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第20話 コンビニ店員は調べる


『では、始めるとするか』


 秘策とは言っていたが、トウロは何をするというのか。

 俺は一つ頷くと、続くトウロの言葉に意識を集中させる。


『よし、まずは下準備が大切じゃ。一度魔物どもから距離をおいてから床にお主の剣を突き立ててくれ』


「うん、わかった」


 俺はトウロに答え、一度前方へ跳躍をする。着地点に居た魔物数体を剣の一閃で吹き飛ばし、ある程度のスペースを確保した。

 そこから数歩、後ずさり魔物の群れから一定の距離を取ることができた。

 

 よし!魔物との距離は十分だろう。あとは、剣を床に突き立てれば良いんだな。

 俺は剣の柄を逆手に持ち替え、トウロに言われた通り床に突き立てた。

 

『うむ。では、その剣にヒロシ殿の魔力を集中させてくれ。術の発動は我が行う』


「ああ、わかった。あとはトウロのタイミングで頼む!」


『任せよ!』


 俺は突き立てた剣へと自身の魔力を集中させてゆく。

 魔力コントロールと言えるかは微妙なところだけど、それでも魔力が枯渇しない様に気を付けながら、更に必要な魔力量に達する様に、剣へと集中し魔力を込める。

 

『十分じゃろう。よし、いくぞ!』


 トウロがそう叫ぶと、突き立てた剣の半分がズルリと床へ飲み込まれた。

 剣の柄に体重を預けていた俺はバランスを崩し、たたらを踏んでしまう。

 

「お、おっと……え?あっ!」


 たたらを踏み一瞬気が逸れた後、再び顔を上げると目の前の異様な情景に変な声が漏れてしまった。

 このフロアの全体、正確には俺が居る場所以外の床が液状化を始めている。

 グズグズと軟化した床に体重を支えることが出来なくなった魔物たちは、バランスを崩しパニックを起こしている。

 

『上手くいったではないか。ハハハハ!』


 俺の全身を覆っているだけのゴーレムボディ、トウロニギスからそんな声が聞こえた。

 

「凄いなこれ」


 俺も思わず感嘆の声を上げてしまう。

 

 魔物たちには何が起こっているのか理解のしようもないだろう。

 更に軟化してゆく床は、すでに液体と言えるほどに、その性質を変えてゆく。

 次から次へと液状化した床へ沈み、飲み込まれてゆく魔物たち。もがき、足掻き、苦悶の声を上げる。それでも液状化した床は、魔物たちを飲み込み、取り込み続ける。

 

 その様子を見ながら、俺は思い出す。

 以前、トウロが草原で倒したドラゴンの亡骸を地面に沈め、隠していたことを。

 なるほど、合点がいった。石魔人トウロニギス。大地を統べる魔人である。

 大地から生み出された物質を自在に変化させ、その特性までも操ることが出来るのだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 五百体近くの魔物群れが液状化した床に飲み込まれ、すべてが終わるまでは数分と掛からなかった。

 所狭しと蠢いていた魔物はその姿を消し、玉座の間の前室にはトウロのゴーレムボディに覆われた俺だけが居る。

 程なく、床は元の硬度を取り戻し、突き立てていた剣が床から押し出され、カランと乾いた音を響かせ転がった。

 

『うむ。スッキリした。しばらくはこの場に魔物が現れることはないであろう』


「そうだな。こんなのが何度も出てこられちゃ堪らない」


『それはそうと……、先程床の石板を操作して気付いたんじゃが、この部屋自体に何かしらの術式が刻まれている様でな、今一度床に触れてはもらえんか』


「ああ、かまわないよ」


 転がった長剣を拾うついでもあるし、トウロにも何か気掛かりがあるのだろう。俺は屈むようにして床へ手の平を当てた。

 

 術式か。今まで何事も起きなかったということは罠の類ではないだろう。

 

