、ビエラさんを元の世界に帰還させることは不可能だと言う。
そこで迷宮都市に居るミラーという人物にホムンクルスである妖精王ヌーデルの器官を再生してもらい、その後俺たち三人を元の世界へ転移してもらうという段取りになっている。
そういった経緯から、俺とトウロとマリー、ビエラさんと妖精王ヌーデルは、馬車に揺られバラン王国領を進んでいる。
『おそらく次の森を抜ければ、迷宮都市へはすぐに着くであろう』
御者台のトウロが荷台に居る俺たちへ伝えた。
当初は歩いて来る予定だったのだが、ビエラさんからの情報で輜重隊が残した補給用の物資と馬車を手に入れた。
おかげでここまでの道中、楽が出来たというのが本音だ。
「いよいよだねー。どんな街なんだろうね、ヒロシ」
「いや、俺に振るなよマリー。俺だって、こっちの住人じゃないんだからさ」
マリーのいつもの軽口に俺も軽口で返す。
そういえば、マリーとの関係も随分気楽な感じになってきた。
軍属としてのマリーの働きには正直、目を見張るものがあってとても頼りにしていた。
しかし、最近は俺の事を頼りにしてくれている部分もあって、一方的に頼るという上下関係が薄れたというのも要因の一つなのかもしれない。
「そういえば、トウロさん。迷宮の近くでは魔物の気配が濃くなるって聞いたことがあるんだけど、どうなのかしら? この先の森では少し警戒しておいた方が良いのかしらね?」
美しくメイクされた面貌に筋肉の鎧を纏った人物、転移者の街で武術指導を行っていた元教官のビエラさんが、トウロに尋ねた。
『そうだな、少しだけ警戒レベルを上げるだけで問題なかろう。最悪、我が前に出ればすべては解決だがな。ハハハハハハハ!』
俺たちだけに聞える言葉で、高笑いを上げるトウロ。
今までの様子から、トウロの身体に触れることで会話が可能になるっぽい。
そんな訳で、トウロが高笑いを上げたところで周囲の静寂が破られることは無い。
馬の蹄の音と地面を転がる馬車の車輪の音だけが、森の入り口に響いていた。
森の中に続く街道を進むと、徐々に魔物の気配が濃くなる。
しかし、俺たちの只者ではない気配に魔物たちも警戒しているのか、その姿を現すことはなかった。
「森に入ると、足長ウサギを食べたくなるんだけど、これだけ怯えられてたら難しいよな」
俺が独り言の様に呟いていると、タイミングよく少し先の草むらから何かが飛び出してきた。
お、噂をすれば何とやら……と一瞬思ったが、飛び出してきた魔物は足長ウサギではなく、低級魔物として有名なスライムだった。
俺が少しだけガッカリしていると、トウロはスライムを見つめながら感心したように伝えてきた。
『ほお、スライムとは珍しい。二百年ほど前に絶滅したと聞いていたのだが現存していたとはな』
トウロの言葉に、そういえばこの世界に来てからスライムを見るのは初めてだったことに気付いた。
異世界ではデフォルトな存在だと思っていただけに意外だった。
「へー、スライムって絶滅危惧種なのー?」
マリーも俺と同様に、スライムは偏在するものと思っていたらしく、少し驚いている様子だった。
『うむ、この個体は非常に貴重なものとなる。討伐せず、このまま見逃してやろうではないか』
「えー。可愛いから連れて行こうかと思ったのにー」
『それは無理じゃな。低級の魔物とは意思の疎通は出来ぬ故、手を出すと間違いなく攻撃されるぞ』
マリーの無茶な要望にトウロはピシャリと釘を刺す。
「可愛いのは俺もわかるけど、流石に魔物は連れていけないからな」
追い打ちをかけた俺にマリーは、鋭い視線で何かを訴えかけるように見つめてきた。
「そんな顔してもダメなんじゃないか? なあ、トウロ」
『うむ、ヒロシ殿の言う通り。意思疎通が出来ない以上連れては行けないであろう。マリー殿、今回は諦めた方がよかろう』
流石のマリーも俺とトウロから、これだけ言われたのだ。きっと諦めるはず。
そう思っていると、石箱の中に居る妖精王ヌーデルが語り掛けてきた。
"──少し待って……あのスライム、何かを伝えたがっているみたい"
え? 何かを伝えたがっているって、意思疎通できるのか、あのスライムは。
俺はヌーデルの言葉にそんな疑問を持ちつつも、意識をスライムに集中してみる。
『……良いニオイがします……ワタシはこの……ニオイと一緒に居たい……』
──えっ?
