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目にはさやかに見えねども  作者: 楪羽 聡
第四章 退屈な日常~憂鬱なお姫様
69/300

#069 退屈/憂鬱 #09

 母さんは、自分が話したいことだけを一方的に喋っていた。

「ヨソさまと比べても何もできない子だから、ねえ? 年上の人の方が――」



 あたしを『なんにもできない娘』に育てているのは、母さんなのになぁ……



 その一方でたびたび持ち出すのが、お見合いだのいいなずけだの、随分と時代遅れな話。父さんと母さんはお見合い結婚だったからか、母さんの言葉の端々には、「さやかにはお見合い結婚が合っている」という考え方が見え隠れしている。


 なんにしろ、とにかく話を聞いて欲しいだけ……とりあえず聞いてるっぽい相手がいれば、相手が聞いてようが聞いていまいが関係なしなのよね。




「さやか、そろそろけいちゃんを呼んで来てちょうだい」


 あ、いつの間にか話が終わったことになっているらしい……よかったぁ。





 敬二兄さんは最近、ゾンビをやっつけながら謎を解くとかいうゲームにハマってて、階段を上る前から音が聞こえる。

 銃撃音とか、倒された敵のうめき声とか。アパートとかなら苦情が来ちゃいそう。



「けいちゃ……敬二兄さん、ごはんだって」


 ドアの前で声を上げる。大きな声を出さないと敬二兄さんには聞こえない。

 でも部屋に入るとゲームの邪魔だと言ってすぐ怒るし、あたしもゲームの画面を見たくないし。



「あー、わかった」


 怒鳴るように返事が来たけど、ゲームの音は止まない……すぐにやめられるタイプのゲームじゃないから、って言ってたっけ。





 テーブルの上の食事は二人分。それがいつもの風景になってしまっているけど、あたしは毎日のように訊ねる。


「今日も父さん遅いの?」



「当たり前じゃないの……お父さんは忙しいのよ」

 毎日のように、母さんからは同じ返事が返って来る。



 今日も当然同じ言葉を聞くと思っていたのに、それは外れた。


「もうそろそろ帰って来るわよ。そうね……多分三十分もすれば家に着くんじゃないかしら」




「え? 三十分くらいなら、あたしたち待ってて良かったのに」


 少しずらせばいいだけなら、一緒に食べたい。


 本当は、母さんも一緒に食卓についてくれればいいのに、ダイエットとかなんとか言って、あたしたちの前では食べない。いつごはん食べているんだろう?




「いいのよ。あなたたちは先にお食べなさいな。お父さんの分もちゃんと用意してありますからね」



 確かに父さんの分は下準備が終ってて、火を通せばいい状態。でも、家族がばらばらに食べることの、何がどう『いい』んだろう。理解できない。


 一緒に食べたからって会話が弾むわけでもないんだけど。でも「これおいしいね」くらいは交わせるじゃない?



 残念ながら、敬二兄さんとは話が合わないのよね。ニュース観ててもすぐ怒り出すし、好き嫌いないのはいいけど、あまり味を気にしてないみたいで、何食べても、美味しいとか美味しくないとか言わないし。




「あなたは好きな時に食べても平気なのかも知れないけど、けいちゃんは、ごはんの時間が遅れると、お腹が減って機嫌が悪くなるでしょ? それじゃかわいそうだから――」


 母さんはいつもそう言ってるけど、敬二兄さんって自分の都合で時間遅れて来たりしてるじゃない。

 しかももういい加減、『お腹が減ってかわいそう』って年齢でもないと思うんだけど……



 * * *



 半分ほど食事を終えた頃、電話が鳴った。

 あたしは――多分、母さんも敬二兄さんもだろうけど、父さんからの連絡だと思っていた。


 電話を受けた母さんが、相手に挨拶をしているのが聞こえた。



 ――なぁんだ。父さんじゃなかったみたい。お仕事関係の人かしら。


 なんにせよ、明らかに他所(よそ)の人向けの言い方だったのであたしたちには関係なさそう――そう思いながら、テレビの画面に視線を戻す。



 あたしに聞かされていないことをあたしが気にするのは、母さんの『ルール』に違反することになる。

他人(ひと)の話を勝手に盗み聞きして、行儀が悪い」らしい。



 ――でも、母さんや敬二兄さんは、あたしが電話で話していることを勝手に聞いたりしてるのよね……



 その矛盾に気付いちゃってからは、このルールも理不尽な気がしてしまう。





 ドキュメンタリー番組のナレーションをBGMに食事を再開していたら、母さんが受話器を手でふさいで、あたしに顔を向けた。



「さやか……東雲さんって、さっきあなたが話してくれた子かしら?」

「へ? おしのちゃんから電話?」



 それにしては随分長く挨拶してたような。しかも子どもに向けるような言葉じゃなかったし。


「そうじゃなくて、担任の田中先生なんだけど……あなた、今日は東雲さんと一緒にいたのよね?」


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