第3話 コンビニ店員と魔人ゴーレム
それならば問題はないのか・・・・。
少し怖い気もするが、やはり他の選択肢はない様だし眷属契約とやらに応じてみよう。
「わかった、トウロニギスさん・・・・と眷属契約を交わし協力しよう。それが元の世界に帰るために必要なのなら。」
『疑わしく感じているのは分かっておる。しかしこの場は信じて欲しい。そしてお主を利用してでも、今ある状況を変えなければならぬということも正直に伝えおくことにする。』
そうだろうな。動けない《石ころ》じゃ本人(本石ころ?)だって困るわけだし、それはお互い様的な考え方で良いんじゃないだろうか。
「それは仕方のない事だと理解してます。で、具体的にはどうやって契約を?」
出来れば痛いのとかは勘弁してほしい。よくあるファンタジーな話では血液を介して何かしらの契約をするというのを目にしたことがあるからだ。
『では、手順を説明しよう。まず契約媒介が必要だ。ここにあるものだと・・・・そこに生えている樹木の小枝が良いだろう。この森に生息している樹木には魔力との融和性がある。問題なかろう。』
『通常は魔鉄や魔銀などを用いるのだが、ここで贅沢は言えぬ。魔力パスの太さが若干変わる程度だ。今は気にすることはない。』
トウロニギスの説明を受け、近くに生えている樹木の長さ30センチくらいの小枝を一本、パキリと折って手元に握る。
「これで大丈夫?」
太さや長さの指示がなかったので、適当に折ってきたがこれで良かったのだろうか?一応聞いてみた。
『ああ問題ない。その枝を我の上に突き立て"トウロニギスを眷属とし、我が支配によって使役する"と念じろ。』
痛そうな事はないようで安心した。でも、そんな簡単なことで契約成立とか少しチョロいんじゃないのか?と疑念を抱きつつも指示に従った。
小枝を黒光りする《石ころ》の上に突き立て握りしめると、手のひらから腕にかけてドクンドクンという脈動に似た感覚を覚えた。その脈動は自身のモノなのか、目の前の《石ころ》のモノなのかは判然としないが、続けて言われた通り念じる。
"・・・・トウロニギスを眷属とし・・・我が支配によって使役する・・・・"
すると、先ほどまで感じていた脈動が徐々に早まり、ついにはザーッという流れへと変化していく。特に痛みや異常は感じないが、様々な情報が脳内に流れ込んでくる感覚があった。
トウロニギスという存在、この世界の基本的有り様、眷属契約の本質。そんな情報が染みこむ様に流れ込んできた。
そして最後に・・・・・
"・・・我が主として認め、眷属として使役されることに同意する・・・"
と、トウロニギスの意識と思しき念が伝わってきた。同時に石魔人族の特徴や性質など、使役する際に必要な力の配分などが先程同様に脳内に流れしみ込んできた。
それと俺自身の力というのも実感できた。この世界で通じる俺の力。魔力と言われているのだろう、ぼんやりと理解できる。実際、どこまで通用する力なのかはわからないが。
先程から感じていた情報の流れは徐々に収まり、元の脈動に似た感覚が戻ってきた。そろそろ終わりなのか?と思った瞬間、握られていた小枝の質量感がフッとなくなり、淡く光りはじめた小枝は粒子となって拡散し空中に溶け込んでいった。
元の世界では見たことのない幻想的な光景に息を呑んだ。
『よし、これで眷属契約は成された。』
トウロニギスの言葉によって無事契約が交わされたのを理解した。
ふぅとため息をこぼし、張りつめていた緊張をほどきながら《石ころ》を見つめる。特に変化はないようだが、これでいいのか?
