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第14話 コンビニ店員はへっぽこ扱いされる


 魔王討伐軍の行軍も魔王城へあと少しといったところで、準備のためか昼前にも関わらず、深い森の中で長めの休憩を取ることになった。

 

 俺ら召喚された軍隊と甲冑姿の兵士の二組に分かれ、一定の距離を保ち簡単な休憩陣を構築する。

 各員がそれぞれ腰を下ろし、配給された保存食に齧り付き鋭気を養う。そんな中、俺はマリーの姿を探し出し、マリーもそれに気付いた様で、こちらに駆け寄ってきた。

 

「あと少しで到着っぽいよー」


 遠征出発以来、まともに会話することもなかったが、マリーは相変わらずの軽い口調で話しかけてきた。

 

「ああ、そうみたいだな。で、少し込み入った話があるんだけど良いか?」


 俺は魔王討伐戦での大まかな立ち回りの確認や石魔人でゴーレムのトウロニギスの事など話さなければならない事があった。

 少しだけ真剣な俺の表情を確認したマリーは周囲を軽く見渡し、親指を立てて少し離れた大樹の陰を指さした。

 俺もそれに軽く頷き、そちらへ向かう。

 

「よいしょっとー。それで話ってなーに?」


 大樹の根元付近に腰を下ろし、手に持った保存食の封を開け、何気ない雰囲気を保ちながらマリーは言った。

 

「マリーは魔王討伐の時、どんな動きをする予定なんだ? 出来れば俺も同行したいんだが」


「あー。それは全然かまわないよ。ってか情報共有もしたいし、ヒロシの近くに居るのが一番安全だと思うんだー。だから、こちらからも同行は大歓迎だよー」


「それは有難い。で、作戦とか何かあるのか?」


「作戦ねー。とりあえず現場に行ってみなきゃ分からないけど、先陣を切って特攻とかはないかなー。情報収集が主な任務だし、死に急ぐ必要もないからねー」


「それはそうだよな。分かった、現場ではマリーの指示に従うことにするよ」


「あ、それとコレの魔力封じは機能させておかないと魔王城に入れないらしいから、注意してねー」


 マリーは転移者の街で装着されたブレスレットをクルクル回し言った。

 そういえば、部屋の鍵兼魔力封じ機能付きのブレスレットを外していなかった。他の召喚された兵士も同様にブレスレットをはめたままだ。

 但し、俺のはトウロによって魔力封じ機能を解除されたものなのだが、魔力封じを機能させなきゃならないのか。

 

『うむ……よし、これでヒロシ殿の魔力は封じられた。我の行動に一部制限が掛かるが、然して問題にはならんだろう』

 

 相変わらず仕事の早い石魔人トウロニギスだ。

 俺は一旦ブレスレットに触り、操作している体を装いながらマリーに礼を言う。

 

「そうだったのか、助かるよ。言われなきゃ魔王城の前でお留守番するはめになってたからな。ほんとにありがとう」


「フフ、礼ならビエラ教官に……って言っても、もう会えないかもしれないけどねー」


 マリーは薄く笑いながら、答えてくれた。

 

「ビエラ教官が?」


「そう、出陣の時に言われたの。あの人、何だか知らないけどあたしたちの事情をある程度把握しているみたいだったわー」


 謎の存在ビエラ教官の謎が更に深まった。

 しかし、これ以上ビエラ教官について詮索しても切りがないだろう。そう判断して話を進めることにした。

 


 ひとまずは、魔王討伐時にマリーと共に行動することが決まり、少しだけホッとした。

 俺も配給された保存食に齧り付き、以前から打ち明けようとしていた石魔人トウロニギスの事をどう話そうか考える。

 

「……なあ、マリー」


「なによ、深刻な顔して。まさか、この討伐戦が終わったら付き合ってくれとか変なフラグ立てるんじゃないでしょうねー」


「いやいや、そんな話じゃないから」


「だったら何?」


 俺が話を切り出そうとして、それに軽口で応えるマリー。そして、俺にだけ聞こえる"言葉"でトウロが語り掛けてきた。

 

『我に任せよ。マリー殿にこの腕輪に触れさせ、我との会話を可能にすれば問題なかろう』


 うわ、またトウロに丸投げか。でも俺が説明するよりよっぽど説得力があるだろう。

 

「よし、わかった。トウロに任せるよ」


 俺は現在腕輪モードの石魔人トウロニギスに言った。

 

「え?何?誰に何を任せるって?」


 突然トンチンカンな言葉を発した俺にマリーが困惑の表情を浮かべ、俺の顔を覗き込んできた。

 俺はマリーに一瞥すると腕を捲り上げ、装着されている腕輪を露わにする。

 

