第27話 コンビニ店員は魔王討伐を振り返る
俺たちが城から出ると、見知らぬ人物が城の一番高いところに居た。
いち早くその気配に気付いたトウロは、俺たちにしか聞こえない"言葉"で誰何をその人物に問うた。
すると、その"言葉"が届いたのか反応があった。
「……久しぶり……ダナ……。トウロニギ……ス」
それは酷く聞き取り辛い音声で、到底人が発したものとは思えなかった。
しかし、その言葉の意味を理解して、俺はトウロに尋ねた。
「トウロ、お前の知り合いなのか?」
トウロは、ほんの少しの間を置いて答えた。
「……うむ。よく知る人物なのだがな、こうして会うのは初めてじゃ」
歯切れの悪いトウロの返答に石箱の中の妖精王ヌーデルも口を挟む。
"──私もあの魔力には覚えがある。しかし、奇妙なこともあるものだな"
二人の要領を得ない発言に俺が頭を掻きながら、どうしようかと悩んでいると、横に居たマリーが助け舟をだしてくれた。
「ちゃんと意味が分かる様に説明して欲しいなー。ほら、ヒロシだって困っているんだよー」
マリーの言葉にトウロは城の上の人物を見つめながら言った。
『……そうだな。まず、奴に敵がい心はない。そして、不思議なことに、奴は──ヒロシ殿だ』
「へ?」
「えっ?」
俺とマリーはトウロの言葉に素っ頓狂な声を上げてしまった。
続いて妖精王ヌーデルも補足する様に伝えてきた。
"──トウロニギス殿の言っていることに間違いはない。私の居城の上に立っている人物はヒロシ殿だ"
「何を言っている。俺はここにいるだろう?」
"──確かにお主はヒロシ殿だ。しかし、同じ魔力の波長を持つあ奴もヒロシ殿。トウロニギス殿の"言葉"を聞くことが出来たのも証拠の一つ。間違いはない"
俺たちが困惑の中、推論を重ねていると城の上に立つ当人の様子が変化した。
背中から巨大な蝙蝠の様な翼を広げ、今まで隠れていたのだろう柔軟に動く尾をくねらせ始めた。
「古き……友、トウロニ……ギスよ……再会デ……きたこと、嬉しく……思う。この……再会の意味……ヲ……知る……その時ま……デ、しばしの別れ……ダ」
相変わらず聞き取り辛い声で、もう一人の俺と思われる人物は、そうトウロに告げると巨大な翼をはためかせ、猛烈な風のうなりと共に上空の彼方へ飛び去ってしまった。
◇ ◇ ◇
「一体、どういう事なんだ?」
俺は今しがた起きた事態をトウロに尋ねた。
『うむ。我にも理解しがたい状況なのだ。だが、奴は"古き友"と我の事を言っていた。ならば、我々にとっての今は奴にとっての過去になるのやも知れぬ』
「未来のヒロシがタイムスリップして来たってことなのかな?」
トウロの説明にマリーが自身の推測を付け加える。
だが、トウロはそれは可能性の一つであるとしか答えなかった。
実際、判断材料が少なすぎた。
『しかし、あの姿……竜人そのものであった。千年以上前に絶滅したと言われる種族なのだがな、竜魔族の始祖とも言われておる』
トウロにそう言われて改めて思い出した、飛び去る寸前のあの容姿。仮に未来の俺だとしてもだ、何故あんな姿になっているのか。
未来の俺は人間をやめてしまっているのか。全く想像の埒外で、余計に意味が分からなくなってきた。
すると、マリーが何か閃いたのか空を指して言った。
「王国騎士団を襲ったドラゴンと何か関係ありそうだねー」
『うむ、我もそれは疑っておった。しかし、襲わせた動機がハッキリせん。そして今回の魔王討伐も然り。居もしない魔王を討伐させるなど、全く意味を成さぬからな』
トウロの言葉に、今回の魔王討伐の鍵を握っている当人からの説明を未だに聞いていなかった事を思い出し、未来の俺(仮)の話を一旦終わらせ、俺は石箱の中に居る妖精王ヌーデルに尋ねた。
「ところで、妖精王さん。何故あなたはクリスタルに封じられていたのですか?」