『ふむふむ……ふむふむ……』


「どうなんだ?」


『これは僥倖であるぞ、ヒロシ殿。この部屋からヒロシ殿世界へ転移出来そうじゃ。発動条件は不明だが、異世界への転移の術式と契約が成されておる』


 おお、これで帰れるのか。

 

 突然こちらの世界へ飛ばされ、トウロと出会い転移者の街で訓練を受け、ここまで来られた……。

 そこまで思考して、重要な事を思い出す。

 

「んじゃ、討伐隊の人たちを呼ばなきゃ!」


 そう、本来の目的を忘れてはならないのだ。

 強制的に転移させられた人たちと共に元の世界へと戻るのだ。

 

『うむ。そうすべきであろう。発動条件がどうあれ、この場に居なければ元の世界へは戻れないからの……よし、マリー殿に念話を飛ばした。すぐにこちらへ来るであろう』


「相変わらずトウロは仕事が早いな」


『そうであろう!フハハハハハハッ!』


 トウロの高笑いを華麗にスルーしつつ、別のところに俺は思考を巡らす。

 異世界への転移、その発動条件。俺が転移されていないということは、未だその条件が満たされていない事を意味する。

 では、何がその条件なのか。

 最も可能性が大きいのは魔王との邂逅。

 倒す必要はないという情報もある。一定時間、魔王と対峙し戦闘を行わなければならないのか。

 あるいは、隠しスイッチ的なモノがあるのかもしれない。

 

「トウロ、俺は少しこの部屋を調べてみる。トウロも何か分かったら知らせてくれ」


『あい分かった』


 魔王との邂逅は後戻り出来ない事態になるので、先に出来ることを進めておくべきだと考え、可能性は低いが転移用のスイッチがあるかを確認する。

 玉座の間の前室という割には、調度品も少なく些か殺風景な感じを漂わせる。余計なモノがないので、調べ易い。

 

──もしかしたら、眼に魔力を通すことによって何か発見できるかも


 俺はふと閃いた考えを実行してみる。

 自身の眼に少しずつ魔力を集中してゆく。すると、壁や床、天井からモヤの様なモノが出ているのが見えてきた。

 モヤには濃淡があり、それが魔力なのだと自然に理解できた。

 ならば、魔力の濃い部分を探れば何か見つかるかも知れない。

 そう考えた俺は、魔力の薄い部分から濃い部分へと視線を動かし、その大元を特定した後、トウロに伝える。

 

「トウロ、あの扉から強い魔力を感じるんだけど」


 俺が特定した場所を指差し、トウロに伝えると

 

『うむ。あの扉は玉座の間へ続いておる。確かにあの扉を開けば、何かしらの術式が発動するであろう。だがしかし、あれを開いてしまうと、もう後戻りは出来ない。兵士たちがここへ来るのを待ってからでも遅くはないであろう』


「あ、ああ、そうだな」


 結局、魔王と対峙しなければ転移が発動しない可能性が大きくなっただけという結果に俺は肩を落とす。

 それでも他に何かあるかも知れないと何度か、周囲を見渡し調べてみるが、特に何も見つからなかった。

 俺が少しガッカリしてるのを察知したのか、トウロが語り掛けてきた。

 

『それにしても、ヒロシ殿。眼に魔力を通して周囲を確認するという行為、なかなかどうして、この短期間でそこまでの魔力制御が出来るというのは素晴らしいことじゃぞ』


「そうなのか?」


 実は先程の戦闘の際、眼に魔力を通したときに部屋全体の様子が変わって見えたというのを思い出し、試しにやってみた程度の事なんだけど。

 

『うむ。ヒロシ殿は実に面白い。このまま魔力制御の修練を重ねれば、かなりの使い手になると我は確信しておる……』


 トウロはそこまで言った後、一度間を置いて続ける。

 

『しかし、この後、元の世界へ戻られるのであろう』


 心なしか、トウロの"言葉"が寂しさを帯びているような気がした。

 

 


 


いつもお読みいただきありがとうございます。

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