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愛の形は人それぞれ、気付く気付かないは人による3

        *ツバキ視点*


 シャロンを病室の床に寝かせた後、俺とエレナはエルフの街の城へと繋がる大通りを案内もとい散歩していた。

 初めはエレナが指を差しながら自信満々に案内にしていてくれた。その姿はいつも教えて貰っている親に自分が教えるという喜びを知ったばかりの子供のようであった。

「あそこには服やアクセサリーが売ってある場所があって、あっちには屋台が並んでいるのよ」

 終始俺に教える時は自信満々だったが、それじゃあっと最寄りの屋台に寄ろうとエレナの案内について行った時の事だった。大通りから横に曲がり小道に入る。

 エレナの並んで歩いてついて行くも、行けども行けども屋台が見えない。最寄りというからには近い筈なのだが。

「おっかしいわねー。前はここに屋台が何件か並んでいた筈なのに今日は1件も無いわ、休みなのかしら?」

 エレナと二人で散歩をして一番初めの目的だっただけに、出鼻を挫かれた感じになった。二人で何かを食べたり買い物をしたりする、これってデートなんじゃっと思ったがそれが口に出ていたのかエレナが俺を見上げて言ってくる。

「ただ買い物をしたり食べたりするだけでしょう?それなら旅をしている男女のペアは全員常にデートしてる事になるじゃない。それぞれが目的があって旅をしているのが殆どなのにデートと言われるのはどうかと思うわ」

 ぐぅの音もでない事を言われた。たまたま行く所が同じだからと一緒に旅をしている者もいるだろう、それは全部デートしているとはたしかに言えなかった。旅に必要だから食べ物を買い、腹が減ったから食べているだけなのだから。

「たしかにそうだな、けれど俺は今デートで良いと思ってるんだが。大好きなエレナとこうしてゆっくり街を歩いてるんだから」

 大好きと言ったいった辺りでやれやれっと溜息をついたエレナ。

「前から聞きたかったんだけど朝に話しかけたシャロンと良い、ツバキは幼女趣味なの?」

 幼女趣味、それはエレナの事を大好きでやまない俺を差すにはあまりにも酷い言葉だ。幼い、または幼い見た目だから好きなんでしょう?っと言う事を聞いてるのだろう。

「何を言っているんだ。エレナがどんな姿であったにせよ、俺はエレナが大好きだぞ。幼女趣味と言われるのは心外だ」

 余りにも酷い事をエレナが言うものだからちょっと不機嫌に答えてしまった。折角のデートなのだから楽しまなければ。

「あらそうなの?てっきり見た目で好かれているのだと思っていたわ。ツバキを一人城に残した帰りにも人間の男に声をかけられたし」

 待て、今聞きずてならない事を言ったぞ。男に声をかけられた?俺と同じ人間のだと?いや待て、まだそうと決まった訳ではない。きっと道を聞かれただけだろう、そうに違いない。

「道を聞かれただけだろう?俺の嫉妬する姿が見たいと思っているならまだまだ甘いな!」

 内心ドキドキである、お願いだからそうであると言ってくれ!

「嘘は私には分かるといっているでしょう、ツバキこそ甘いわ。それにお生憎様、道案内ではなく体目当ての最低の男だったわ」

 体目当てだと!?なんという奴だ!そいつを殺して俺はエレナと逃げるしかない!

「声に出ているわよツバキ!周りのエルフ達が何を言っているのかと見られているじゃない。それとツバキが気にする必要は無いわ」

 何を気にする必要が無いというのか。俺は滅茶苦茶気にしてしまうのだが、正常な男なら好きな異性が体目的で声をかけられたと聞いて怒らない奴はいないだろう。

「だって声をかけてきた人間の男はもうこの世にいないのだから、ね?ツバキが気にする必要はないわ」

 この世にいない?だから俺が気にする必要は無いと。

「この世って俺らがいる世界には居ないってことだよな。神様がそいつに罰でも与えてくれたのか?」

 それはないだろう思いつつ半笑いで言う俺。

「あら?これも言ってなかったかしら。エルフ族は伴侶は一人だけと言ったわよね、だから当然体の関係も一人よ。さっきも言ったけど体目的で声をかけてきた男は居ないわ、私が殺したもの。他の種族がどうかは知らないけれど体目的で声をかけてきたら私達エルフは殺すわ、たとえそれが冗談であっても私達には冗談では無いのだから」

