第10話 コンビニ店員は無双する
どうやら午後からはランニング鬼教官の指示で格闘訓練に参加させられる様だ。
とはいえ、格闘経験などないしどうしたものかと思案しながら昼食に用意されたチャーハンを頬張る。
各国の兵士が召喚されているのであろう、食事のメニューが多様で飽きることはなさそうだ。
一緒に添えられたオニオンスープを飲み干し昼食を終えた俺は、トウロと状況確認をすべく食堂裏の人気のないところに移動した。
「トウロ、聞こえているか?」
『うむ、聞こえておる。それにしても、なかなか順調に事が運んでいる様だな』
「ああ、あの体力を回復する魔石のおかげで楽させてもらったよ。それで午後から格闘訓練らしいんだけど、武術とか格闘技とかやったことないんだよね……格闘ゲームなら得意なんだけど」
俺は自嘲気味に格闘技の経験がないことをトウロに伝え、午後からの対策を一緒に考えた。
するとトウロは何かピン!と来たのか、愉快そうに話し始めた。
『格闘ゲーム……あれか!思い出したぞ、画面の中に居る人物を操って戦闘を行う娯楽だ。我も一度やってみたかったのお』
いやいやトウロが格闘ゲームをやりたいとか、今は関係ないんだけどね。
『それでだ、ヒロシ殿!』
「う、うん……?」
◇
そんな話の流れで午後からの対策はトウロの提案によって程なく決まった。現在俺は身体中に薄く張り巡らされたトウロのゴーレムボディをパワードスーツの様に操りながら模擬格闘戦を行っている。
つまり、俺の身体の他者から見えない部分が石魔人トウロニギスによって、すっぽり覆われているという状況だ。
しかも俺の格闘ゲームの知識をトウロが読み取り、最適なタイミングで技を繰り出すという、まさにチート技全開なのだ。
『フハハハハ!ヒロシ殿、無敵だな!』
トウロは俺にしか聞こえない"言葉"で、はしゃぎまくっている。
模擬格闘戦とはいえ、兵士を相手に五戦五勝したのだから気持ちは分かる。ただ、俺自身、格闘ゲームのスキルがここまで通用するとは思ってもいなかったので、驚き半分といった感想だった。
模擬戦は時間内での総当たり戦が基本で、戦闘が終われば互いに次の対戦相手との手合わせとなる。先程倒した五人目が後ろに下がって六人目の対戦相手がこちらに向かって構えを取り、こちらもグッと腰を落とし構える。
すると背後から少し野太いネコ撫で声が聞こえてきた。
「あなた新人さんよね。私はココの教官でビエラっていうんだけど、少しお手合わせ頂けないかしら? んふふ」
俺はその声に振り向き……一瞬ギョッとなってしまった。
ビエラと名乗った教官は、俺のその態度が気にくわなかったのかフンッと鼻を鳴らし、徐に体勢を低く構えニヤリと口元を歪めた。
俺がギョッとした理由……それは二メートルを超えるのではないかという身長と鍛え上げられたモノであると一目でわかる筋肉の鎧。そしてその体躯とは相反し美しくメイクされた面貌、それらの情報の全てが同時に視界から流れ込んできたからなのだ。決してそれ以外の理由でギョッとしたわけではない。
俺が対応を躊躇していると「行くよ!」という掛け声と共に筋肉の鎧がこちらへ迫ってきた。
咄嗟に頭を抱える形で身を屈め防御の姿勢を取ったが、それが精一杯だった。次の瞬間、腹を突き上げる衝撃が全身に伝わり俺の身体は空中に投げ出された。
「うぐっ!」
気を失わないよう大げさに呻き声を上げて意識を繋ぎとめた。
ちょっとこれはヤバイかも……俺が若干の危機感を感じていると、トウロの呑気な言葉が伝わってきた。
『面白そうだな、我も少しばかり手を貸そうか』
投げ出された俺はそのまま背中から地面にゴロゴロと転がるように着地した。全身がゴーレムボディに覆われているせいかダメージは思いの外小さく済んだ。
「凄いわ新人さん。今の一発で気を失わないなんて、どこで訓練を受けてきたのかしら? フフッ…でも、まだ終わりではないのよ」
俺が何とか片膝立ちになり体勢を立て直そうとしていると、ビエラと名乗った教官はその巨大な体躯を揺らしながらこちらへ歩み寄ってきた。
