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第17話 コンビニ店員は地下通路を進む



 竜魔族であるドラゴンからの襲撃から避難してきた俺たちは少しの休憩を挟み、マリーの案内で目的地である秘密の地下通路へと到着した。

 

 依然、深い森の中ではあるが、いくらかの日の光も届き足元に不安はない。

 朽ち木を越え、草を踏みしめ総勢約四百名がたどり着いた地下通路への入り口。

 

 俺と石魔人トウロニギスにとって、信頼のおける仲間であるマリーが案内をしてたどり着いた場所。

 一見すると何でもない森の景色の一つでしかないが、予めトウロから情報を得ているマリーは何の躊躇いもなく一本の巨木の前に立つ。

 

「んじゃ、地下通路の入り口を開くよー!一応、警戒しておいてね」


 マリーが周囲に向けて言うと、事前にある程度の情報共有をしていた部隊長たちが頷き、部下たちへハンドサインで指示をする。

 すると、マリーが俺に視線を向けて「こっちに来てくれ」と手招きしてきた。

 俺は一瞬、何故? と思ったが、何はともあれ指示に従うことにした。

 

「……あとは石魔人さん、よろしくね」


 マリーは側までやってきた俺に小声で伝えた。正確には腕輪スタイルのトウロにだが。

 

『うむ、承知した』


 俺たちにだけ聞こえる"言葉"でトウロが返答すると同時、腕輪の一部が形状を変え、俺の左腕を覆う。

 トウロのゴーレムボディに覆われた俺の左腕は、俺とマリーの前に立つ巨木へと触れる。

 俺の左腕を覆っていたゴーレムボディが再び形状を変え、巨木に突き刺さった。

 

『ヒロシ殿、魔力封じのブレスレットの機能を一時解除する。竜魔族に察知される危険があるので、わずかな時間になるが、その間に我へ魔力を注ぎ込んで欲しい。頼んだ』


 何となくトウロの意図を察した俺は小さく頷き、魔力封じが解除されたのを感じ取ると、腕輪モードのトウロに魔力を集中させた。

 

『よし、その調子だ。もっと注ぎ込むのじゃ!』


 トウロに言われるまま、俺は更に集中を高め、魔力を注ぎ込んだ。

 

 すると次の瞬間、目の前の巨木を囲むように幾何学模様の魔方陣らしい紋様がいくつも浮かぶ。

 描かれている幾何学模様が次々にその形状を変化させ、紋様全体が白く発光を始めた。

 その光は徐々に勢いを増し、周囲に居る俺たちの視界を白一色に染め上げる。

 

 眩しさに目を瞑り、光が収まるのを待つ。

 

 

 

『うむ、成功の様だ。ヒロシ殿、もう目を開けても大丈夫じゃ』


 トウロの語りかけに応じて、ゆっくり目を開くと、巨木の根元に直径五メートルはあるのではないかと思われる大穴が開いていた。

 大穴の先は真っ暗で何も見えない。

 吸い込まれそうな暗闇に恐怖さえ感じた。

 

「これが、地下通路の入り口なのか」


「そうみたいだねー。一応、入り口付近の安全確認するからヒロシはちょっと下がってて」


 俺が地下通路の入り口に驚いている傍ら、マリーは淡々と作業を開始する。

 いつの間にかトウロのゴーレムボディも元の腕輪形状へと戻っていて、俺もマリーの指示通り一旦後方へ下がることにした。

 

 安全確認のための人員が地下通路の入り口へと駆け寄る。

 駆け寄ってきた兵士の数人がすれ違いざまに俺へとサムズアップをしてくる。

 俺はくすぐったい感覚を味わいながら、後は任せたという意味を込めて片手を上げ、応えた。

 

◇ ◇ ◇


 細かい時刻は分からないが、概ね昼過ぎといったところだろう。

 巨木の根元に現れた巨大な穴。安全確認を終えた地下通路の入り口では多くの召喚された兵士たちが整列し、順次内部へと入って行く。

 マリーは先頭を行っているのだろう。すでに姿は見えない。

 俺も所属している部隊長の指示で、隊列を組み内部へ歩を進めた。

 

 外の明るさとのコントラストで通路内部は真っ暗に見えたが、中に入り少し目が慣れると薄ぼんやりと通路の両壁が光っているのが分かった。

 足元も辛うじて確認できる。

 ただ地下通路独特の湿度を纏った空気が絡みつくのが不快だった。

 石造りであろう、壁面からは俺たちの足音だけが幾重にも反響している。

 皆疲れているのだろう、誰も口を開こうともしない。それがまた、響く足音を強調している様に思えた。

 

 

 薄暗い地下通路。どれほど歩いたのだろうか。時間の感覚も距離の感覚も随分と曖昧になってきた。

 俺にはトウロからもらった体力を回復する魔石があるので、肉体的に疲れを感じる事はない。

 しかし、閉鎖された空間をただただ歩き続けるというのは精神的に堪えるものがあった。

 そんな愚痴にも似た思いを頭の中で巡らせていると、トウロが語り掛けてきた。

 