 エレナが人殺しをした?いやいやそんな馬鹿な。俺の住んでいた国ではナンパした所で最悪警察に捕まる事はあっても殺される事は無い筈だ。

「そ、そうか。エレナが殺したのか、なら安心・・・だな?うん」

 真横に並んで歩く可愛いエレナが人殺しをか・・・。一歩間違うどころか俺もそうなっていた可能性があった訳だ。小さい頃の俺良くやった!

「そういえばツバキの国では違うんだっけ?私達の事をどう説明しているのかも気になるわ」

 どう説明しているかは初めてあった時に教員達からされなかったのだろうか、いや教える立場の者がエルフ族であるエレナに内容を言える筈も無いか。

「俺が教わったのはエルフ族や魔族はいつでも簡単に人間を一方的に殺せる逆らってはいけない対象って事くらいかな」

 正確には逆らってはいけないでは無く関わってはいけないであった。関わればいつ殺されるとも分からない環境に身を置くからと決して関わってはいけないと。もし関わる事があればいつでも死を覚悟しろという事を口酸っぱく言っているの思いだす。

「うーん?嘘は言ってないけど本当の事も言ってないように感じるわ、誤魔化さないで言いなさい」

 全くもうと少しあきれたように言うエレナ。分かっているでしょうにと思っているのだろう。

「ごめん、正確には関わるなと教えられていたから、気分を害するかなと思って」

 俺なりに気を使ったつもりだがエレナからすれば余計な事だったらしい。少し怒っていた。

「気分を害するも何も私が聞いたのだからきちんと教えてくれれば良いだけだわ。私が聞いたのに聞いた答えに対して気分を害すとか、そう言う風に思われていた事の方がよっぽど気分を害されたわ」

 腕を組んでフンッとそっぽ向いてしまうエレナ。ごめんごめんと謝りつつ、そんなエレナが可愛くて頭に手を乗っけてしまう俺。

 エレナは当然余計に怒ってバシッと手で弾かれてしまう。けれど手加減してくれているのかあまり痛くは無い。

「全くもう!直ぐに頭に手を置こうとするんだから!」

 プンプンとエレナは怒るも足を速めて俺を置いてこうとしたりはせず、むしろ先程より少し近づいてきてくれた。言っている事は否定しているのに行動は逆というのが本当に可愛いと思ってしまう。

「本当に可愛いな、エレナは」

 思わず出た言葉にエレナは肘で腰をついてきた。手を払った時は違い強めにドスッと。

「痛い!」

 涙眼になる俺を無視するエレナ。

「馬鹿な事言ってないで次いくわよ次。今度こそ案内してあげるんだから!」

 そう言うとエレナは来た道を戻り、大通りに向かう。慌ててエレナの横に並ぶとエレナは少し笑っていた。

「そんなに慌てなくても置いて行ったりはしないわよ」

「いや、置いて行かれるとか以前に俺がエレナから離れたくない」

 言った瞬間俺は痛みに前かがみにうずくまっていた。エレナが俺に腹パンをしたと気付いたのは蹲ってから2秒程してからだろうか。

「どうしてそう思っている事をペラペラと口に出すのかしらね。周りには通行人が沢山いるのよ、場所を考えて欲しいわ」

 痛みに耐えながら周りを見ると観光客であろう人間は何事かと遠巻きで見ているも、エルフ族達は耳が良い為か耳をピクピクさせて聞き耳を立てているのが見える。

 だから俺は同じ目にあっても言うしかない、言わないのは失礼だろう。

「それなら二人きりの静かな場所でならどれだけ言っても良いって事か」

 そこで俺の意識は途絶えた。意識の失う瞬間見た光景は顔を真っ赤にしながら俺に一撃を入れるエレナの姿だった。

 意識を取り戻すとそこはどこかの喫茶店であった。窓を見ればまだ日は高く、意識を失ってからそこまで時間が経っていない事を確認した。

 店内を見るとテーブル席が6個程ある比較的小さい店ではあるものの雰囲気が良く、全て木造なのか木特有の香りがしていた。又、外の喧騒が殆ど聞こえないことから大通りから離れた店なのだろう。

