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最後の吟遊詩人  作者: 路寄りさこ
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はじまりと王子の話

路寄りさこワールドへようこそ!


お待たせいたしました。予告からすっかり遅れまして、

2018年も2月下旬となってしまいました。

ようやく投稿させていただきます。


路寄りさこの不思議世界をご堪能ください。

  …………


  どうぞ、驚かないでください

  私の心にきざみこまれた物語の名を


  どうぞ、おさがしにならないでください

  私の語る聖遺物の秘密を


  どうぞ、あなたの心をお開きなさい

  私の魂が、打ち震え、ますます

  歓喜しているのが見えるでしょう



「ああ、つまらん」

「やめろ、やめろ」

「体裁ばかりの歌など、聴きたくもないわ」

 がっしりとした身体つきの男たちが、たっぷりと髭をたくわえた口をもごもごと動かして叫んだ。

「天地がひっくりかえるほど退屈な夜をまぎらわそうってときに、チッ、まったく。こんなお上品な歌い手を雇った奴なんざ、サソリにさされてお星様よ」

 なかでも、ひときわ大きな図体をもてあましているいかめしい顔をした男が、悪態をつきながら、これまた大きな口を開けて、あくびをした。


 十人ほどの男たちが、焚き火の炎を囲んで座っていた。テントのなかは暖かだった。

 歌い手は、竪琴をかかえたまま、じっとしている。

 焦点の定まらない瞳は、暗黒を見つめているのだった。


「まあ、まあ、よいではないか」

 その場にそぐわない柔らかい声が、仲裁に入った。

「彼を雇ったのは、私だ。琴の音が聞きたくてね。あらあらしいそなたたちと旅をするのだから……。何が、私の心の安らぎか、いくぶんかでもご理解ねがいたいものだ」

 高貴な口調は、王子の身分を隠せない。

「わしらは、悪党や盗賊ではない。商人だ」

 隊商の親方が、上等のパピルスに煙草の葉をくるくると巻き込み、焚き火から火を取ると、白い煙を吐き出しながら言葉を続けた。

「砂漠の旅には、あらあらしさは欠かせない武器でね。だが、いったん街へ入れば、……それはそれは腰の低い商人でございますよ。ましてや王家へ参上つかまつるときなどは、ごつごつとした岩はだが、すべすべと滑らかに磨かれましてな、もの珍しい品々と立ち寄った先の噂話やはやりものの話で、王族の方々にお気に召していただくのでございます。お分かりかな、王子殿」


 ラクダ五十頭ほどの、それほど大きくない隊商だが、丁寧で誠実な商売と旅を続けてきた様子が、親方の小柄な身体からにじみでていた。

「失言をお許し願いたい。ドホキサの街であなたがた隊商に加えていただくことを快諾してくださらなければ、この砂嵐のなか、とても私ひとりでは砂漠を渡ることはできなかったでしょう。私の国には、砂漠はありません」

 若い王子は、謙虚に隊商の親方の言葉を受けとめた。

「ドホキサでの用事はすんだのかな」

「……いえ、それが……」

 親方の勘は当たっていた。この王子は、ドホキサに特別な用事があったわけではないのだ。

「何をお捜しかな」

「……いいえ、とくに何とは……」

「砂漠での隠し事は、命取りになりますぞ」

 親方の奥まった眼光が鋭い視線で王子を見、浅黒い頬は、暖をとる炎を照り返してめらめらと燃えていた。頭部を覆っているターバンは、真っ白だ。他の者たちのターバンがうすよごれていたので、なおさらその白さが目立って見えた。

「この吟遊詩人は、ドホキサで歌っていました。その歌が、私を助けてくれるように思えたのです」


 砂嵐はますます激しくなり、テントを揺るがして吹き去ってゆく。

 テントは密閉された空間をつくり出しているが、それでも時折すきま風が差し込んで、暖をとっている炎をゆらゆらと動かすのだった。


 王子の新緑色のマントが、ばさばさとたなびいた。

 金糸で丹念に縫い取りのしてあるビロードの一枚布が、右側を輪にしてくるりと身体全体を包み、左肩に金の留めがねでとめてある。留めがねは紋章になっていて、そこには、太陽らしき丸い図柄と、翼を広げた鳥の姿が認められた。

 マントの下は……




~王子の話~


 私は、ドホキサから、馬を駆って夜の睡眠と昼の仮眠以外はひたすら走り続けて三週間ほどのところに位置するアギアという国から来ました。もちろん、馬は極上の駿足馬でなければなりませんがね。

 ご覧の通り、私はその国の王子です。

 私の国には、砂漠もラクダもありません。

 アギアは、緑の森林と、美しい湖、そして雄大な山々に囲まれた平和な都です。いや、でした、と言った方がいいでしょう。その理由はこれからお話ししますが……。



お楽しみいただけましたか?


次回投稿は、3月6日を予定しております。

いよいよ本筋に入っていきます。

お待ちください。


よろしくお願いいたします。


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