第24話 コンビニ店員は少女に叱られる
玉座の間ではトウロが残り少なくなった魔物と戦闘を繰り広げていた。
しかし、様子がおかしい。
玉座の間の最奥、恐らくは玉座そのものが在るか魔王が居ると思われる位置。そこを背に、まるで背後に在るものを守る様にトウロは戦っていた。
俺とマリーは床に倒れている魔物の屍をよけながら、急いでトウロの下へ駆ける。
魔物たちがトウロへと意識を向けている今ならば、挟み撃ちにするのがいいか。
ならば、気付かれない様にとマリーに手の平を見せて合図を送る。意図を理解してくれたマリーは親指を立てて応じてくれた。
出来るだけ魔物たちに気取られぬ様に近づくと、トウロは俺たちの存在に気付いたらしく、俺たちにしか聞こえない"言葉"で伝えてきた。
『ヒロシ殿、マリー殿も無事の様で何よりじゃ』
俺は声を出さず、トウロに視線を向けたまま一つ頷く。
するとトウロは自身が置かれている状況を教えてくれた。
『うむ。それでじゃ……実は想定外の事態が起きておってな、我はこの場を離れることが出来ない。魔物どももそれを分かっているのか、付かず離れずといった具合でな。今一つ攻め手に事欠いておったところじゃ』
なるほど、立ち位置を固定されているわけか。ならば、やはり俺たちが魔物の背後を突くのが最善か……いや、マリーは後方待機だな。
俺は魔物たちの背後の戦いやすい位置に移動しつつ、トウロへ身振り手振りで、挟み撃ちにする旨を伝え、マリーには後ろでサポートしてくれる様に指示を出した。
『助力感謝する。では頼んだぞ』
俺の意図を理解したのだろう。トウロはそう言うと、派手な動きで魔物たちの敵意を自身に向けさせる。
俺は全ての魔物の意識がトウロに向かったのを確認すると一気に加速し、魔物との間合いを詰める。
まずは、牛頭の魔物。俺の存在に未だ気付いていない様なので、軽く跳躍して横一閃。筋肉質な首筋を一太刀で両断すると、音もなく頭部がずれ落ちる。
続いて馬頭の魔物の背後、跳躍からの緩やかな落下に合わせて肩から脇腹にかけて魔剣を振りぬく。
確実な手応えだけを感じて、俺は静かに着地する。
切り伏せた馬頭の魔物が倒れると同時、こちらに気付いたのか別の馬頭の魔物がこちらに視線を向け、攻撃の姿勢へと移る。
だが、それよりも早く駆け出した俺は魔物の胸部へと魔剣を突き刺し、そのまま上方へと刀身を滑らせる。
縦方向に切り裂かれた魔物の体躯はグラリと揺らぎ、前のめりになって倒れた。
一、二、三、四……魔物はあと七体。俺は魔物たちが縦一線に並ぶ様に素早く移動し、射線上にトウロとマリーが居ないことを確認すると魔剣に魔力を通す。
さっきは攻撃範囲が広すぎて、周囲のダメージが酷かった。
大丈夫だとは思うけど、万が一接敵しているトウロに当たっても嫌だしな。
ならば……試してみるか。
先程の様な横薙ぎではなく、突きに近いイメージで魔剣を引き絞る。魔物七体に照準を合わせ剣先を突き出すと同時、技を発動する。
──いけーーーっ!!