 キョロキョロと周りを見るも店内には他に客がおらず、エレナの姿もいない。すると店員が俺が気がついた事に気付いたのか近づいてきた。

「お客様、お目覚めですね?いらっしゃいませ。もう一人のお客様は今御手洗いに行っていますのでご注文がお決まりになりましたら、お声をかけてください」

 そういうと店員は元いた場所に戻り、新しい客が来るの待っていた。

 俺はエレナが帰ってくる間、暇だからとメニュー表らしきものを見る。らしきというのは何と読むのか分からない為これがメニュー表だという確信が持てないでいた。けれど他にそれらしい物は無く、ペラペラとめくる。うん、全く分からない。

 言葉こそ言語の魔法を使ってくれているのか俺にも分かる。しかし、文字は人間が読んでも問題が無い様にはなっておらずミミズが這ったような言語が並ぶばかりである。店員に聞こうかと思っているとガチャっと遠くから扉が開く音がするも、姿は見えない。だが、足音が近づいてくるのが分かり姿が確認出来ると音の正体はエレナだった。

 テーブル席の仕切りが思いのほか高いのと俺が座っている事もあり、エレナの姿が見えないと言う事になっていたようだ。

「気がついたのねツバキ。それと何でそんな助けが来たような顔をしているのかしら?」

 エレナは俺と反対側の席に座ると俺が見ている物を見て理解した。

「言葉は魔法を使ってくれているからか分かるんだけど、文字は全く持って分からないんだ。すまんが何て書いてあるのか教えてくれないか」

 俺が正直に答えると、エレナは腕を組んでうんうんと首を縦に振り素直で宜しいといった具合だった。

「ちょっとメニューを貸してね」

 言うが早いか俺からメニューを取るとふむふむと目を通していった。暫くすると俺の方にメニューを返してきて教えてくれた。

「上から日替わりランチ、セットメニューのメインが魚か肉、サイドメニューのサラダやデザートね。時間的に日替わりかセットメニューしか頼めないみたいだから他は省くわね。飲み物は水で良いとしてツバキはどれにする?」

 メインが魚か肉といってもどう調理した状態で出てくるのが分からない。食べられないようなものが出てくる事はまず無いだろうけど内容を聞いてもエレナは教えてくれるだろうか。

「なあエレナ」

「なあに?」

「メインが魚か肉って言ってたけど、どう調理してあるかは書いて無いのか?」

 俺が聞いてくる事は想定済みだったみたいで、クスクスと笑いながら言ってきた。

「書いてあるわよ?けど教えないわ。ツバキのせいで予定が狂っちゃったんだもの。これくらいの罰はいいでしょ?それに文字を勉強していなかったツバキも悪いんだし」

 たしかに俺が余計な事を言った事は認めるけどそれはエレナが可愛いと思ったからで悪い事をいったつもりは無い。ただ、文字に関しては反論出来ないので甘んじて罰をうけよう。それに二人きりでお店で食べるのって旅を始めた当初以来だろうか。

「それについては申し訳ない事をしたと反省はするけど、悪い事を言ったつもりはないからな?俺は肉のセットメニューでサラダをつけようかな」

「それじゃ私は日替わりランチにデザートをつけようかしら。そこの店員注文いいかしら」

 手を上げて店員を呼ぶエレナ、手を顔の横までしか上げて無いからまず店員には見えないだろう。とはいえ、見えるように上げようとすると横断歩道を渡る小学生の様な感じでピーンと腕を伸ばす事になり、とても微笑ましい気持ちになりそうだと思った。

