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第15話 コンビニ店員は作戦会議をする


「俺はへっぽこコンビニ店員でも何でもいい。だけど、元の世界へ戻るための手がかりとして魔王討伐の真相を知りたいんだ。どうか協力してくれ! マリー!」


 俺の渾身のお願い。プロの軍人としてのマリーの力が必要なのだ。だから、もう一度言おう。

 

「頼む! マリー。どうか力を貸してく……」


「あーあーわかったよー。恥ずかしいからやめてよねー」


 俺の二度目の懇願を遮り、マリーは軽い調子で応えてくれた。

 

「でもさー、石魔人さんとヒロシが居れば、あたしなんか必要ないんじゃないのー? まじチートだし、足手まといになるだけなんじゃない?」


『そんなことはない。マリー殿が上手く立ち回ってくれることで、我とヒロシ殿が動きやすくなる。我自身がマリー殿達の世界の軍属の知識が乏しいというのもある。どうか力を貸してくれ』


 マリーは食べかけの保存食を見つめ、トウロの言葉にどう答えるべきか考えている様だった。

 しばしの沈黙……そしてマリーは口を開く。

 

「誰も協力しないなんて、一言も言ってないから。逆にこちらこそよろしくだよー。へっぽこヒロシも心配だしねー、アハハー」


「おおおおお!」

『うむ』


 

 

 こうして俺とマリー、そして石魔人トウロニギスは改めて仲間と呼べる間柄になった。

 一時はどうなるか不安で仕方なかったが、俺がへっぽこであるという事がプラスに働いた様だ。俺自身の精神ダメージは結構なものではあったが、そんな事は意に介さないといった雰囲気で、マリーは魔王討伐の具体的な行動指針を俺とトウロに語ってくれた。

 

 

 ◇

 

 それぞれが保存食を食べ終わり、くつろいでいると王国軍の甲冑姿の騎士が数名、こちらの休憩陣に現れた。どうやら、これからの行動について説明があるらしい。

 

「これより魔王討伐軍は半日の移動後、魔王城攻略本陣を設営する。設営後、一晩の時を置いて明朝、魔王城内へと侵攻する。攻略の詳細は本陣設置次第、説明する。各員、移動の準備を!」


 俺たち召喚された兵士は、その指示を受けて休憩陣を撤去。速やかに移動を始める。

 

「なあ、魔王を倒さなくても元の世界に帰れるって話だったけどよー、一体どういう理屈なんだろうな?」

 森の中での移動中、近くに居た兵士の一人が誰に言うともなしに語り始めた。

 

「さあな。でも、この討伐戦が終われば元の世界に帰れるってのは間違いないみたいだし、いいんじゃないか、理屈云々は」


「そうだな、俺も早く母ちゃんに会いたいよ」


「それより、俺なんか部隊行動中にこっちに飛ばされちまって、運よく戻れても軍規違反で懲罰の可能性が……」


 兵士たちはそれぞれの思いを口にし始めた。やはり話題の中心は元の世界に戻ること。家族を残し単身召喚された者、部隊行動中に召喚され戻ったときに懲罰があるんじゃないかと怯える者。

 

 しかし俺はこの時、この人たちが無事に帰れる方法は何かないかと考えていた。

 以前、マリーは言っていた。「戻ってきたのは死体の山だ。死因はそれぞれ深く斬りつけられた者や全身丸焦げの者、部位欠損による失血死……酷い有様だったよ」と……。

 

 俺には分かる。平和な日本のコンビニ店員だからこそ、尚更理解できる。これは理不尽な行為だと。

 

 ◇

 

 鬱蒼と樹々が生い茂る森を抜け、総勢約五百の行軍が止まる。

 日も傾き始め、予定通り俺らは魔王討伐の為の本陣を構築する。

 

 本陣は森の外の少し開けた場所に作られた。更にその先、薄暗い林に囲まれた丘の上に魔王城は在った。

 俺が居た世界のヨーロッパの古城と似た石造り。堅牢そうな建造物であった。

 魔王城全体には薄っすらと靄がかかり、これでもかという程に怪しさをアピールしてくる。

 

 討伐軍本陣は魔王城の手前、数キロメートルといった場所。俺は本陣構築を終えた後、マリーと合流し最終とも言える打ち合わせを始めるべく本隊から少し離れた位置で口を開いた。

 

「いよいよだな。多分、これが最終確認になると思うんだけど何かあるか?」


 特にこちらからは提案はない。ここで何かを発言できる様なコンビニ店員は居ないだろう。そもそも、魔王討伐に参加するコンビニ店員などいないのだろうけど。

 

「あたしからは昨日伝えた通り、精鋭部隊の後続として危険を回避しながら情報を集めるつもり。あたしらの世界に帰還した生き残りからの情報で分かっているのは魔王と対峙する直前に百体前後の魔物が襲って来るってことねー。そいつらはそれほど強くないけどー、それでもまともに戦えば、それなりのダメージはあるはずー。だから作戦は……《いのちだいじに》だよー」


 どこのロールプレイングゲームだよ!と言いかけながらマリーの普段通りのとぼけた表情に呆る。すると、俺たちだけにしか聞こえない"言葉"でトウロが唐突に話しかけてきた。

 

