#021 本の山 #01
天文部と写真部への仮入部を決めてから、数日が過ぎた。
あたしは毎日、放課後になると美晴と一緒に技術室に向かう。
そしてまず、前部長の金山さんが淹れてくれたお茶を飲み、部長の講義を聞く。
ちなみに前部長さんは『先輩』呼びが嫌いらしくて、『さん』付けで呼ぶことになったのよね。
その後は、部長さんや先輩たちが用意してくれた星座や宇宙についての小テストをしたり。
特に予定がない時は、各自で好きな本を読んだりして過ごす。
もう少し活動が本格化して来ると、各自でテーマを決めて調べたりして、発表の場も作るらしい。
資料は部室にあるものを使ってもいいし、各自で持ち寄ることも可能。
準備室側の壁に並んでいる棚のひとつが部のロッカーになっていて、そこにはぎっしりと本が詰まっていた。
星座や宇宙、地質学についての入門書から、難解な専門書まで。とりあえず一通り揃っている。
そして何故か、超能力がどうとかいうようなあやしげな雑誌や、まったく関係ない漫画まで詰まっていた。
よりどりみどり――というより、雑多になっている。
今日はなんとなく暇を持て余してしまい、ロッカー内を整理しようという話になったのだけど――いざ始めてみると、まず本をすべて引っ張り出して分類するまでが意外に重労働だった。
しかもやっているのはあたしたち三人だけで、男子部員は我関せず。
「こういう本は、部費で買うんですか?」
ずっしりと重たい天体写真集を手にした美晴が、金山さんに訊く。
「部費で買うのは、年間の天文のガイド書とか……ほら、こういう雑誌。その写真集は司くんの私物よ」
司くん、というのは部長のことで、彼もやっぱり『先輩』と呼ばれるのが苦手だと言われた。
そのため、部活動中は『部長』だけど、部を離れたらあたしたちも司くんと呼ぶことになっている。
「今更だけど、ほんとにこれ片付くの?」
金山さんが、ため息をつく。
「う~ん……今日できなかったら、明日までここに広げて――とかは?」
「駄目よ。授業で使うかも知れないでしょ」
あたしの提案、というか弱音は、金山さんにあっさり却下される。
しかも美晴は、このあと新聞部のミーティングが控えている。
あぁ、やっぱりやらなきゃ良かったのかしら……
「金山ぁ! 中田見なかったかぁ?」
廊下の騒音に負けないくらいの大声を上げながら、マサキが入って来た。
って、ゆーか、天文部じゃないのに、当たり前のような顔をして毎日ここに来るのは何故なの?
「中田くんがここに来るわけないじゃん?」
金山さんが制服の埃を払いながら立ち上がる。
「いや、なんかここに来るって言ってたらしいんだよな……俺、ちょっと行き違いになっちゃってさー。あ、この煎餅食っていい?」
「ここは待ち合わせ場所じゃないって、何度言えば……もう、ちょっと待ってよ、玄米茶淹れてあげるから」
文句を言いつつもちゃんとお茶を出す金山さんって、偉いなぁ、と思ってしまう。
そして金山さんの淹れたお茶は、いつもすごく美味しい。
マサキが、お茶目当てというのなら納得できるんだけど。
でも、そうではないらしいのよね。
「……何やってんの?」
マサキがお煎餅の袋を手にしてやって来た。
「見ればわかるでしょ! 本の整理!」
美晴はどうしてもマサキに対して冷たい。
「いや、そりゃわかるけど……なんでそんなめんどいこと」
究極に他人事って顔のマサキを、美晴は睨みつけた。
「面倒がって誰もやんないから、こんなになっちゃうんじゃないのっ!」
「美晴ぅ……そんなに怒んなくても……」
いたたまれなくなって、あたしはつい口を挟んでしまう。
「ごめん。ああもう、あたし新聞部行かなきゃ――戻って来たらまたやるから」
美晴がマサキにきつくあたるのも、のほほんとした様子で『めんどいこと』なんて言われてキレそうになるのも、無理ないと思う。
一応それなりに並んでいたらしいロッカーの中身を、今の状態に積み上げた犯人のひとりは、他でもないマサキだというのだから。
そんな事情を金山さんから聞いた直後、美晴が言い出したのよね……
「もう――こんなの耐えられない! 今日は特にやることも決まってないし、ロッカーの整理をしましょ!」って。
そして、今に至るのであった……はぁ。