「何笑っているのよ」

 俺が失礼な事を想像しているのを感じ取ったのか少し怪しんでいる。しかし、直ぐに店員が来たのでいつも通りの表情に戻った。

「おまたせしました、ご注文は何になさいますか?」

 エレナと同じエルフ族であるから俺やエレナの会話から何を注文するかは分かっているだろうに、律儀に聞いてくる辺りちゃんと接客業しているなと思った。

「日替わりランチにデザートとボア肉のステーキセットとサラダをお願いするわ」

「畏まりました、飲み物はお水でよろしいでしょうか?」

「ええ、それでいいわ」

「それでは確認いたします、日替わりランチにデザートとボア肉のステーキセットとサラダ、お飲み物はお水で宜しいでしょうか」

「いいわ」

「それでは少々お待ち下さいませ」

 店員は注文を受けるとそのまま厨房に入っていった。一人で切り盛りしているのだろうか、もしそうなら大変だろうに。

 それよりも気になる事があった。ボア肉のステーキってそこそこ値段が張った気がするのだが。

「なあエレナ、ボア肉のステーキってそこそこ値段が張った気がするんだが大丈夫なのか?」

 俺の国で食べようものならグラムにもよるけど大体2万から3万する高級なお肉だ。高い理由は入手する手段が少ないからとかで、味がとても美味しいから高いと言う訳ではないらしい。

「ん?ボア肉って安いお肉でしょ、エルフの国だと皆普通に食べてるわよ。ツバキの所でいう鶏肉と同じ認識かしら?価値ではの話だけれど」

 ボアの原産地がどこかは知らないが、エルフの国では特に高い肉ではないとの事なので安心だ。バイトで溜めたお金を昼飯1食で無くしたら笑えない。

「それにいくら高いものを食べても大丈夫よ」

 エレナは悪い顔でニヤリとする。

「なんとなく想像つくけど聞いておこうか」

 朝食の時と同じように王に付けておいてとかいうんじゃないだろうな。

「ほら、私達王に迷惑かけられたから王にツケれば良いし、ダメならシャロンに払わせればいいわ。沢山持っているでしょう。それでもだめならシャロンをそこに置いて働かせれば良いだけだわ」

 俺より酷い考えだった!エレナの中でシャロンの認識お財布じゃん!

「俺より酷い事考えているな!」

 クスクスと笑うエレナは顔は笑っているけど目が笑っていなかった。

「あの子旅についてくるんでしょ?それなら助け合う仲間なのだからそれくらい良いじゃない」

 それって都合の良いお財布って意味にしか聞こえないですが。

 俺がそれを聞いてうーんどうしたものかと悩んでいるといつのまにか店員が料理を持って来ていた。

「お待たせしました、日替わりランチのシーフードパスタになります。それとこちらがボアのステーキとサラダになります。デザートは食後にお持ち致します」

 エレナの前にシーフードパスタを置き、俺の前にボアのステーキを置く。サラダはエレナと俺の間に置いて取り皿が二つ置かれた。ドレッシングは初めからかかっており、量がサイドメニューの量では無く単品で頼んだのと同じくらいの量があった。

 これにはエレナも疑問に思ったらしく、店員に聞いていた。

「サイドメニューでサラダを頼んだ筈なのだけれど、これはサイドメニューの量じゃないわよね?」

 店員はこれに対して平然と答える。

「今日はあまりお客様が入らないようなのでサービスと思って頂ければと」

 これを聞いたエレナは少し怒ったような顔をした。

「嘘ね。きちんと説明して貰わなければ私達はこのまま出ていくわ」

 席を立とうとするエレナに習い、理由が分からないまでも俺も席を立とうとする。これには店員も慌てて説明する。

「お、お客様!お待ちください!説明致しますのでどうかお座りになってください!」

 店員は少し涙眼になっていた。だが、俺は兎も角エレナは涙で判断を違える事は無い。エレナはテーブル席から完全に立つとスタスタと出口に向かっていく。

 俺は慌てて後ろについて行き、店員は何で待ってくれないのかと叫んでいるもエレナは完全に無視。普通であれば完全に営業妨害な気もするがエレナは一言。

「後で説明するわ」

 っと言ったっきりだんまりを決め、店を後にする。

 店から出て小道を暫く歩くと大通りに出た。大通りは賑やかなもので、先程までいた静かな店内とは違う。どこまで歩くのかと思っているとエレナが歩きながら口を開いた。

「やれやれ困ったお店ね、王族の関係者と勝手に勘違いしてあんな事をするんだもの」

 それを聞いた俺はなんとなく理解した。エルフ族は耳が良い、それは料理をしていながらでも店内の会話が聴き取れる程に。だからエレナや俺が王にツケれば良いと言った会話を聞いていてあのようなサービスをしたのだろう。