「ああ、契約出来たようだが何が変わった?というか何をすればいい?」
確かに眷属や使役に関することはことは情報として流れ込んできたので、いつでも使役することは出来る。だが、現状これからどうすれば良いかという部分については皆目見当もつかないので聞いてみた。
『うむ。まずは我が動けるように指示して欲しい。それが出来なければここから移動すら出来んからな。』
本当に動けるようになるのか?という疑問も浮かんだが、とりあえず指示してみる。
"我が眷属トウロニギスに指示を与え使役する・・・・その身を示し使役に従事せよ・・・・"
自然に必要な言葉が紡がれ思念となってトウロニギスに伝わる。
同時に違和感が身体を襲う。
「うっ・・・・何だこれは、気持ち悪い。」
身体から魔力が吸い取られているのだろう、使役の情報にもその様なことが記されていた。それにしてもこれは気持ち悪い。気分がどんどん落ち込んでくる。
このままだと気を失うのではないだろうか・・・・・と額に汗を浮かべふらついた次の瞬間、何者かに体を支えられた。
『主よ、大丈夫か?』
その言葉に意識を向け確認すると、そこには黒光りをした硬質なロボットっぽい何かが居た。いや、ファンタジー的に言うならゴーレムなのか。とにかくそんな感じのモノに体を支えられ、転倒を免れた。
「トウロニギス・・・さん?」
呆けた表情で目の前の状況を確認する。黒光りした肢体、それは先程まで動かぬ《石ころ》と同質のものだ。ということはアレが動いたということだろう。
『うむ。その通り主の眷属トウロニギスに間違いない。だがアレだ・・・我に敬称など不要。気安くトウロと呼んではくれまいか。』
「ああ、ありがとうトウロニギ・・・トウロ。それにしてもこんな風になるとは思っていなかった。」
急に気安く呼べと言われて若干困ったが、一応そういう仕来りなんだろうということで納得する。
そして、決して軽くはない俺の身体をしっかり支えてくれているあたり、十分な力を有している様だ。これなら、この先の生活にも色々役立ってくれるだろう。
だが今は気持ち悪い・・・・。仕事明けとこれまで起こった緊張による疲労が一気に気持ち悪さを加速させている様だった。
『主・・・いや、ヒロシ殿と呼べば良いか?今はここで横になり、失った魔力と体力を回復すべきかと思うが。』
「ああ、そうさせてもらえると助かる・・・・・というか俺の名前がわかるのか?」
一応聞いてはみたものの、それも当然かと理解した。それは先程の眷属契約の際、互いの呼称や立ち位置など基本的な情報も含まれていたからである。更にトウロと繋がっている今では、お互いのコンディションくらいなら意識せずとも伝わるのだ。
『わかった。まずはここで休んでいてくれ。その間、我は滋養に効くものを用意しておく。ヒロシ殿が弱っていたのでは何かあったときに対応も出来まい。それでよろしいか?』
トウロは黒光りしたゴーレムボディを器用に動かし、柔らかな草の上に俺を横たえると、顔と思しき位置に存在する淡く光る青い双眸をこちらに向けて尋ねてきた。
初めて見る人間っぽい動作に少し驚いたが、トウロの提案に同意して頷いた。
「よろしく頼む。」
俺がそう言うとトウロはググッと立ち上がり、周囲を軽く見渡すと鈍重そうに見えるゴーレムボディの割に軽快な足取りで森の中に消えていった。
横になりながらトウロが向かって行った方向を見つめることしばし・・・・トウロが帰ってきた。
早すぎる!何を用意してくれるのかは知らないが早すぎる。まだ数分しか経っていないのだ。俺は驚いた表情で、ズンズン近づくトウロを凝視する。
俺の側まで来たトウロは目の前で跪き・・・
『ヒロシ殿、これを』
とトウロが差し出してきたのは、紫色をした小さな木の実が数個と卵くらいの大きさの赤い透明感のある石が一個だ。木の実はわかる、多分食べるのだろう。・・・・石は何だ?さすがにこれは食べ物ではないだろう。
そんな疑問を抱きつつトウロの方を見ると、何故か誇らしげに視線らしき青く光る双眸をこちらに向けてきた。
「この石は食べ物ではないよね?」
と、トウロに対して率直に聞いてみると、待ってましたとばかりに答える。
『ふむ。それは魔石の一種で食べ物ではないが、持っているだけで体力が回復するという貴重なものだ。魔物が我の気配に気付き襲い掛かってきたので軽く返り討ちにしたところ、その様なモノを持っていた。あって不便はないだろう。』
トウロは自信たっぷりに魔石の説明をしてきた。
あ、こいつ褒められたくてすぐに引き返してきたのか?そんな予想も大筋では当たっているのだろう。その証拠に俺が何か反応を示すまで、ジッと待ち続けていたのだから。