本当に意思を持ってこちらに語り掛けている。
これはどういうことなんだ? と、トウロに視線を向けると
『何やら不思議なスライムじゃな。ここはひとつ交渉出来るか試す価値がありそうじゃ』
という事らしい。
マリーは喜色を浮かべ、何やら両手をワキワキさせている。
そこで俺は馬車から降りてスライムに近付き、声を掛ける。
「そこのスライムさん、俺の言葉が分かりますか?」
『……ハイ、分かります……』
お! 言葉が通じた様だ。
ならば、交渉が出来そうだな。何か訳ありなのかもしれない。
「俺たちはスライムさんに危害を加えるつもりはない。何か事情があるなら、話してもらえるかな?」
『……ワタシも害意はありません……アナタから出ている……このニオイに釣られて……スガタを見せてしまいました……』
「ニオイって、俺の?」
『……ソウです……アナタのニオイ……好き』
「まさか、美味そうなニオイとかじゃないよね?」
『……違います……アンシンするニオイ……大好きなニオイ……アナタと一緒が……いい』
どうも、俺のニオイとやらに惹かれて出て来てしまったらしい。
というか、懐かれてしまったのだろうか……。
さて、どうしよう? そんな風に俺が悩んでいると、トウロがスライムに進言してくれた。
『スライム殿、我は石魔人族のトウロニギス。何か事情があるものとお見受け致す。我が主、ヒロシ殿と同行されたいということらしいが、ニオイ以外で何か理由はあるのだろうか?』
『……思い出せないのです……なぜワタシがココにいるのか……なぜ、このニオイに惹かれたのか……全てが分からないのです』
意思を持ち、俺のニオイが好きだというスライム。しかし、それ以外何も分からないという。
それにしても人間臭いというか、訴えかける様な仕草が魔物とは思えない様に感じた。
"──どうやら呪いの術式が掛けられている様だな。保護して、対策を講じる必要があるかもしれない。どうするトウロニギス殿"
妖精王ヌーデルはスライムに掛けられた術式を察知し、そのことを伝えてきた。
それを聞いたトウロは「うむ」と一度頷き、スライムに向けて言う。
『少々複雑な事情がある様だな。我らと同行することを認めよう』
「……アリガトウ……石魔人族のトウロ……ニギスさん……」
トウロはスライムにそう告げると俺に向かい、一度頭を下げてから言った。
『ヒロシ殿、勝手な判断をして申し訳ない。しかし、我にも少し気になる点があって了承した』
「いや、問題ないよ。別に害がなければ連れて行っても良いと思っていたし」
俺はスライムに視線を移し、更に意識を集中してみる。
確かに魔力的な術式によって、色々制限が掛かっている様にも見える。だが、それ以上のことは分からない。
「やったー! スライムちゃんと一緒に旅が出来るー」
俺たちがアレコレ思案していると、マリーが喜び勇んで馬車から飛び降り、スライムを拾い上げた。
スライムも嫌がることなく、抱き上げられた。
抱き上げた直後、一瞬ピクリとしていたマリーだが、スライムの感触に驚いたのだろう。
その様子を眺めながら、微笑ましくも子供っぽいマリーの姿に一時の安寧を感じていた。
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誤字報告ありがとうございます。修正いたしました。




