第22話 コンビニ店員は魔剣を振るう
俺は左腕の腕輪に意識を集中して言った。
「トウロ、頼みがある」
これから始まるであろう玉座の間での戦闘。圧倒的に手数が足りていないことを考え、俺はトウロに伝える。
「──俺から分離して戦えるか?」
『問題あるまい。我もウズウズしていたところじゃ』
ならば、いけるか。
俺は、腕輪スタイルのトウロに魔力を流し自然に紡がれた"言葉"を詠唱する。
「──我が眷属、トウロニギス。此処にその姿を顕現し、その力を行使せよ!」
俺の中の魔力がゴッソリ持っていかれるのを感じながら、詠唱を終えると、左腕にあったトウロの感触が薄れる。俺の腕から液体金属の様に流れ出て、目の前の足元へと移動を始めた。
それは次第に形を成し、表面を黒々とした岩石へと変え、やがて身長二メートルを超える人型となった。
『うむ。やはりこの姿の方が、しっくりくるのう』
自身の身体を眺めながらトウロは言うと、ゴーレムボディの調子を確かめるように関節のあちこちを動かしている。
「うわあ、石魔人さんってこんな姿にもなれるんだー」
そうか、マリーがこの姿のトウロを見るのは初めてだったか。まあ、驚くのも仕方ない。
『マリー殿、これが我の本来の姿だ。改めてよろしく頼む』
マリーの驚き様にトウロも満更ではないといった様子で、軽く頭を下げながら応えた。
少々のんびりとしたトウロとマリーではあったが、周囲の事態は刻一刻と変化を続けている。
すでに俺とマリー、トウロ以外の兵士たちは全て、床に伏し、呻き声を漏らし、完全に意識を失っている者さえいるのだ。
「さあ、急ごう! この先の玉座の間を何とかしなければ兵士の皆さんがどうなるか分からない」
俺が次にやるべき行動を促すと、マリーは二振りの短剣を鞘から抜き両手に構えた。
「あたしは、いつでもオーケーだよー」
引き締まった表情のマリーを確認した後、人型へと変化したトウロに視線を移す。
しかし、トウロの方はというと、何かを考えているのか俺の方を見つめジッとしている。
痺れを切らした俺は、トウロに問うた。
「どうしたトウロ? 何か気になることがあるのか?」
『うむ。ヒロシ殿の剣なのだがな……それはもう使い物になるまい』
確かに先程の戦闘で刀身はボロボロになり、刃物というよりは鈍器に近い有様になっていた。
そんな事を思い出していると、トウロは近くに倒れている部隊長の鞘から一振りの長剣を抜き取り、刀身をなぞる様に手を触れた。
すると、触れた部分の刀身が光を放ち始め、その雰囲気を徐々に変化させてゆく。
果たして、放っていた光は収まり、トウロが納得といった様子でその剣を俺に手渡す。
『少しだけではあるが、使える剣にしておいた。これならば問題なく魔物どもと戦えるであろう』
手渡された剣は、ある種異様な雰囲気を纏っていた。
俺はそれが何であるかを確かめるべく、眼に魔力を込めて再び剣を眺める。すると刀身から魔力が出ているのが分かった。
「……魔剣、なのか?」
俺がそう言うと、トウロは少し間を置いて答えた。
『そうじゃな。我が魔力で鍛えた刀身は鋼鉄をも切り裂くことが出来る。更に自己再生も付与してあるから手入れも不要であろう……まあ、魔剣と言われればそうかもしれぬがな』
トウロの説明を聞いて俺は思った。
──何だか、凄い剣を手に入れた気がする。
俺は調子を確かめる様に、一度二度剣を振るう。
「良い感じだ。トウロ、感謝するよ」
『フハハハハハ! それは僥倖。ヒロシ殿の役に立てるのであれば存分に振るうがよい。あと、言い忘れていたが魔力を通すことによって、不可視の斬撃を放つことも出来る。ここでは些か危ないからの、後程試してみるがよい』
この状況下でも一切ブレないトウロの態度に俺が苦笑いを浮かべていると、俺とトウロのやり取りを見ていたマリーは、お手上げのポーズを取りながら言った。
「やっぱ、あんたらチートだわー」
呆れ顔のマリーを横目に、俺はダメになった剣を鞘から抜いて床の邪魔にならないところに置き、トウロ謹製の魔剣に持ち替えた。
改めて、気持ちを切り替えトウロとマリーに言う。
「よし! 今度こそ急ごう!」
「あいよー!」
『うむ、承知した!』
剣を手に俺が身構えると、マリーは再び表情を引き締め、トウロは扉へと歩を進める。
トウロが扉の封印を解くため、その手を伸ばしたその時、扉の向こうから魔物のものであろう、けたたましい雄叫びが響き玉座の間への扉が勢いよく開いた。
俺はその様子から、一旦退き魔物の様子を窺うとばかり思っていた。しかしそれもつかの間、トウロはその両腕を鋭い刀身へと変化させ、いきなり玉座の間へと飛び込んで行った。
「マリーはこの場を頼む!」
「わかった! ヒロシも気を付けて」
飛び込んで言ったトウロを視界の隅に捉えながらマリーに声を掛け俺自身もトウロの後を追い、玉座の間へと駆け出した。
玉座の間ではすでにトウロと魔物との戦闘が始まっていた。
俺自身、そこまで余裕があるわけでもないのだが、それでも玉座の間の魔物がどういうものなのかを確認しないわけにはいかなかった。
玉座の間で蠢く数十体の大型魔物。確かにトウロが言っていた通り、此処の魔物はデカい。
体長は二メートルから三メートルといったところか。
見た目で判断するなら、牛頭の魔物と馬頭の魔物。あとは重厚な鎧を纏った巨大な剣士……うん、やっぱり手強そうだ。
しかし、怯んでいるわけにはいかない。
すでに戦闘は始まっているのだ。
俺は自身の士気を高めるべく、トウロから渡された魔剣の柄を強く握りしめる。
概ね、魔物の様子を確認した俺は、奥の方で魔物と対峙しているトウロの邪魔にならない様に少しだけ離れた位置へと足早に移動して、目の前にいる馬頭の魔物に斬りかかる。
魔物も俺の動きを察知したらしく、数頭の群れを成してこちらを蹂躙しようと襲い来る。
が、一足早く俺の振るった魔剣が馬頭の喉笛を引き裂き、後続の牛頭の肩から先を切り飛ばした。
──これならば、いける!
俺自身、魔力で眼と肉体を強化をしている。
更にトウロから渡された魔剣がある。
目の前の魔物たちの動きは緩慢で、相対的に俺の剣閃が鋭さを増す。
魔剣の切れ味は、それが刃物であるという認識すら見失う程に鋭かった。
初めから切れているモノの切り口をなぞっているだけではないかと思えるほど、次元の違う代物であった。
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