「マリー、この腕輪に触れてもらえないか。俺じゃ上手く説明できないから、まずはこの腕輪に触れて話を聞いてくれ」


 マリーはズイっと目の前に差し出された腕輪を凝視しながら言う。

 

「何だか分からないけど、いいの?これってヒロシの任務に関わる事なんでしょー。何だかコレ、凄い威圧感あるしー」


「ああ、問題ない。この事をあらかじめ知っておかないと逆に後々問題になる可能性の方が高い。だから今は俺を信じて、この腕輪に触れて欲しい」


「もー、分かった分かった。何だか怪しいけど、触れるだけでいいんでしょ…………あっ!」


 少しだけ訝しげな表情を浮かべながら、マリーは腕輪に触れた。そして何かを感じたのだろう、目を見開きその場で固まった。

 

「よし、あとは任せた。トウロ」


『うむ。任されたぞヒロシ殿』


「えっ! 誰?」


 腕輪に触れることによってトウロとのパスがつながったのだろう。マリーは周囲には聞こえない"言葉"を聞き狼狽えている。

 

『驚かした様ですまぬ、マリー殿。我はヒロシ殿の眷属にして、この世界の住人、石魔人族のトウロニギスという。今は人目に触れぬ様、腕輪を模しておる。基本は人型ゴーレムという風体なのだがな。さて、この度はヒロシ殿との同行に感謝する。聞けば、魔王討伐の真相を調査するという、我々と同じ目的。ならば、互いに協力しあい目前の諸問題を解決しようではないか。ハハハ! 心配は無用! 何かあれば我が手助けするので問題はない』


 さすがトウロだ。マリー相手に一切の迷いなく言い切った。特に最後の部分は。

 それを受けたマリーは口をパクパクさせながら腕輪と俺を交互に見返す。そして何を勘違いしたのか……

 

「ヒロシ! あんた、この世界の住人なの!?」


「いやいや、違うから。トウロはこの世界の住人で間違いないけど、俺は日本人でコンビニ店員だから」


「そんなの信じるわけないでしょー!しゃべる腕輪を持っているコンビニ店員なんて聞いたことないよー!」


 何か話が変な方に向かっている気がする。ここはひとつ、正直に話した方が良さそうだな。

 

「トウロとはこっちの世界で知り合って、俺が元の世界に戻る手伝いをしてくれているんだ。実際、俺はマリー達とは違う方法でこの世界に飛ばされた。それで偶然、転移者の街を見つけて合流しただけなんだ。だから頼む、信じてくれ」


 色々端折ってはいるが、大筋は問題ないだろう。あとはマリーがどう理解してくれるかに掛かってる。

 

 マリーは、未だ驚き交じりの訝しげな表情でこちらを見ている。気のせいか、俺と距離を取る様に後ずさっている様だ。

 

 このままじゃ厳しいか。と、思案しようとしたときトウロが爆弾発言をした。

 

『マリー殿、ヒロシ殿はへっぽこなのだ!どうか力になって欲しい』


 それを聞いたマリーは一瞬固まり、肩を震わせ、ついには吹き出した。

 

「アハハハー! なにそれー。ヒロシかっこ悪すぎでしょー。日本のコンビニ店員が異世界に飛ばされ、知り合ったこの世界の住人にへっぽこ扱いされてー。しかも、この石魔人さんはヒロシの眷属なんでしょ? どっちがご主人かわかんないよー」


 くっ……。トウロのやつ、何てこと言いやがる。確かに俺はへっぽこコンビニ店員だけど、そこまで言わなくても。

 事実だけに何も言えず、俺はしょっぱい顔をするしかなかった。

 ひとしきり笑ったマリーは、少し落ち着きを取り戻し視線を上に向け、何かを思い出したように尋ねてきた。

 

「でもさー、訓練の時のヒロシはめっちゃ強かったよ。あれって何かのトリック?」


『ああ。あれは我が助力し、ヒロシ殿の肉体を強化していたのだ。でなければ、今回の討伐隊にも選ばれなかったであろう』


「うわー。それってチートじゃんかー。んじゃ、本当にただのコンビニ店員なのかー。どこかの諜報機関の超エリートだと思って気を張って接していたあたしが恥ずかしいわー」


 俺の株が一気に下がるのを感じ、頭を抱え込みたくなった。

 だが、それでも言わなければならないことは伝える。

 

 俺は俯き気味の顔をマリーに向け、今一度表情を引き締める。


 そして言った。

 

「俺はへっぽこコンビニ店員でも何でもいい。だけど、元の世界へ戻るための手がかりとして魔王討伐の真相を知りたいんだ。どうか協力してくれ! マリー!」




いつもお読みいただきありがとうございます。

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