"──ああ、まだ話していなかったな。実は私自身も全容の把握は出来ていないのだがな……あれは五年ほど前のこと、黒ずくめの者たちが大挙してあっという間に城内を瘴気で満たしたかと思ったら、見たこともない術式で私を拘束して、気が付いたらクリスタルの中に居た……という感じだな"
「黒ずくめの者?」
"──私にも何者かは分からない。しかし奴らは巧みに瘴気を操り、魔力とはどこか根源の違う力を使い術式を組み上げていた。私自身、魔力の制御は出来るが瘴気を使った術式の対抗手段を持ち合わせていなかったから、あっさり封印されたということだ"
理解には程遠いが、その黒ずくめの者たちが妖精王ヌーデルを封印し、城に何らかの仕掛けを施したのは間違いないだろう。
「そいつらが妖精王さんを封印したのは分かりました。で、大量の魔物や前室に施された魔力の収奪、そして前室にあった転移の術式は何が目的だったのか分かりますか?」
"──クリスタルに封印されていた時の記憶は曖昧でな、年に何度かヒロシ殿やマリーの様な人々が訪れては、魔物たちと戦い傷ついていた。魔力の収奪については全く分からんが、転移の術式の発動には私の魔力を使用していた。もちろん私自身の意思とは無関係に発動されていたのだがな……そういえば、この近くに召喚専用の転移陣があるようでな、その転移にも私の魔力が使用されていた。全く、腹立たしい限りだ"
妖精王ヌーデルは封印されていた時の事を思い出しながら、彼女の言の通り腹立たしげに説明してくれた。目的や黒ずくめの者たちの情報はなかったが、恐らく召喚専用の転移陣とは森で見つけた出口専用の転移陣のことだろう。
そして、転移者の街への誘導からの魔王討伐。
少しだが、ここまでの流れが掴めてきた。
「それで、トウロはどう思う?」
妖精王ヌーデルの話を一通り聞いた後、俺はトウロに意見を聞くべく話題を振ってみた。
『そうじゃな。すでにヒロシ殿も気付いているかも知れんが、恐らくはエスダート王国自体が一枚噛んでいるのは間違いないであろう。細工されたブレスレットや魔王討伐と称しての魔力収奪など、深く関わっているに違いないと考えるが、黒ずくめの正体は我にも見当がつかぬ』
すると横で話を聞いていたマリーが口を開いた。
「もしかしてだけど、その黒ずくめの人達って教団って呼ばれている組織の構成員かも知れないねー」
「教団?」
「そう。俗に教団っていう呼ばれ方をしている組織でね、正式な名称や活動内容とかの詳細は分からないんだけど、国家間の垣根を超えた大きな組織らしいよ。でね、そいつらが活動するときは、揃いの黒い外套を羽織っているって話なんだー。まあ、あくまで噂話なんだけどね」
妖精王ヌーデルを封印した黒ずくめの者たちとエスダート王国がどこかで繋がっているのかも知れないな。
そして、未来から来た俺(仮)も偶然あの場に居合わせたとは思えない。多分だが、何らかの関わりがあるのだろう。
妖精王ヌーデルが封印された顛末もある程度分かったところで、これ以上推論を重ねても何も進まないだろうと判断した俺は、再び周囲の様子を確認してからトウロに声を掛けた。
「噂話とは言え、教団とやらには注意が必要みたいだな。これからの移動でも警戒はしておいた方が良いのかも知れない。その辺はトウロに任せて大丈夫か?」
『うむ、問題ない。警戒は我が常に行っておこう。道中の安全は我が保障する』
「ああ、助かる。それじゃ、そろそろ迷宮都市へ向かおうか」
俺がそう言うと、トウロは一つ頷き城の西側にある林へと妖精王が収まっている石箱を担いだまま歩き始めた。
それに続き俺とマリーも妖精王の居城を背に林へ向かって歩を進めた。
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