「新人さーん!教官に歯向かうとお尻の穴が大変なことになっちゃうわよー!気を付けてねーアハハハハハハ!」
「マリー!うるさいわよ!いいから黙って見てなさい」
他の訓練生から放たれた突然のヤジにビエラ教官は不機嫌そうに言い返した。
しかしそういったやり取りはトウロにとって十分すぎる隙となった。
『ふむ。今が好機!行くぞヒロシ殿!』
トウロが合図をすると同時、俺の身体は自分の意識とは無関係にビエラ教官へと加速していき足元へスライディングキックを放った。
ビエラ教官はその攻撃に一瞬遅れて気付くと、紙一重、バックステップで回避する。
しかし、俺の意識とは無関係に放たれたスライディングキックはその勢いを更に加速させ、土埃を舞い上げながらビエラ教官の足元を襲った。
「ちょっと! なんなのよっ」
慌てた声を上げたビエラ教官はスネに受けたスライディングキックをいなす様に体重移動でダメージを最小限にとどめると、そのままの動きから体に遠心力を乗せ、こちらへ肘打ちを放ってきた。
迫る肘打ちをまたもや自身の意思とは無関係に両腕でガードするような形のまま身をくねらせ教官の懐に飛び込んだ。
何が起きているのかビエラ教官には理解できていないのだろう、躱された肘打ちは空を切り一瞬だが俺を見失っていた。
実際のところ、俺自身も何が起きているのか分からない。
懐に飛び込み身をかがめた俺の身体。そしてトウロは俺だけに聞える"言葉"でとんでもないことを叫んだ。
『フフ、行くぞ!…昇・〇・拳っ!!』
え? あ? それはダメーーーー!!!
俺の心の声も虚しく、格闘ゲームでは超有名なあの技がさく裂した。
俺の拳がビエラ教官の顎にクリーンヒットすると同時、ジャンプをして威力を増す。更に身体全体にひねりを加え押上るとビエラ教官の巨躯は宙に浮かび、のけ反る様に後方へ飛んだ。
教官が土埃を上げ地面に倒れこむのを確認しながら、俺の身体は更に半回転ほどひねりを加え、地面に降り立った。
うわー、やっちまったなこりゃ。
俺がそんな感想を胸の中で呟いていると、倒れているビエラ教官が大声で笑い始めた。
「はーははははは。これは驚きました!ゲーム技でこの私を倒すとは、さすが日本の若者だわ。はーははははは」
『うむ。この人物にも楽しんでもらえた様で何よりじゃ。フハハハハハ』
ビエラ教官の高笑いに気分を良くしたトウロも俺の頭の中で高笑いを始めたが、怪我を負わせてないか心配になり俺は困り顔を繕いビエラ教官に一礼した。
「すみません、(トウロが)調子にのってしまいました。お怪我はありませんか?」
「あー。私は大丈夫よ。それにしても貴方、強いわね。気に入ったわ、名前は何ていうの?」
「あ、はい。ヒロシといいます。ありがとうございました!」
「ヒロシちゃんね。元の世界に戻ったら、今度は格闘ゲームで勝負したいわね。フフフ」
俺はビエラ教官の言葉に苦笑いで応えた。
それにしてもあれだけの攻撃を受けてもダメージを負っている様には見えない。ビエラ教官恐るべし!
ビエラ教官との一戦で中断していた格闘訓練もその後順調に進み、夕方には終了となった。
トウロのゴーレムボディのおかげで上手くいった。この訓練グループの中ではある程度強さをアピールすることも出来たし、この調子でいけば魔王討伐戦に参加できる可能性も出てくるだろう。
でも、今日のトウロはやりすぎだったかも知れない。もう少しだけ自重してもらわなきゃならないな。
ビエラ教官も見た目はちょっと怖いけど、悪い人じゃなさそうだし良い関係を築ければ何かと力になってくれるかもしれない。明日からも上手くアピールして魔王討伐参加を確実なものにしなければ!
俺は今日の訓練を思い起こしながら、決意を新たにした。
「よし!明日からも頑張ろう!」
お読み頂きありがとうございます!
活動報告に更新についてのお知らせがありますの一読頂ければと思います。
今後とも「石ころ踏んで異世界転移」をよろしくお願いいたします。




