第18話 コンビニ店員は慌てる
トウロは解析を終えた魔王城の情報を、身構えている俺とマリーに伝える。
『城内の構造自体は、以前我が訪れた時と変わらぬ。ここから侵入し、少し進めば倉庫がある。そこに数体の魔物。更に進んだ先が玉座の間の前室、玉座の間となる。但し、厄介なのは前室と玉座の間に五百体以上の魔物が居るという事じゃ。魔力を封じられている兵士らでは、数の差で圧倒的に不利であろう』
「ご、ご、五百体って、どうゆうことなの?」
トウロの伝えた情報にマリーが慌てた様子で言った。
それもそのはず。マリーが持っていた情報では魔物は百体程度。それが、五百体と告げられたのだ。
『我にも判らぬが、前室だけで五百体近く居る。玉座の間には、やや大型の魔物が数十体といったとこじゃ』
「そんなの……どうやって……」
淡々と告げるトウロの言葉に絶望を絵に描いた様な面持ちで、言葉を無くすマリー。
それにしても五百体の魔物か……。予想をはるかに超え、そして実際にその数を聞いてしまうと、どうしても及び腰になってしまう。
かといって、ここまで来て引き返すなど本末転倒。ならば、魔力封じを解除して戦えば何とか善戦出来るかもしれない。
いや、それは無理だ。そもそも魔力を使った戦い方など、召喚された兵士の誰も経験していない。そんな状況で、トウロはどうするというのだ。
再び、横に居るマリーの方を見ると、彼女も何やら考え始めているみたいで、今までに見たこともないほど険しい表情になっている。しかし、名案が浮かんでいるという様子もなく、只々思考が空回りしている。そんな風にも見えた。
それでも、何か打つ手はないのかと俺はトウロが伝えてきた情報に一度頷き、続きを促した。
『そこでじゃ、兵士たちはここから出た先の倉庫で待機してもらい、我とヒロシ殿だけで魔物どもを掃討する』
「ふぇ?」
俺はトウロが放った言葉の意味を理解出来ず、変な声を漏らしてしまう。隣にいたマリーもポカンと口を開けて固まったままだ。
『二人とも、何を呆けた顔をしておる。無為に犠牲を出す必要もなかろう。我とヒロシ殿であれば、この程度の魔物など問題なく掃討できる。ハハハハハハハハ!』
トウロの高笑いが俺とマリーの頭の中に木霊する。
困惑の中、先に我に返ったのはマリーだった。
「……それで大丈夫なの? 石魔人さん。どう考えても無茶な気がするんだけど」
いつもの軽い調子は成りをひそめ、マリーの言葉に真剣さが窺えた。
『うむ。ヒロシ殿には少々頑張ってもらうことになるが問題はない。安心して任せよ』
「俺に頑張れとか、無理だろトウロ? それに《いのちだいじに》作戦はどうなった?」
マリーとトウロの会話に俺も平常心を取り戻し、トウロに対して思う所を伝えた。
『いや、ヒロシ殿でなければ、あの魔物どもを倒す事は叶わぬ。もちろん秘策も用意してあるので心配は無用じゃ! 故に《いのちだいじに》も継続中というわけじゃ!ハーハハハハハッ!』
俺とマリーにしか聞こえない"言葉"で、腕輪スタイルの石魔人トウロニギスは自信満々といった調子で高笑いとする。
呆気にとられ、言葉を失う俺たちだったが、それでもこの状況を打破するにはトウロに頼るしかない。
そしてトウロが告げた"言葉"を思い出す。
───秘策か。
◇ ◇ ◇
ここは魔王城への入り口。秘匿された地下通路を抜け、トウロからの想定外の情報と、その打開案を告げられた後、俺たちは金属とも岩ともつかない不思議な材質で出来た鈍色の扉の前に居る。
しばしの休憩を終え、召喚された兵士達にも作戦内容が伝わった。
まずは扉の先、魔王城の地下通路へと進み、そこから上階へと上がる。さらに上階の通路から城の倉庫フロアへ侵入。
その倉庫は体育館程度の広さがあるらしいので、その場に居る数体の魔物を掃討して兵士全員を待機させる。
その後、俺はトウロと共に玉座の間を目指す。
ザックリとしているが、俺に理解出る作戦内容はこんなもんだ。
細かい行動などはプロの軍人である彼らに任せよう。
「扉を開けるのはヒロシに任せるねー」
マリーのその声を合図に周囲の兵士たちは警戒態勢を取る。
俺はゴーレムボディを纏わせた左手を鈍色の扉に添え、トウロの存在を意識しながら少しずつ魔力を集中させる。
───ガチャリ