「俺らの会話を聞いていたからサービスをしたってことだよな?」

 答え合わせをする気分で聞く。だがエレナからは全く違う答えだった。

「会話を聞いていたのは間違いないわね。それよりも私が御手洗いにいったじゃない?あれ、本当は御手洗いに行ってなくて調べに行ってたのよ。そこで不審に思ったのだけれど睡眠薬まで盛ってくるとはね。ツバキが人気の無い所が良いっていうから行ったのに本当に散々だわ」

 え?御手洗いうんぬんは置いといて、睡眠薬を盛るってどういう事だ。

「何で睡眠薬を盛られなければならないんだ?意味が分からないんだが」

 俺の疑問に淡々と答えるエレナ。

「まずね、あそこのお店凄い静かだったでしょ?あれは私達のようなお客の会話を聞く為に出来るだけ雑音を消す魔法が店内にかけられていたからなの」

「まじかよ・・・」

 静かで雰囲気が良いなとか思った俺ダメじゃん!

「まあ、会話を聞く為じゃなくて本当に静かな空間を演出する為にっていうお店もあるわよ?でもね、店内の仕切り板が高く設置されていたでしょう。あれは客が安心して話せるように見せているけど本当はそれを利用して会話を聞く為のものなのよ。誰でもあかの他人に見られながら話をするのって大なり小なりいやでしょ?」

「なるほど、つまり自分達に都合の良い空間で何か良い情報を盗み聞きしようとして、あわよくばそれで一儲けをするお店だったってことでいいか?」

「大体あっているわ。こうして私達が会話しているのを聞いているエルフだっている。でもそうしたエルフは情報を売ってお金にしているだけで直接何かしてくる事は殆どないわ。相手が人間しかいなければ別だけれど」

 言って大通りの反対側にいるエルフを見て詠唱を始めるエレナ。当然詠唱は相手にも聞こえ、反対側にいたエルフは慌てて逃げようとするも、瞬間目の前からエレナが消え反対側にいたエルフの意識を狩り取っていた。城に向かった時の魔法と同じだろうか、俺には違いが分からない。

