第21話 コンビニ店員は罠にはまらない
誤字脱字報告ありがとうございます。
意図した表現の部分以外は修正させて頂きました。
今後ともご愛顧のほど、宜しくお願いします。
トウロが前室の魔物討伐が完了したことをマリーに念話で伝えてから少しして、順次召喚された兵士たちが今居る部屋へと集まって来た。
「ヒロシさん、罠の解除作業ご苦労様でした。我々もこれで安心して魔王討伐に挑めます」
俺の姿を見つけた部隊長の一人が、こちらへ駆け寄り感謝の意を伝えてくれた。
実際には罠の解除ではなく、五百体近い魔物の討伐だった訳だけど。しかもトウロの秘策によって、あっという間の簡単なお仕事だった。
魔物と対峙する直前のハラハラドキドキを返して欲しいくらいだ。
「いや、そんなに難しい作業ではありませんでしたから」
「いえいえ、地下通路の情報や各種封印の解除なしには、ここまで来れませんでした。改めて感謝します」
俺と部隊長の会話を聞きつけた周りに居た兵士たちも、こちらに近付き頭を下げ感謝の態度を示してくる。
そんな様子に俺は後頭部をポリポリと掻いて照れ隠しをするしかなかった。
しばらくするとマリーも合流したらしく、こちらに歩み寄ってくる。
「ヒロシ、お疲れー!」
マリーは先程の兵士達とは対照的にいつもの軽い感じで声を掛けてきた。
俺の肩をポンポンと何度か叩き、労をねぎらう態度を示しながら耳元に顔を寄せてきた。
「石魔人さんから大体の話は聞いた。それにしても凄いじゃないか、あたしも魔物を倒すところ見てみたかったよ」
マリーは周りの兵士たちに聞えない様に小声で話しかけてきた。
「ああ、最初のうちは俺が頑張っていたんだけど、数が多すぎてね。それで結局はトウロがやってくれたんだ」
トウロがマリーにどう伝えたかは分からないけど、俺としては過大評価など負担になるだけなので、苦笑いをしながらも本当のところを小声で伝えた。
マリーは一度肩をすくめ、クスッと笑う。
「正直すぎだなーヒロシは」
「そうかなあ?」
俺も肩をすくめ、照れくさそうに応じた。
◇ ◇ ◇
全ての兵士が前室まで移動を終えたところで、いよいよ最後の作戦へと移る。
この前室に転移の術式があるということ。それはこの部屋から出ずとも術式が発動する条件が生じるはず。
ならば、玉座の間に急ぎ突入する理由もない。
──よし、まずは扉を開けて様子を見るか。
俺は今一度、眼に魔力を通し、異常がないか周囲を窺う。
「今のところ問題は……ないな」
「うん、兵士たちもみんな揃ったし、こっちも問題なしだねー」
玉座の間への扉の前、独り言の様に呟いた俺の言葉にマリーが答えた。
すると、近くに居た部隊長の一人が俺とマリーの会話から察したのか、声を掛けてくる。
「では、ヒロシさん。度々で申し訳ありませんが、扉の解除をお願いします」
「はい、了解です。それでですね、実はこの先にある玉座の間には大型の魔物が居るようなので、皆さんには一度下がっていてもらえますか」
「大型の魔物ですか。わかりました、その様に指示を出します。ヒロシさんも無理をなさらない様に」
召喚された兵士たちを出来るだけ転移術式のあるこの部屋に留めておきたいと考え、危険を匂わせ下がっている様にと要請した。
部隊長も同意を示し、一度頷くと近くの部隊へと指示を出した。
そこで、俺は小声でマリーに告げる。
「恐らく、これが最後になると思うから出し惜しみはしない。兵士の皆さんには色々バレちゃうかもしれないけど、それで構わないと思うんだ。だから、俺が先頭に立って戦う」
心配そうな面持ちでこちらを見るマリー。
「まあ、兵士の皆さんには、そのフォローというか事後処理的なモノをお願いしたいんだけど、大丈夫かな?」
俺がそこまで言うとマリーは少し考えてから口を開く。
