第25話 コンビニ店員は少女を見つめた
『まずは、互いに名乗らねばなるまいな』
"──おお、すっかり忘れていた。まずは、礼を言おう。囚われの身の私を救ってくれたこと、感謝する。私の名はヌーデル。妖精王などと大そうな呼ばれ方をしているが、次元間の魔力の流れを管理する役割を担っているに過ぎない。よろしく頼む"
妖精王という大物を前に、緊張の色を隠せないまま俺も挨拶をする。
「俺……いや、僕はヒロシ……ヤマダヒロシと言います。この世界の人間ではありませんが、こちらこそよろしくお願いします」
続き、マリーも一歩前に出て名乗った。
「あたしはマリー。マリー・シュトロイゼル。あたしもこの世界の住人じゃないけど、よろしく」
マリーに緊張している雰囲気はない。たいしたもんだ。
『うむ、自己紹介も終えた様だな。では、早速本題へと移るか』
さっき言っていた、ミラーとかいう人のところまで妖精王のヌーデルさんを連れて行くという話だろう。
俺的にも転移の件など聞きたいことはあるが、まずは妖精王さんの事情も把握しておくべきだろう。
俺は了承の意を頷きで返し、話の続きを促した。
『見ての通り、妖精王の身体は封印のクリスタルの浸食によって、動くこともままならぬほどに損傷しておる。そこでじゃ、ここから西にある迷宮都市のミラー殿にその身体を修繕してもらう為、我々で運ぼうではないか、という話じゃ』
まあ、流れ的にはそういうことになるんだろうと予想はしていたんだけど……所々、引っ掛かる単語があって、どうにもそこから思考が進まない。
もしかしたら、失礼にあたるのかも知れないが、モヤモヤしているのも嫌なので思い切って聞いてみることにした。
「大体のところは理解したけど……その、少し聞いていいか?」
『何か疑問があるのか? ヒロシ殿』
「ああ、妖精王さんのことなんだけど、さっきから身体を"修繕"するって言ってるけどさ、普通身体は"治療"するもんじゃないのか?」
俺の質問にトウロは、わからないといった風で首を傾げている。
横で話を聞いていたマリーは、俺と同じ疑問を感じていたらしく、軽く頷きながら返答を待っている。
しばしの沈黙の後、妖精王ヌーデルが語り出した。
"──ははっ、なるほどな。勘違いするのも無理はない。私の身体は人間そっくりに出来ているからな"
「人間そっくり?」
"──そうだ。私はどちらかといえば、そこに居るトウロニギス殿に近い存在。そして、この身体は私に与えられた役割を果たす為の機能が備わった器。そういえば遠い昔、私を作り出した者がホムンクルスなどと呼んでいた気がするな"
妖精王ヌーデルの話に、俺が呆気に取られているとトウロが合点がいったという様子で言ってきた。
『なるほど。ヒロシ殿は妖精王が人間だと勘違いしていたわけじゃな。いやいや、我の説明不足であった。すまない』
妖精王とトウロの説明を受け、俺は再び小柄な妖精王の身体を凝視する。
とてもじゃないが、作り物とは思えない。さっきは人形の様だと感じたが、それはあくまで人間が動かなくなった状態のたとえで、まさか本当に人形だったとは……。
"──ヒロシ殿。色々気になるところがあるのは分かるが、レディの身体を舐め回すように見つめるのは、どうかと思うぞ。人間とは違うと言えど、私も魂ある者。羞恥心という感情くらいはあるからな"
妖精王がからかい半分で言うと、マリーが横でプッと吹き出すのが視界の端に見えた。
俺は恥ずかしさを誤魔化すために、頭をポリポリと掻いてトウロの方に向き直り、強引に話の流れを元に戻す。
「その、あれだ。ミラーさんの所まで運ぶって言っても、何か具体的な手段はあるのか?」
『ん? 我が担いで行けば問題なかろう』
いかにもトウロらしい対応と言えるが、逆にそれでいいのかという疑問も湧いた。
「妖精王さんはそれで良いんですか?」
俺の問いに妖精王は、言わずもがなといった様子で答える。
"──乱暴にさえ扱わなければ、どんな運び方でも構わないが。その辺はトウロニギス殿に任せる"
『うむ。ここからだと迷宮都市までは十日ほどの道程になる。その程度の移動なら、簡易的な器に入れておけば良いであろう』
任されたトウロはそう言うと、玉座の間の床に手を置き『少しばかり、素材を拝借するぞ』と妖精王に声を掛けた。
妖精王は特に何の返答もしなかったが、それを同意と受け取ったトウロは、床に貼られてる大理石に魔力を流して変質させ、妖精王がスッポリと収まるサイズの石製の箱と蓋を造った。
次に玉座の間の最奥にあるカーテンを引きちぎり、石製の箱の中に敷き詰めた。
すると俺の横でマリーが小声で言った。
「まるで石棺みたいー」
それは言っちゃいけない単語だな。俺も同様に感じていたが、口には出さず苦笑いで応えるだけにとどめた。
そんな俺たちを意に介する様子もなく、トウロは妖精王を抱え上げて石製の箱に横たえる。
『具合はどうじゃ?』
"──おお、良い感じだ。広すぎず、狭すぎず、丁度良い寝心地だな"
俺とマリーも、石製の箱にスッポリと収まった妖精王を覗き込む。
そこで俺は、大事な事を聞いていないのを思い出す。
これまでの状況から、良い返事は期待できないが、ダメ元で聞いてみた。
「一つ妖精王さんに聞きたいというか、確認したいことがあるのですが……」
"──ん、何だ?"
「あの……俺たちを元の世界に戻すというのは可能なんでしょうか?」
"──可能だぞ。だが今は無理だな"
『そうだな、最低でも損傷の酷かった魔力制御の部位を修繕しないことには、流石の妖精王とて何も出来んじゃろ』
俺の問いに、予想通りの答えが返ってきた。
俺とマリーは「はあ……」と深いため息をついて、項垂れる。
分かっていたとは言え、帰還するのが先延ばしになってしまった事実を信じたくない程度には妖精王という存在に期待していたのだ。
だが、遅かれ早かれ確実に帰還できる手段があるという事を知れたのも事実。これは大きな一歩だろう。
俺は思考を切り替え、今後の方針をトウロに伝える。
「よし、迷宮都市に行こう」
『まあ、それしか選択肢はないであろうな』
"──ヒロシ殿、感謝する。そして私の身の修繕が終わり次第、君たちを元の世界へ帰還させることを約束しよう"
トウロは頷き、妖精王ヌーデルが収まっている石製の箱に蓋をはめた。
「それで、マリーはこれからどうする?」
俺は悪戯っぽく、マリーに尋ねた。
「さすがに一人じゃ何もできないからねー。ヒロシたちと一緒に迷宮都市ってところに行こうかと……それとも、あたし一人置いて行く気だったの?」
俺の言葉にマリーは軽口で答え、クスクスと笑った。
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