 意識を狩り取ったエルフをその場に放置して今度は歩いて戻ってくる。しかし、エレナが急に意識を狩り取ったのを見ても大通りを歩くエルフ族は気にもしていないようだった。

 戻ってきてエレナは一言。

「ああいう輩がいるから余りシャロンの事は話したくないのよね」

 その時の表情は我が子を気遣う母親の様な顔をしていた。エレナはエレナでシャロンの事を財布だけではなくちゃんと気遣っているように思えた。

「なんかシャロンのお母さんみたいだな」

 瞬間腹に一撃、そう何度もくらうかと手を置いて構えていたにも関わらずフェイントで膝を裏から蹴られて膝から倒れる。

「私はまだ伴侶はいないわよ!失礼しちゃうわね!」

 膝をつき、手の平が地についている格好の俺に追い打ちをかけるようにお尻に蹴りを入れてくるエレナ。手加減はしてくれているのは分かっていても、痛いものは痛い。

「知ってるから!だって伴侶になるは俺だって知ってるから!」

 一際激しい蹴りがバシッと決まると、俺は手で耐えられなくなり顔を地面に付ける羽目になった。

「いい加減学習しなさいって言ってるでしょ!何度同じ目に会えば気が済むのかしら!」

 そう思うなら一目につくこういう行為をして、注目される事にエレナも気付いて欲しい。

「口に出しているわよ、全くもう」

 また俺が気絶しては面倒だと判断したのか蹴るのを止め、詠唱を始めた。

 数秒して俺の体、主にお尻から痛みが消えていき元の何も痛みが無い状態になった。

 地面から起きあがるとついた汚れを手で払う。

「ありがとうエレナ。やっぱり俺が大好きなエレナは世界で一番可愛いな」

 癒して貰ったばっかりなのに腹パンが今度は繰り出され、俺の意識を狩り取る。

「あ、またやっちゃったわ。面倒くさいわね」

 最後に聞こえた言葉は本当に面倒くさそうな声だった。


          *


「ツバキさん?起きましたかー?起きないと悪戯しちゃいますよー」

 意識を取り戻した時、聞こえたのはエレナの声では無くシャロンの声だった。シャロンはエレナに負けず劣らず可愛いエルフ族だ。心に決めた相手エレナがいるとは言え、悪戯がどんなのかと気になってしまうのはしょうが無い筈だ、うんしょうが無い。

 俺がどんなのかと期待して待っているとシャロンは行動を起こしたようだった。

「よいしょっと、ちょっと失礼しますねツバキさん。たしかここをこうして・・・」

 俺はベッドで寝かせられていたのかシャロンが何かするたびギシギシと音が鳴る。するとシャロンは俺にまたがり可愛い女性からの悪戯という甘美な誘惑とは程遠い事をして来た。

「せーのっ!えい!えい!起きろー!起きてくださーい!」

 俺は仰向け、そしてそれにシャロンはまたがると言う状態で無遠慮に拳を腹に繰り出してきた。

「ゴッフ!?いっ痛い!痛い!起きてるから!起きてるから止めてくれー!」

 これは誘惑に抗えなかった罰なのだろうと思った。エレナ、俺が悪かった許してくれ。

 俺が痛みで体を起こすと超至近距離にシャロンの可愛い顔があった。そんな状態で目が会うと顔を真っ赤にするも距離を取ろうとはしないシャロン。俺は咄嗟に距離を取ろうとはするもののシャロンにまたがれていて距離を取れない。そんな時愛する声が聞こえてくるではないか。

「いい加減離れなさい!」

 エレナの声が聞こえると同時、俺の頭とシャロンの頭に手を置いて引きはがすべくグイッと力を入れるエレナ。

 シャロンは難なく避けて俺から離れるも、俺はシャロンにまたがれていたのと上半身だけ起きあがっていた為そのままベッドに叩きつけられるように離された。

 後頭部はベッドの枕により痛みこそなかったが一瞬視界がグワンっとボヤケてしまった。

「エレナお姉さま酷いです!私が起こすのを許してくれたじゃないですか!」

 見ればシャロンは既に床に立っていてエレナの隣にいる。ブーブーっとエレナに文句を言っているようだ。

「起こすのは許したわ、でも今のはどう考えても起こす行動じゃないわよね?止めを刺す行為よね」

 エレナが起こす事を許すというのが良く分からない行為だが、口を挟むまい。どうなるのだろうと傍観する事に決めた。

「エレナお姉さまはこうやってツバキさんを起こすんじゃないんですか?城での光景を思い出すとこういう事をして起こしているものだとばかっかり」

 思わずブフッと噴き出した俺をエレナは攻める事は出来まい。実際に一度だけ旅をし始めたばかりの時にあったのだから。

「私をどういう目で見ていたのかよーっく分かったわ、そこに直りなさい。教育してあげるわ」

 俺の噴き出しにはエレナは気付いているであろう、耳が真っ赤になっている。しかし、それを言うと墓穴を掘るので俺の事は無視するようだ。

「教育はばっちり受けてますー!それよりも折角ツバキさんと至近距離で見つめ合っていたのに何で邪魔をするんですか!」

 瞬間傍観する事を決めた俺は後悔をした。エレナが俺の寝ているベッドに向かって振り上げた手を下ろし、俺がいた所を力任せに叩いたからだ。結果ベッドは台から真っ二つにくの字に割れた。咄嗟にベッドから落ちるように避けていなければくの字どころか俺の体がニ分割になっていたのではなかろうか。

「いててて・・・」

 俺がベッドから落ち、起きあがるも二人の視界に俺は入っていないようだ。

「私はそこまで許可した記憶はないわ!殺されたいの?ねえ殺されたいの?」

 だから何でエレナの許可がいるんだと思った。とはいえこれはもしや嫉妬というやつなのか!?

