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第28話 コンビニ店員はギョッとする



 俺たちは魔王城と呼ばれていた妖精王の居城を後にして、ミラーという人物に合う為に移動を始めた。

 案内役はもちろんトウロ。妖精王が入った石箱を担ぎながら、先頭を歩く。

 それに続き、俺とマリーが付いて行くという形だ。

 

 月明かりに照らされた林の中は、歩くのに不自由がない程度には視界が開けていた。

 本来ならば、静寂が支配する時間帯なのだろうが、俺たちが踏みしめる草木の音が辺りを騒がしくしている。

 

 

 しばらく進んだところで、ちょっとしたスペースと身を寄せるのに丁度良い倒木があった。

 

『ヒロシ殿、そろそろ休憩の頃合いであろう。ここで朝まで休み、身体を休めてから改めて出発するのが良いと思うが?』


「そうだな、流石に辛くなってきた。眠気もそうだけど、腹も減った。携帯食を食べて少し寝かせてもらうよ」


『マリー殿はどうじゃ? 魔石の効果で体力は回復したと思うが』


「そうだねー、この魔石を持っていると全然疲れないんだよね。というか、城を出るときより明らかに体力が回復しているとか、こんな便利アイテムを持っていたとか、やっぱりヒロシはチートだわー。でも、腹ペコと眠気はそろそろ限界かな」


 トウロの気遣いで、生身の俺たちは休むことになった。

 何か獲物を確保しようか? と、トウロが提案してくれたが、早く寝たいということもあって、個人用に配布された二個入り携帯食の一つを食べるだけに留めた。

 

 眠気と食い気に支配された俺とマリーは、無言のまま食事を終えた。

 一息ついたところで、周囲の警戒はトウロに任せることにして、生身勢二人は出発時に支給された外套に身を包み倒木に身を寄せて眠りに落ちていった。

 

  

 ◇

 

 

 モゾリとした動きが背中に伝わる。

 未だハッキリしない意識のまま、その動きの正体を確かめるべく寝返りを打つと、目の前には幸せそうに眠るマリーの顔があった。

 

 ──マリーってこんなに可愛かったっけ?

 

 そんな感想が胸中に浮かぶ。

 マリーに対して、今まで意識したことのない感覚だった。

 じんわりと心が温かくなるような錯覚を覚え、しばらくの間マリーの寝顔を見つめていた。

 

 それでも、自然と俺の意識は輪郭をハッキリとさせる。目の前にある景色をもっと眺めていたいという欲求を尻目に。

 

 そんな俺の気分を察したのかトウロが声を掛けてきた。

 

『少しは休めたか? ヒロシ殿』


 俺は首だけをもたげ、トウロに向き直る。

 

「ああ、良い感じに休めたよ。俺たちが寝ている間、何か変わったことはなかったか?」


『うむ、特に危険なことはなかったが、ここからしばらく進んだところに何者かが居るようだ。魔力が希薄すぎて詳細は分からぬが、恐らくは人族であろう』


 もしかして、王国騎士団の誰かが逃げ延びているのかも知れない。

 仮に接触するとしても、今回の魔王討伐が何らかの策謀である可能性が濃厚となった今、不用意なことは出来ないだろう。

 ならば、俺かトウロが偵察に行って何者かを確認してからということになる。

 

 俺は、少し考えてからトウロに答える。

 

「うん、わかった。王国騎士団の可能性もあるから慎重に進まないといけない。朝食後に一度偵察をして、それから判断しよう」


 まあ、腹が減ってはなんとやらというやつだ。

 俺は、そうトウロに告げると身を起こし伸びをした。

 

 気持ちよさそうに伸びをしている俺を見つめ、トウロは少し呆れた様子で言ってきた。

 

『ヒロシ殿、時はすでに昼前。朝食には、やや遅い時間帯かと思うが?』


 その言葉に、俺は伸びをしたまま固まり木々の隙間から空を見る。

 

「あ……」


 朝のそれとは全く違う雰囲気の日の光が、俺たちを燦々と照らしていた。

 

