#063 退屈/憂鬱 #03
「あれぇ~? そういえば、金山ちゃんがいないよねぇ……観測の時も帰っちゃってたし、なんかどっか悪いの?」
神田先輩の言葉で、この場に金山さんがいないことに気付く。天文部って、いつも全員揃ってるのが当たり前、な気がしてたのに。
やっぱり具合悪くて、あのまま休んでるのかしら。
示し合わせて来ていたわけじゃないにしても、司くんがいて金山さんがいないのは、違和感がある。
他の人も同じように考えたのか、司くんに視線が集中する。
でも誰も、何も訊かなかった。
* * * * * *
一昨日の夜。
金山さんが帰った後、彼女の体調を心配しながらも続行していた流星観測。
音声記録の声出しにもそろそろ慣れた、真夜中の二時過ぎ――に、突然、神田先輩たちが乱入して来た。
一応本人たちは静かに来たつもりらしいけど。でも夜中の畑で人の声がしていれば、結構遠くから聞こえるわけで。
あたしたちも、一体どこの誰がこんな時間に、こんなへんぴなところに遊びに来るのよ? って戸惑ったし。
だって、来るはずのない人たちが、来るはずのない所に来たのよ?
先輩たちの中で一番声が高い神田先輩は、美晴と同じ列車通学だもの。
似たような声がしても、まず「こんな所にいるはずない」って思うじゃない?
中田先輩と室田先輩は地元だけど、二人とも声が低い方だから、あまり聴こえなくて……あ、でも、浮かれた話し声が録音されちゃってる、って、司くんが嘆いていたっけ。
結局、三時頃から曇ってしまって観測が中断になったから、その後は真夜中の懇親会みたいになっちゃって。
あたしは楽しかったからいいんだけど。
で、どうして先輩たちが来たのか、っていうと、どうやらマサキが場所を教えてたみたいなのよね……何故そんなことをしたのか、わからない。
いくら仲良しでも先輩たちは部外者だし、下手すれば補導されたり、叱られるところだったかも知れないのに。
* * * * * *
「つーかさ、お前らいつまで外にいるんだよ? いい加減入りたいんだけど」
「あ、あぁ……」
「そうだね」
マサキの指摘に、曖昧な相槌が数人の口から漏れて、それをきっかけにぞろぞろと図書館に入る。
「やっぱりマサキは無神経ね」
あたしの隣で美晴がぼそりと言う。
――そうかしら。今のは、わざとだったような気がするんだけど。
なんとなくだけど、金山さんがいないことに、司くんが多少なりとも関係してるんじゃないのかなー、と思うのよね。
金山さんのことは心配だけど、本当に具合が悪いのか、喧嘩したとかなのか、それとも喧嘩して悩んだせいで具合が――なんて、考え始めたらきりがないし。
さっきのあの微妙な空気、みんなもそう思ってたみたいで……でもあたしは、今そんなこと追及したってしょうがないじゃない、とも思った。
実際、司くんに訊けるような話でもなさそうだったし。
あたしが口に出せなかったのは、自分の意見に自信を持てないから。
それに、何をどう言えばあの場の雰囲気を変えられるのかもわからなかった。
――その点でマサキは、『上手にやった』んだと思ったんだけどな……
美晴は図書館の館内に向かわず、併設されている公民館にあたしたちを誘導する。そして随分と慣れた様子で、受付の人としばらく話をしていた。
「小会議室、借りたから。そこにみんな行きましょ」
戻って来ると、美晴が先頭に立って歩き出す。
「なんで会議室借りたの? 図書館の勉強できるとこ、確か結構な広さあったと思うんだけど」
ここの図書館は確か、学習コーナーみたいな部屋があったはず。
三階までの吹き抜けで、壁も床も音を吸収するような材質で、足音もほとんど聞こえなかったし、大きな窓があって、外の光も充分入ってたと思う。
結構あの場所好きなんだけど、あそこじゃ駄目なのかしら。
「ただでさえ、教え合うんなら話し声がしちゃうでしょ」
美晴は鍵を鳴らしながら、少し得意げに答える。
「この大人数を制御するために保護者役を買って出て、勉強時間がなくなるのも本末転倒。公民館の会議室なら、ちょっと離れているから多少うるさくても……ね」
あたし、そこまで考えが回らない……会議室棟には数回しか来たことがないから、会議室って学生でも借りられるのも知らなかったし。
――美晴って、ほんとに色んなことを知ってるのね。
そして数分後には早速、美晴の機転が正しかったのがよぉっくわかった。
勉強しに来たはずの先輩たちが大人しく座っていない。お喋りもやみそうにない。
耳障りというほどの大声じゃないけど、これは、よその人には迷惑になるかもね。
かもっていうか、確実に迷惑になるわ。




