#083 名も無き #03
「俺さぁ、人込み超苦手なんだよね。だからいつもここで食ってる奴らが羨ましくてさぁ……」
そう言いながら森本くんはAランチのチケットを購入する。今日のAランチはミックスフライ定食。ご飯は大盛り。
更に単品で肉じゃがと冷奴とポテトサラダ……全部食べ切れるのかしら?
身長は一七〇センチ以上あるみたいだけど、特に太っているわけでもないし、運動をしているようにも見えない。つまりごく普通の、中肉中背という体型なのに。
さすがは育ち盛りの男の子――ってことなのかしら。
「これで六百円って、安いよなぁ」
にこにこしながら定食を待つ森本くんの横で、あたしはトンカツ定食のチケットを出す。ご飯は少なめ。
「森本くんって……よく食べる方なの?」
いつもは教室でお弁当らしいので、あたしは彼が食べているところを見たことがない。
「そうなんだよねー。俺、最近はよく食べるんだよね。あ、じゃあ先にテーブル行ってるね」
お盆二つに食器を乗せ、お茶を三人分用意して、森本くんは美晴が座っている窓際の席へ歩いて行った。
揚げたてのトンカツの匂いに包まれながらあたしがテーブルに向かうと、森本くんはやっぱりにこにこしながら、美晴はちょっと困惑したような顔で、あたしを待ち構えていた。
森本くんは美晴の向かい側の席に座っている。
――えっと、つまり……
この場合、必然的にあたしは美晴の隣になるわけで。
学食のテーブルは片方に四人、向かい合わせで八人くらいは余裕で席を取れるくらいの大きさがある。
だから、森本くんが行ってた「一緒のテーブルで食べる」ってのも、まぁ、同じテーブルでもちょっと離れて座るのかな? と思ってたんだけど……
あたしは、なんていうか――食事の時にまだあまり親しくなってない人が近くにいるとどうしても少し緊張しちゃうから、席の位置とか結構気になるんだけど。
そういうの、森本くんはあまり気にならないみたいね。遠慮がないのか人懐っこいのか、どっちなのかしら。
お茶を人数分持って来るところは、さり気なく気が利く人みたいだけど。
親密度を測る心理テストで『お互いにテーブルのどこに座るか』っていうのがあって、それでは隣に座るのが一番親密ってことになるらしい。
でもあたしは、向かい合わせが一番いい場所だと思ってる。
だって、相手の顔を見ながら話ができるし。
美晴も同じように考えているらしく、席が空いている時、あたしたちは必ず向かい側の席を取る。
でも今日は、森本くんの顔を見ながら食べることになるのね……なんだか妙に緊張するわ。
「さて……」
あたしが席に着いて、揃って『いただきます』をしようとした時、森本くんは突然箸を構えて食べ始めようとした。あたしと美晴が手を合わせたまま固まってるのを見て気付き、慌てて箸を置いて手を合わせる。
「町田たちって、毎回そやってるわけ?」
改めて食べ始めてから質問された。
森本くん、郷に入っては郷に従うタイプらしいけど、その様子だとどうやら普段はいきなり食べ始めているみたいね。
「森本くんの家ではやらないの?」
美晴が質問で返す。
「ん~、やんないと思うけど……どうなんだろう」
何故か曖昧な返事が返って来て、美晴の動きが一瞬止まる。
美晴は、あたしやおしのちゃんの保護者役を買って出ることがよくある。
そんなにあたしたちが頼りなげかと思ってたけど――実際その通りだけど、どうやら元々そういう性格みたい。
礼儀作法に厳しいわけではないけど、美晴が『日常的にすべきこと』と思っているものについては、マサキも時々注意されるし。
森本くんにも問いただすのかと思ってたら、さすがに今日ほぼ初対面みたいな感じだからなのか思い留まったらしい。
一言物申したい、って表情のままだけど。
「ごめん、おしょうゆ取ってくれる? あ、だしじょうゆの方」
食べながら、あたしは美晴に頼む。
調味料立ては、森本くんの方が心持ち近い位置にあった。
森本くんが気を利かせたのか調味料立てに手を伸ばした。
その瞬間、美晴が声を上げた。
「ちょっと! 森本くんてば、何やってんのよ!」
それは明らかにきつい非難の声で、森本くんだけじゃなくあたしまで飛び上がりそうになった。