『そろそろだな。先頭組は城内への入り口に差し掛かる頃合いじゃ』


 マリー率いる先頭組とは、時間にして数分程度離れている。何かあれば後続組に連絡が来るはずだ。俺は何事も起きないことを祈りつつ固唾を呑む。

 それから間もなく、先頭組から連絡が入り、無事に城内への入り口へと辿り着いたことを教えてくれた。

 トウロの予想通り、この地下通路は秘匿されていて魔王とやらには知られていないらしい。その証拠に一体の魔物との遭遇もなくここまで来れたのだから。

 あとは城内に突入した後の話となるだろう。

 

 俺は急ぎ、マリー達先頭の集団へと合流する。

 話を聞く限り、突入前に一旦休息を取って、いわゆる魔王討伐戦に挑むということらしい。

 それは俺も同意だ。

 それでも、出来れば召喚された兵士たちが無事に元の世界へ帰還できる様にしたい。もちろん俺自身も含めての話になるが。

 

 俺は一旦、先頭の隊列と離れてトウロに小声で話しかける。

 

「なあトウロ、ここまで来て何か分かったことはないか? 出来れば生きて元の世界へ戻る手段がないか知りたいんだけど」


『そうだな。ヒロシ殿を含めここに居る兵士たちが無事に元の世界に戻れるのであれば、それは僥倖。少し調べてみるか……』


 トウロはそういうと、先程入り口である大樹の根元で行ったのと同じく、魔王城へと続く今は閉じられた扉へ触れるため腕輪スタイルを一部変形させ、城内の状況を探る。

 変形したゴーレムボディが扉に触れると、接触した部分が淡く光り出す。

 そこから何らかの情報がこちらへ流れ込むのを俺自身も感じる。しかし、その情報が何なのか俺にはさっぱり分からない。

 例えて言うなら、コンピュータの文字化けした画面をスクロールしながら見せられている様な感じだ。

 

「トウロ、何か分かった?俺にはさっぱりなんだけど」


 若干不安になった俺はトウロに訊いてみた。

 

『うむ、しばし待たれよ。城内情報のほとんどが暗号化されている様で、解析に少々時間がかかる。というか、この暗号化の癖はどこかで見覚えがあるのう』


「じゃあ、トウロの知り合いが城内の情報を暗号化したってこと?」


『そうじゃな。だが、今は城内の情報を解析するのが先決。誰が暗号化を施したのかは後でゆっくり思い出すとする』


 腕輪スタイルのトウロがフル回転で思考しているのが、眷属契約のパスを通して俺にも伝わる。今はトウロの解析を邪魔しない方がいいだろう。そう考えた俺は、意識をトウロから一旦切り離し、マリー達が居る方へ視線を向けた。

 大体の話を終えた様子のマリーもこちらの視線に気付き、こちらへと歩み寄ってくる。


「どう? こっちは偵察隊と先遣隊の計四班で侵入し、フロアを制圧。その後、本隊が突入という手筈になっているんだけど。ただ、石魔人さんが教えてくれた内部構造はここまでだからさー、その先どうするかの指針が決められないんだよねー」


 マリーはいかにも軍属といった感じで、この後の行動予定を教えてくれた。

 

「じゃあ《いのちだいじに》作戦復活ってところだな。で今、トウロが城内の情報を探っているとこなんだけど、どうやら情報自体が暗号化されているみたいでさ、少し時間が掛かりそうなんだ」


 俺は軽口を交えながら応えた。マリーも以前の作戦会議で言っていた《いのちだいじに》という言葉に苦笑しながらも、その表情は決して暗いものではなかった。


「わかった。今は休息して石魔人さんからの情報提供を待つことにするねー。一応、部隊長連中には、ヒロシは異世界の情報に詳しい工作系エージェントってことにしてあるから、その辺、上手く立ち回ってねー。無理に前線へ出る必要もないし、その辺は戦闘のプロの皆さんに任せておけばいいよー」


 俺はただのコンビニ店員なんだけどな。まあ、それでも今までの行動の辻褄を合わせには必要なことなんだろう。俺はそう思うことにして気持ちを切り替え、マリーにサムズアップで応えた。



『……うむ、待たせたな。概ねではあるが、城内の様子は把握した。マリー殿も居るようだな。では、魔王城攻略及び妖精王探索の具体的な作戦を伝えよう』


 トウロは暗号化された城内の情報解析を終わらせ、俺たちだけに聞える"言葉"で、これからどう行動すべきかを伝えてくる。


 俺とマリーは互いの顔を見合わせ、一つ頷くとトウロの次に続く"言葉"に固唾を飲んで構えた。




 


 

 


いつもお読みいただきありがとうございます。

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