突き出された魔剣の刀身から一瞬だけ眩い白光が放たれ、不可視の刺突が魔物たちに向けて突き進む。
一体、二体、三体と魔物の巨体を抉り突き抜けながら、最終的には七体全ての魔物の体躯に人が通り抜けられそうな大穴が開いた。
そのうちの一体と剣戟を交わしていたトウロだったが、俺の動きに合わせ、魔物から離れて上手く回避をしてくれていた。
果たして、玉座の間の大型魔物は掃討され、この場に立っているのは俺とトウロ、そしてマリーだけとなった……はずだった。
◇ ◇ ◇
そこには少女が居た。
正確には玉座があるはずの場所に巨大なクリスタルが設置され、その中に封印された状態の少女が居たのだ。
歳の頃は十歳くらいに見える幼さ。豪奢な衣装と大きなウェーブが掛かった髪が印象的だった。
『……というわけで、この場に魔王などおらんかった。代わりにクリスタルに封印された妖精王が居たというわけじゃ』
「なるほど、それでトウロは魔物から妖精王を守っていたと」
『うむ、その通り。当初、玉座の位置には結界が巡らされておってな、近付くことはおろか中の様子さえ窺えんかった』
「そうなると普通、結界の中には魔王が居るものだと考えるよな」
『我もそう考え、まずはと、魔物の討伐を行っていたのだがな……ヒロシ殿の剣戟が壁を破壊したとたん結界が解除されてな。恐らくではあるが、壁に隠匿された結界の術式が刻んであったのだろう』
「そっかー、それでこの妖精王ちゃんを発見したんだね? ヒロシの大手柄じゃん」
『うむ。我も感謝しておる』
俺とトウロとマリー、そしてクリスタルに封印された妖精王。
妖精王がこんな少女だったのは驚きだったが、本来居るとされたラスボスである魔王が居なかったのはラッキーとしか言いようがなかった。
「で、どうするんだ? この妖精王。クリスタルに封印されてるみたいだけど」
俺がペチペチとクリスタルを叩きながら、トウロにこれからの事を聞いた時だった。再び、あの声が聞こえてきた。
"──コラ! 雑に扱うな"
「へ?」
『おお!』
「なに?」
突然聞こえた声に三者三様の反応を示す。
すると、トウロが何かを把握したようにクリスタルに向かい話しかけた。
『意識があるようだな、妖精王よ』
"──トウロニギス殿か、久しいな。少々難はあるが、何とか意識だけは維持しているといったところだな。まずはこのクリスタルから解放して欲しい。頼めるか?"
『うむ、試してみよう』
どうやら、この声の主はクリスタルに封印されている妖精王らしい。トウロとは旧知の間柄なのだろう、比較的気安い会話をしている。
もしかしたら、俺とマリーを元の世界へ戻す術を持っているかもしれない。
俺がそんな希望的観測をしていると、トウロは妖精王が封じられているクリスタルに触れて解析を始めた様だ。
『……これは酷いな。解放するのは可能だが妖精王、お主の身体の浸食されている部分も同時に失うことになるのう。どうする?』
"──元より承知。策はあるので問題ない、構わずやってくれ"
『そうか、ならば始めるぞ』
トウロはそう言うと触れたクリスタルを変質させ始める。
クリスタルの内部の屈折率が目まぐるしく変化し、虹色に輝きだす。
輝きはクリスタルの下部から徐々に収まり、透明なガラス質のものから灰色の砂へと変化してゆく。
砂へと変質したクリスタルはサラサラと床へ流れ、足元から妖精王の姿が顕わになってゆく。
俺とマリーは、その幻想的な様子を呆けた顔をしながら眺めていた。
全てのクリスタルが砂へと姿を変え、その砂の上には妖精王と呼ばれる少女が立っていた。
"──ふう、やっと出られた。助かったぞトウロニギス殿"
『なに、容易き事よ。で、調子はどうだ? 妖精王』
"──見ての通り……と言いたいところだが、かなり深いところまで浸食されている様で、口から言葉を発することも出来ないといった所だな"
確かに見た目には怪我や損傷はないけど、何というか命のない人形の様にしか見えない。
クリスタルから解放されたというのに全く動いていないのも、そう感じる要因だった。
"──それで、相談なのだが……この身体をミラー殿のところまで運んではくれないか?"
『ほお、なるほどな。彼女であるなら、お主の身体の修繕も出来よう。しかし、我の一存で判断は出来ぬ。我の主たるヒロシ殿の意向もあるのでな。事情説明をしてからの返答で構わぬか?』
"──それは問題ないが、トウロニギス殿を従わせる主が居るとは驚きだ。だがまあ、それはよいか、宜しく頼む"
『うむ、承知した』
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