 そう思うと悪くない気持ちになった。これが嫉妬というやつか!

「何でエレナお姉さまの許可が必要なんですか!ツバキさんはエレナお姉さまの伴侶では無い筈でしょう?ならば私がツバキさんにどうしようとエレナお姉さまには関係ない筈です!」

 ヌグググっと怒りをあらわにするエレナ。しかし、シャロンの言う事に反論する事も出来ず行き場を失った怒りはどこにくるかと言えば、当然俺である。理不尽だ。

「ちょっとツバキ!ツバキも何か言ってよ!」

「ふむ・・・」

 何かを言えか、ならば言う事は一つだろう。出来る限りの笑顔で俺は言った。

「嫉妬って良いものだな」

 瞬間エレナが動くもそれをシャロンが抱きつく形で止める。

「ちょっと!何するのよシャロン!ツバキを殴れないじゃない!」

 いつも通りであれば邪魔が入らない展開だっただけに、予想外の邪魔が入り少し困惑しているようだった。

「エレナお姉さまは良いじゃないですか!いつも可愛いとか大好きとか言われてるんですから!私にはそんな事全然言ってくれないんですから!だからせめてツバキさんの体くらいは護らせて頂きます!私だってツバキさんに言って欲しいんです!」

 思わぬ告白にエレナも俺もえ?っと止まり、シャロンはあ、しまったっという顔をしていた。

「シャロンあなた目はちゃんと見えてる?それとも頭かしら?」

 俺を殴る事よりも優先することが出来たとエレナは拳をおさめ、シャロンに言う。言ってる事酷くないか?俺を何だと思っているんだエレナは。

「私の目も頭も正常ですよ。もうこの際だから言いますけど、私はツバキさんのことが伴侶としたい程好きなんです。でもエレナお姉さまも同じ気持ちだと私は思っているので本当は言わずに隠しておきたかったのですが・・・」

 エレナと俺を交互にチラチラと見るシャロン。何がどうなって俺の事とそこまで思うようになったかは知らない、けれどきちんと言わなければならない。

「シャロン気持ちは嬉しいけれど、俺はエレナ一筋なんだ」

 それに対してシャロンはショックを受けた様子も無く、ニコリと笑っていた。

「当然です!私が好きなのはエレナお姉さまの事が大好きなツバキさんなのですから。私が伴侶にしたいからと言って乗り換えるような人間だったらこっちから願い下げですよ」

「そ、そうか・・・。」

 うーん、ハーレムを作るにあたりシャロンに問題は起きなそうだけれど、エレナの方に問題が起きそうな気がしてきたぞ。

「それに私はエレナお姉さまの事も大好きですから、二人の事をからかったり邪魔する事はあってもツバキさんを取るような事はしませんよ。エレナお姉さまがツバキさんを見捨てない限りは、ですが」

 それまでニコニコと喋っていたシャロンは最後だけ真剣な顔でエレナを見ながら言っていた。

 言われたエレナは何とも言えない顔をしていた。シャロンは嘘を言っているのだろうか。

「エレナ?シャロンが何か嘘でも言っているのか?」

 取りあえず聞いてみる。

「それがねツバキ、シャロンの言葉に嘘が無いのよ。全く嘘が感じられないの、今日ほど私のこの感覚に疑問を抱いた事は無いわ」

 それに対してエレナよりはごく僅かに勝っている胸を張って言うシャロン。

「私は嘘は言ってないですから、エレナお姉さまの感覚というのはあってますよ」

 顔がドヤってるのが可愛い。シャロンの方が先に会っていたらシャロンと生涯を共にしたいと言っていたかもしれない。

「信じられないわ。ツバキ、ためしに私に嘘をついて頂戴」

 エレナは納得できていないようで俺に言ってきた。それならばと考え、そして言った。

「実は旅の最中エレナの寝顔が余りにも可愛いものだから写真一杯に収めてたんだ」

 瞬間エレナは動く、そして分かってましたとシャロンも動く。

「だからツバキを殴れないから離しなさい!」

 先程と同じようにエレナに抱きつく形で止めるシャロン。そこだけ見れば仲の良い姉妹に見えなくもないが、実際はシャロンが抑えなければ俺は意識を狩り取られると言う笑えない状態である。