 

『いや、問題はないであろう。昨夜は遅くまで歩いていたのだからな。それより、これからの行動の為にもしっかりとした食事を摂った方が良いだろう。付近の魔物を狩って来ようと思うが、良いか?』


 トウロは俺が爆睡していたことにフォローを入れ、食材を確保してくれると言う。

 

「そうしてくれると助かる。トウロが狩りに行っている間は俺が周囲の警戒をしておくよ」


 俺の言葉にトウロは立ち上がり、辺りを見回してから、その鈍重そうな体躯とは裏腹に軽い身のこなしで林の奥へ行ってしまった。

 

 トウロが視界から消えたのを確認して、俺も一度立ち上がり周囲を見回す。

 マリーは相変わらず幸せそうな寝顔で爆睡中である。

 妖精王が収まった石箱は倒木に立てかけてあり、すぐに持ち歩ける状態になっている。

 一応、周囲の警戒ということなので、軽く眼に魔力を通して辺りを窺う。

 

 すると周りの草木や小さな羽虫にも僅かながら魔力を感じることが出来た。

 ふわりとした薄緑色の魔力。

 害意のない、調和した魔力。かといって弱々しくはない、生命力を強く感じる波動。

 

 それに近い波動が妖精王が収まっている石箱からも感じた。

 より濃い緑白色に輝く魔力に少しの間、見入ってしまった。

 

 ならばと思い、次にマリーにも魔力を通した眼を向けてみる。

 身をよじりながらも眠っているマリーから感じられる波動は赤みを帯びた温かな魔力だった。

 しかもその流れは周囲の空間を巻き込みながら、力強くうねる魔力だった。

 それは明らかに付近の空間にある魔力とは異なっているのに気付く。

 

 ──どういう事なんだろう?

 

 そんな疑問を持ち、自身の魔力を確認してみると……

 

 白、緑、青、赤、金……様々な色が輝度を変えながら複雑に絡み合い、ゾッとするような速度で俺の周囲の空間を巻き込みながら渦巻いている。

 俺は一瞬、自身の眼を疑ってしまった。

 

"──ヒロシ殿、何を驚いている?"


 俺が魔力を通した眼で自身を見ていると、そのことに気付いたのか、今まで石箱の中で静かにしていた妖精王ヌーデルが伝えてきた。

 

「いや、俺の魔力がとんでもないことになっているみたいで……」


"──ハハッ! お主の魔力は面白いからな、驚くのも無理はないだろう。かなり特殊だからな。しかし、私はこれに近い魔力を持つ者を知っている。もちろん悪い意味ではないぞ"


「そ、それはどういう?」


"──フフ、それを今教えてはつまらないだろう? 直に会う事になるはずだ。それまで楽しみにしていれば良い"


 愉快そうにはぐらかす妖精王だったが、とりあえず何か悪い予兆とかではないことは分かった。

 俺は眉根を寄せて、わざと困惑の表情を作りながら石箱の中にいる妖精王に視線を送った。

 俺の視線に気付いたのか、妖精王ヌーデルは話の流れを変えてきた。

 

 "──そろそろ、トウロニギス殿が戻って来る頃のはずなのだがな、どこで道草を食っているのやら"

 

 そういえば、俺があれこれ見回し始めてから結構な時間が経っているような気がする。

 もしかしたら、食材となる魔物が近くに居なくて少し遠出しているのかも知れない。

 俺がそんな風に考えを巡らせていた時だった。

 

 林の奥。先程トウロが言っていた何者かが居るらしい方角から激しい戦闘音が響いてきた。

 

「──!!」


 一瞬、そちらへ向かおうとする俺だったが、寝ているマリーと石箱の中で身動きの取れない妖精王を置き去りに出来ないことを思い出し、その場に踏みとどまった。


 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 しばらくの間続いた戦闘音も収まり、トウロが戻ってきた。

 俺は何があったかをトウロに問いただそうとして、その後ろに続く存在に、本能的にギョッとなってしまっていた。

 

 

 

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