扉の中から金属音が響き、それが解錠したことを教えてくれる。
先遣隊の一人に目配せで解錠を終えたことを伝えると、俺は後方に下がった。
緊張が周囲の空気を支配する中、ゆっくりと扉は開かれる。
先遣隊が扉の先にある通路の様子を確認すると、隊列の一部が素早く通路に入り込む。恐らく偵察隊だろう。その後に続き、先遣隊も足早に城内へと入る。
しばらくすると通路の曲がり角に配置された先遣隊員からハンドサインが送られ、上階にある倉庫フロアの制圧が完了したことを知る。
「隊列確認!これより魔王城内部へと侵攻する。総員、進め!!」
部隊長の一人が非常によく通る声で各部隊に対して指示を放った。それに呼応するかのように俺を含めた魔王討伐隊が一斉に魔王城へと侵攻する。
城内は薄明るく、良く磨き上げられた石板が通路を形成している。道幅も馬車が通れるのではないかというほど広く、総勢約四百名の魔王討伐隊の進軍は速やかに行われた。
上階への階段を上り、倉庫フロアへと足を踏み入れた。
ガランとして何もない空間。倉庫とは名ばかりのフロアであった。
討伐された数体の魔物が横たわり、何名かの兵士が死体の検分を行っている。
俺も気になったので、近づきチラリとその様子を窺った。
『下等な魔物の一種、ブラッドスコーピオンじゃな。単体では然したる脅威ではないが、群れて行動することが多いので油断は禁物じゃ。もちろん、我の敵ではないがな。ハハハハハ』
ポロシャツの襟元からゴーレムボディの一部を覗かせ、トウロが言った。
俺はある程度トウロの実力を知っている。だけど、不安がないと言えば嘘になるだろう。
この後の作戦行動。俺とトウロが五百にも及ぶ魔物の群れと対峙しなければならない。
このフロアへと辿り着くそれまでの道程でも、そのことばかりが頭をよぎった。
フロア内では兵士たちが整列を始め、この後の作戦についての説明を受けている。
俺は部隊長たちが集まっている一団と合流して、マリーを介して今後の事を話し合う。
「───それで、ヒロシさんが城内の罠を解除して魔王の居場所である玉座の間までの経路を確保するということですね? しかし、お一人でとなると、かなり危険を伴うのではないでしょうか」
部隊長の一人がマリーから聞いた作戦の確認をしてきた。
さすがに俺とトウロが玉座の間までの魔物を掃討するなんてことは言えない。その辺はマリーが上手く誤魔化す手筈になっている。
「うーん。そうだねー、次のフロアまでの通路だけは偵察隊に確認してもらった方がいいかもねー。その方がヒロシも安心でしょー?」
「ああ、そうしてもらえると助かるかな」
マリーはトウロから事前に聞いた情報で、通路には魔物が居ないことを知ってる。それを踏まえての発言だった。もちろん俺もその言葉に乗って返事をした。
「では、五分後に偵察隊による通路確保を開始。ヒロシさんはその五分後に行動開始という事でよろしいでしょうか?」
先程の部隊長は納得といった面持ちで、こちらに具体的な作戦の確認を行う。
俺とマリーも部隊長に頷きで同意を示し、準備に取り掛かった。
少し離れた場所でマリーと最終確認をする。
「通路は問題ないとして、その後どうやって戦うつもりなんだ?」
俺はマリーの方を向きながら、意識だけトウロに向けて言った。
『まずは、訓練時もやっていたように我がヒロシ殿を覆い雑魚を蹴散らせば良いであろう。その後、玉座の間に入り魔王とやらと対峙することになるはすじゃ』
「それはそうだけどー、雑魚はともかく石魔人さんは魔王の力量を把握しているのー?」
少しだけ疑う様にマリーがトウロに言った。
『それは問題ない。魔王たるもの隠しても隠し切れない魔力の奔流が辺り一帯を支配しているはず。だが、城内にその様な気配はない。明らかに偽の魔王、もしくは魂を持たぬ何らかの傀儡の可能性が高い。話し合いに持ち込めれば、魔王城と呼ばれている所以を知ることも叶うであろう』
トウロ曰く、本当の意味での魔王とやらはこの城には居ないということだった。それならば何とかなるかも知れない。
俺はトウロの言葉を信じ、マリーに親指を立てて笑顔をみせた。
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