「エレナお姉さま!目的をお忘れになってませんか!?ツバキさんを殴るのが目的ではないでしょう!」

 シャロンが言うとそういえばそうねと拳を収め俺を見る。

「たしかにツバキは嘘を言っているわね、けれど本当の事も言っているわね?」

 エレナは俺をジロリと睨む、けれどやれやれと言った感じで溜息をつくと聞いてきた。

「本当の所はどこなのかしら?どこが嘘でどこが本当か分かる程私のこの感覚は優れてはいないわ。怒らないから言いなさい」

 これ絶対怒るやつだと理解しながら俺は言う。

「写真一杯に撮ったというのが嘘だな、俺はカメラ持ってないし。本当の事はエレナの寝顔が余りにも可愛いという所だな、あれは俺の脳内フォルダにロックして保存してある」

 これに対してシャロンがパァっと顔を明るくして言う。

「エレナお姉さまの寝顔ですか!良いなー私も早く見たいなー!楽しみが一つ増えました!」

 想いを馳せた為かその瞬間シャロンの抱きつく腕が緩み、エレナは素早く腕を振りきり俺のお腹に一発入れる。

「オッフ・・!」

「ああ!?ツバキさん!ごめんなさい、すぐに治しますね」

 治療をしようと詠唱を始めたシャロンに対してエレナは俺と同じように腹に一撃入れる。

「エ、エレナお姉さまどうして・・・」

「生き物はね、痛みを伴って初めて理解する事もあるのよ。言葉で分からないなら肉体に言うしかないでしょう?」

 気絶はしないギリギリの痛み、俺は兎も角シャロンは可哀そうだった。シャロンは同じエルフ族である為当然魔法が使える。痛みを癒そうと詠唱を始めようものならその度に腹に一撃くらっている。

 エレナ相手に詠唱はさせてくれないとシャロンは理解すると大人しく痛みに耐えるようなった。するとエレナは一言。

「これじゃ会話も出来ないわね、全くもう誰のせいかしら」

 エレナのせいですよとは言えなかった。めっちゃ不機嫌な顔で見られたもの。

 5分程すると痛みが最初よりかは和らいでいき、流石にやりすぎたと思ったのかエレナが詠唱を始めた。

 エレナが詠唱を始めると俺は何を唱えているかも分からないし、避ける手段も無い為多分癒してくれるのだろうと思いただ待つ。けれどシャロンはビクッとして怯えるような感じであった。

 そして詠唱で唱えられたのは癒しの魔法。俺とシャロンは痛みから解放されて無事健康体になった。

 シャロンは起きあがるとエレナ魔法について聞いていた。

「エレナお姉さま、先程の詠唱は私が知っているのであっていれば最上位の炎の魔法の詠唱でした。ですが実際に受けたのは癒しの魔法、これはどういうことなのでしょうか」

 まじかよ、それが本当なら俺やシャロンって今頃消し炭になってるんじゃないか?

「あーそれはね、私達エルフって耳がいいでしょう?だから聞こえる音を別の魔法にしているのよ。たしかツバキの国で言う所の腹話術というやつかしら?勝手が違うけど同じような物だと思って貰って良いわ」

 腹話術は口を動かしていない状態で喋る事だが、それと同じような事をしているとはとてもじゃないが思えなかった。

「エレナお姉さまって私達に嘘を言うなっていうのに御自身の事となると嘘を言うのですね」

 プクーっと頬を膨らませて言うシャロン。それに対してエレナは笑顔で言う。

「私の事を知りたいと思うのなら好きにすれば良いわ。でも面白くもなんともないわよ」

「面白い面白くないに関わらず全てを知りたいと思うのは大好きな相手なら当然だろ?」

 言った瞬間エレナの攻撃に備える。けれどエレナは何もしてこなかった。もう聞きあきたのだろうか、そんな中シャロンが一言。

「私もそんな事ツバキさんに言われて見たいなー」

 俺に聞こえないよう小さく呟いていた。




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