「ヒロシがそれで良いって言うんなら、こっちも問題ないと思う。でも、この先のって大型の魔物なんでしょ? 大丈夫なの?」
「ああ、多少手こずるかも知れないけど、魔力を扱えない兵士の皆さんよりはマシだと思うんだ」
マリーはうんうんと何度か頷き、自身がはめているブレスレットを操作した。恐らくは魔力封じをを解除したのだろう。
そして、こちらへ笑顔を繕いながら言う。
「あたしも少しは魔力の使い方知ってるからさ……ヒロシのサポートするよ」
その言葉に俺は少しだけ逡巡し、マリーの笑顔を見た後に応える。
「それは心強いな。というか《いのちだいじに》って作戦は、どこにいったんだろうな」
俺が少しだけ意地の悪い笑みを浮かべていると、マリーはペロっと舌を出し、肩をすくめ、場の空気を和ませてくれた。
「よし、トウロ頼む」
玉座の間の扉に左手を触れながら、ゴーレムボディを纏わす様トウロに指示を出す。
"──やっと……来たか"
トウロではない誰かの声。しかし、それはトウロの"言葉"と同様に頭の中で響いた。誰か居るのかと周囲を見回すが、それらしき人物は発見できなかった。
気のせいかも知れない。そう考え、声の主のことは一度、頭の隅に追いやることにした。
それより今は扉を開くことが先決だ。
俺は再び目の前にある扉へと意識を向ける。
『ヒロシ殿、準備完了だ。いつ始めても良いぞ』
すでに俺の左手にゴーレムボディを纏わせ終えたトウロが作業を促す。
「よし、いくぞ!」
俺は左手のゴーレムボディに魔力を集中する。
──何だ、この感じ?
扉から、いや扉の向こう側からか、自身の魔力とは違う別の何かが伝わってくる。
俺がこの異変に気付くのとほぼ同時、慌てた感じでトウロが言う。
『今すぐ、扉から離れよ!!』
その言葉を受け、すぐさま俺は後方へ飛び退いた。
同じくトウロの緊張した言葉を聞いたマリーも身構え、扉を注視している。
何が起きたのかと、俺は眼に魔力を通し扉を見る。
そこには紫電を纏った魔力の渦が、扉全体を覆っていた。
魔力の渦は次第にその範囲を広げ、今居る前室の床や壁まで覆うほどの勢いになってきた。俺やマリーの足元にもそれは及び、全身に一瞬だけピリッという痛みが走る。それ以外は何の問題も起きないかに思われた。
しかし、その直後、俺たちは背後の異変に気付いた。
後方で待機していた兵士たちが、まるで糸の切れた操り人形の様にバタバタと倒れ伏してゆく。
脳裏に過ぎる嫌な予感。
──罠が発動したのか!?
『驚かせてすまなんだ。我も罠かと思い、つい焦ってしまった。まあ、これは魔力を奪う術式じゃな。我らにはほぼ無害だが、ブレスレットで魔力を封じられている兵士らは、術式に抗う事も出来ず魔力が枯渇して昏倒した様じゃ。命に別状はないからのう、罠というほど悪辣とは思えんな』
次から次へと倒れ、意識を失ってゆく兵士たちの状況を淡々と解説するトウロ。
死んでしまうという事はないらしい。なら、ひとまずは安心か。
俺とマリーは一応の納得をして互いに頷きあった。
しかし、この状況。何とかしなければならないだろう。
ブレスレットの魔力封じを解除するといっても、約四百名全てを解除している余裕はない。
ならばと、俺は改めて眼に魔力を通し、魔力の流れを辿る。
玉座の間への扉から噴き出る紫電を帯びた濃い魔力が、壁や床を伝わって兵士たちを覆い、彼らの魔力を絡め摂って天井へと吸い込まれてゆく。
やはり原因は扉の向こうか。
あちらには数十体の大型魔物がいる。そいつらがこちらに入ってくれば、ただでは済まないだろう。
多勢に無勢といった感じか。マリーのサポートがあるとしてもあまり期待はしない方が良いかもしれない。
ならばどうするか……。
俺は左腕に力強い気配を感じ、思い出す。
そうだ、トウロが居るじゃないか!!




