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第23話 コンビニ店員は残される



 トウロから渡された魔剣を手に、俺は一閃一閃を丁寧に振りぬく。

 

 巨大な剣士の魔物が上段から振り下ろした大剣を最小の動きでかわし、横合いへと回り込む。

 こちらの動きに反応したのだろう、魔物は振り下ろした大剣を再び上段へと振り上げた。

 だが、魔力を通した俺の眼に映るのは鈍重でただ大きいだけの魔物。がら空きになった脇腹に予備動作なしで魔剣を滑り込ませたまま大きく跳躍し、魔物の肩口めがけて逆袈裟に得物を振りぬいた。

 

 重厚な鎧もろとも両断された魔物の体躯は斜め方向にズルリと滑り、崩れ去る。

 俺はその結果を視界の端で確認すると、すぐさま次の魔物へと意識を切り替える。

 

 上段からの縦一閃、振りぬいた状態から手首を捻り横方向に薙ぎ払う。

 次から次へと振るわれる魔剣の剣閃。徐々にその数を減らす魔物。

 少しだけ、魔物との間合いが開いたの感じた俺はふと閃いた。

 

「ここならいけるかな?」


 俺は一度、トウロが戦っている方向を確認すると、そちらに背を向け魔剣を腰だめに構える。

 数メートル先に大型の魔物が五体、いや六体か。試すには丁度良い。

 すかさず、俺は手にした魔剣に自身の魔力を通し、先程トウロの説明にあった技を発動する。

 

「いっけーーーーーー!」


 左から右方向へと魔剣を一閃。

 刀身が青白く輝きを放ち、その切っ先から不可視の刃が放たれた。

 今にもこちらに襲い掛かろうと身構えていた魔物たちは、見えない斬撃に気付くことすら出来ずに、上半身と下半身を分断され呻き声を上げる間もなく玉座の間の床へと崩れ伏してゆく。

 

 放たれた不可視の斬撃は魔物たちを断ち切った後も、その威力を減衰させることなく更に飛び去り、ついには玉座の間の壁にまで達した。

 美しい意匠が各所に散りばめられた大理石を思わせる壁から、激しい衝突音が発せられ、砕け、散らばり、白い砂埃が辺りを覆った。

 

 少しの間漂った砂埃が収まり、両断された魔物の亡骸の向こうには元は豪華であっただろう壁が無残な姿となって視界に映った。

 

「強力なのは良いけど……これは少しやりすぎかもしれない。使い処を間違えると逆に被害が広がるかも知れないな」


 崩れた壁を凝視しながら、不可視の斬撃についてそんな感想を呟いた。

 

 すると、背後から剣戟の音と共にトウロの言葉が伝わってきた。

 

『ヒロシ殿、見事だ! やはり、お主は面白い』


 いや、こんなところで俺の才能が開花するとは思いもよらなかったが、魔物と戦え、前進する力を得ることが出来たことに感謝しなければ。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 玉座の間。相当数の魔物を倒したが、最奥にあるであろう玉座付近までは未だ到達出来ていない。

 その原因は、前室で行動不能になっている兵士たちを守りながら戦わねばならないということ。

 つまり、俺とトウロの背後に魔物を通すことは絶対に出来ないという事だった。

 一応、マリーが前室で警戒はしているが、彼女に魔物と戦うリスクを負わせるのも気が引ける。

 

──ならば、サッサと終わらせるのが一番かもな。

 

 そう結論付けた俺は、再び魔物に意識を向け魔剣を振るう。

 

 その後、何体かの魔物を切り伏せ倒したときだった。前室の警戒に当たっていたマリーの声が、俺たちの居る玉座の間まで響いてきた。

 

「いやああああああああああああああ!!」


 俺は一瞬、攻撃の隙間を抜けた魔物が前室へと向かったのかと思い、急ぎ振り返った。

 しかし、前室に魔物が行ったという様子はなく、マリーがこちらに背を向け前室内を忙しく見回している姿だけが見えた。

 一体、何が起きたというんだ? 

 

「み、みんなが、兵士のみんなが消えていっちゃう」


 絞り出すように発したマリーの言葉だが、俺にはハッキリ聞こえた。だが、理解は追い付いていない。

 

『ヒロシ殿、こちらは我が片付けておく。早くマリー殿のところへ!』


「ああ、ありがとうトウロ。少しの間頼む」


 トウロの言葉に応じ、俺は目の前にいた二体の魔物を薙ぎ払い、急ぎマリーの居る前室へと駆けた。

 

 

 前室では茫然自失となっているマリーがいた。

 そんなマリーに俺は駆け寄り声を掛けた。

 

「マリー、何が……」


 俺はそこまで言って、目の前の状況に息を呑んだ。

 

 魔力枯渇により行動不能となり、倒れ伏していた兵士たち。その彼らが、俺とマリーを残して消えてしまっているのだ。

 

 俺が状況の把握に時間をかけていると、横に居るマリーが小刻みに震えながらが呟く。

 

「みんな消えちゃった……。元の世界に戻ったの……かな」


「どうなんだろう。まずは何が起きたのかを調べてみるよ」


 俺はマリーに応え、自身の眼に魔力を通す。

 今居る前室の床を中心に魔力の流れを感じ取る様、丁寧に探る。

 

 先程までの紫電を纏った魔力のモヤはすでになく、床には消えかけの幾何学模様が白い残光を発しているだけだった。

 幾何学模様が何を意味しているのかは分からないが、トウロはこの部屋の魔物を討伐した後に、異世界への転移の術式があると言っていた。

 兵士たちをここに留まらせたのも、そういう前提があったからだ。

 

「多分だけど、転移の術式が発動したみたいだな」


 気休めとは思わない。今の俺たちにはそれ以外、考えが及ばないのだ。

 

「じゃあ、みんなは無事に元の世界へ戻れたってこと?」


「そうだな、今はそう考えるのが正しいだろう」


「……でも、あたしはここに残された」


 マリーは不安そうに兵士たちが横たわっていた床を見つめ、言った。


「ああ、俺もだな」


 どういう理屈かは分からないが、俺とマリーは転移されなかった。トウロ自身も発動条件は分からないと言っていた。

 

「でも、あれだ。一応、転移の術式は発動したみたいだしさ、俺たちもきっと帰れるよ」


 これは気休めだ。何の確証もないただの気休め。

 しかし、こうでも言わなければ前へは進めない。望みはまだある。今は信じるしかない。

 

 マリーも気持ちの整理が付いたのか、それでも作り笑いと分かる表情で応えてくれた。

 

「そうだねー、きっと帰れる。大丈夫だよ」


 俺はマリーの少しだけ明るい声を聞き、安堵した。

 そして、前室で起きた事態を一旦胸の中にしまい、玉座の間で未だ戦闘を続けているトウロに意識を切り替える。

 

「マリー、もうこの部屋に居ても仕方ない。一緒に玉座の間に行こう。動けるか?」


「うん、大丈夫だよー。石魔人さんの事も気になるし、ヒロシに付いて行くよ」


「わかった。俺に付いてきてくれ。但し、俺の前には絶対出ない様に」


「あー、ヒロシの前に出るなんて自殺行為は絶対にしないから、安心していいよー」


 マリーの軽口を合図に俺たち二人はトウロが戦っているであろう玉座の間へと向かうことになった。

 

 

最新話の投稿は毎週、水曜日・土曜日の早朝の時間帯となります。

次回もどうぞお楽しみに!

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