『あれが魔王城か。以前来た時と何ら変わらぬ。外見同様、内部構造が同じであれば策はある』


「へー、石魔人さんはココに来たことがあるんだ。じゃあさー魔王にも会ったことがあるんじゃないのー?」


『いや。ココへは何度か足を運んだことはあるが、当時は魔王の住処などではなかったからの、魔王城と呼ばれていることに少し驚いているというのが正直なとこじゃ』


 トウロの思い出話に気安い口調でマリーが尋ねる。

 


「あら残念。魔王のこと知ってたら、対策も打てたんだけどねー。でもさー、魔王が住んでないときは誰が住んでたわけ?」


『妖精王だな。我は訳あって妖精王に会うために何度か訪れた。もちろん妖精王自身が魔王であるはずはない。奴は弱いからな。恐らく人族の軍だけでも簡単に討伐可能であろう。だが、妖精王と友好を結ぶことはあっても、敵対するなど考えられん』


「妖精王ってことは、妖精の王様なのかなー。じゃあさー今住んでる魔王って誰なのー?」


『我にも分からぬ。だが、それを調べるためにヒロシ殿と此度の魔王討伐に参加した。恐らくではあるが、マリー殿にとっても重要な情報なのではないかと我は考えておる』


 マリーは少しだけ目を細めトウロへの質問を続ける。

 

「それってどういうことー?」


『うむ。以前ヒロシ殿にも説明したが、妖精王は空間を統べる者。エスダート王国が使用した異世界人を召喚するための転移陣なども、妖精王が力を貸さねば成しえぬこと。要は元の世界へ戻るために必要な妖精王の居城が、魔王城として今ここに在るという疑問の答えを得ねば事は進まぬ。という事じゃ、マリー殿』


「うわー。それって超重要案件じゃないー。というか、さすが石魔人さん、この世界の住人だけあって事情に詳しくてビックリしたわー。だってさー転移者の街にいた騎士団の人たちや住民は、そんなこと一言も教えてくれなかったんだよー」


『そうであろう。この様な事情、人族でも王族やそれに近しい者しか知らぬこと。まあ、石魔人族のトウロニギスにとっては全く?他愛もない情報だがな。フハハハハハハハハ!』


 次第に表情を険しくしてゆくマリーとの問答で持ち上げられたトウロは一切の空気を読むことなく、有頂天の様相で高笑いを上げた。

 それとは別にいつの間にか、俺の割り込む隙は無くなっていたわけだが、それはそれとして仕方のない事だろう。事情通でもない俺が、何を提言したところで話が進むとも思われない。

 マリーも自身の軽口めいた発言とは裏腹に、事の重要さに苦虫を噛み潰した様な表情で誰も居ない虚空を見つめている。

 

 そこで俺はやっと、この作戦会議に口を挟むことにした。

 

「トウロの情報に驚いたのは俺も同じだ。でも、今回はそれ以上にやることがあるんだろ? ならさ、その《いのちだいじに》って作戦で、妖精王の情報を集めることに専念しないか」


 俺の発言にマリーが一瞬こちらを向くが、相変わらずの表情で黙っている。トウロからの情報を頭をフル回転させて整理している様にも見えた。

 

『我もヒロシ殿の言った通り、マリー殿の作戦で城内を探るのが得策だと考える。もちろん案内は任せるがよい』


 話を進めるためか、トウロが俺の発言を後押しする様に言ってきた。

 マリーはうんうんと何度か頷き、一度強く瞬きをしてから普段の表情へと戻った。

 

「そうだねー。石魔人さんに頼り切りになっちゃうけどさー、それでも少しでも、あたしたちがなぜ召喚されたのか本当の理由を知らなきゃだしねー。ここはあたしも張り切って頑張るよー」


 マリーはそう言った後、一呼吸おいて、俺と腕輪スタイルのトウロに向かって再び口を開き言う。

 

「ヒロシ、石魔人さん、改めてよろしくだよー!」


 ◇ ◇ ◇

 

 だがしかし、結局のところ俺たちの作戦会議は魔王討伐が開始されるより先に無駄になってしまう。

 

 本陣が設営され、翌朝には部隊を整え魔王城へと侵攻するはずだったのだが、それは夜が明けきらない漆黒の夜空から襲ってきた。

 周辺の警戒を行っていた王国軍の騎士の誰かが同僚の騎士に言う。


「おい、あれは何だ?」


 同僚の騎士は言われ、夜空に向かって指さされた方を向き眉間にしわを寄せ凝視する。そして数舜の後、それが何であるかを理解し、悲鳴交じりに呟いた。

 

「ド、ド、ドラ……ゴン!しかも、何だこの数は」


 その声に周囲に居た騎士たちもそれを確認すると、急ぎ本陣に待機している上官へと報告を上げる。

 

「報告!! 竜魔族と思われるドラゴンが現れました! 数は、や……約二十!」


 報告を聞いた上官たちは驚愕の表情で本陣天幕から掛け出る。そして騎士たちが呆然と眺めるその先、漆黒の夜空よりも更に黒い影が二十数体。

 一体で千を超える兵士を殲滅しうるという脅威が二十数体。

 

 

 そしてその数刻の後、魔王討伐隊本陣は竜魔族の猛威によって壊滅する事になる。

 

 

 

いつもお読みいただきありがとうございます。

最新話投稿は、毎週水曜日・土曜日となっています。どうぞ宜しく!

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