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目にはさやかに見えねども  作者: 楪羽 聡
第一章 はじまりのはじまり~初めの一歩
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#010 赤・緑・青 #01

 声に押されるようにして入って来たのは、見掛けない男子生徒だった。

 ひょろりと背の高い人ばかりが数人――その中のひとりが教室を見回し、嬉しそうな声を上げる。


「おぅ! マサキぃ! ここだったのかぁ」


 途端に教室内でも、さっきまでとは違うざわめきが起こった。


「ちょっと……あれ三年の先輩たちよ! 川口先輩、知り合いなんだぁ?」

「すごい。(なか)()先輩と陸上の(むろ)()先輩と……あぁ! ブラバンの(かん)()先輩もいる!」


 美晴まで目を輝かせているけど、一体ナニゴト? 残念ながら、あたしにはさっぱりだわ。


 周囲の騒ぎなど気にしていない風に、マサキがまだぼんやりと顔を上げ、ようやく気付いた様子で先輩たちを見回した。


「お」


 ……やっぱりそれ、挨拶じゃないような気がするんだけど。

 マサキたちが、というか先輩たちが談笑し始めた様子を見ながら、あたしは思う。


「その反応だと、さやかは多分知らないよね」と、美晴がマサキたちの方を見ながら説明を始めた。


「なんだよお前ぇ、すっかり若返っちゃってぇ」

 と、マサキの青いネクタイをいじりながら言っている人が中田先輩らしい。

 三人の中で一番細くて、全体的に色素薄めで鼻が高い、ちょっとハーフっぽく見える。


「いや~、女子がいるよぉ~女子ぃ。いいなぁマサキぃ」

 と、教室の中を見回している、きりっとした和風な顔つきの人が、陸上部の室田先輩。その見た目と言動のギャップに、あたしは少しうろたえた。


 ひょろっと一番背が高くて、ちょっとくせ毛で、眼鏡掛けてて優しそうな――あたしでも知ってるくらい有名な某歌手(J-POPシンガー)に似ている顔で、静かににこにこしているのが神田先輩。

 美晴と同じ、列車通学らしい。



 赤いネクタイを見てようやく、彼らが三年生なのはわかった。

 他の生徒たちの騒ぎ方を見ているとどうやら有名な先輩たちらしいけど、接点なかったら忘れちゃいそう。

 神田先輩だけは、『見たことあるような顔』だからわかりやすいけど。



「あ、そうそう、さやか。昨日話し掛けてたのって、こいつら。同中の陸上仲間だったんだよ」

 ひとしきりはしゃいで気が済んだのか、ようやく興奮が治まったらしい美晴が連れて来たのは――え? 男子?

 てっきり女子だと思っていた。

 って、いうか、男子に話し掛けられることを想定してなかったから尚更聞こえなかったのかも。


「あの、昨日はごめんなさい……無視したわけじゃ――」

「いいよ、気にしてないから」


 ひょろりと背が高い方の男子が笑う。スポーツマンって感じの爽やかくん。


「こっちの背が高いのが(さい)(とう)で、短距離の選手。いわゆるスプリンターってやつね。で、こっちの小さいのが(あい)()。中距離の選手」と、美晴が紹介してくれる。


「それで、昨日の件なんだけど。ね、斎藤」

 まだ少し頬が紅潮してる美晴は、昨日よりテンション高めで話を進める。


「あぁそう……俺らそん時、陸上部の勧誘してまわってたんだ。だから一通りのクラスメイトと挨拶してて」と、斎藤くんがうなずく。

「っで、町田さん、どう?」

「どう……って?」

「やだぁさやか。斎藤は、陸上部はどう? って言ってんの――ね? 天然っぽいでしょ」


 後半は傍らの男子に向かって、笑いながら美晴が言う。

 ……あたしってば天然に見えるのかしら。


「あの、あたし、バスケはやってたんだけど、怪我してから親が運動部は駄目だ、って言い出して――折角だけど、ごめんなさい」


「そっか、そりゃ残念だ」

 特に落胆した様子がない男子二人。全員に声掛けしてたって言ってたもんね。でも美晴は目を丸くした。


「あらぁ? 怪我って、大丈夫? もう完全に治ったの?」

「うん、もう全然……全然なんともないんだけどね」

 あたしは無意識に両手を握っては開き、美晴はそれを眺めながらうなずく。


「ふぅん、さやかって、お嬢様っぽいのねぇ」


 何気なく言ったのだと思う。

 でも美晴のその言葉に、あたしは反射的に嫌悪感を抱いてしまった。


「違うけど……っ」


「え、やだぁ、冗談よ。まじになんないで。見た目はあんま、お嬢さんっぽくないから――怪我して辞めさせられるなんて、随分大事にされてるなぁ、って」

 美晴はあたしの言い方に驚いたのか、両手を振りながら慌ててフォローした。


 あたしも、今のはちょっと神経質過ぎたかも……失敗。


 本当は怪我といえるかどうかも怪しい。だって突き指しただけだから。

 それが運悪くピアノの発表会の二週間前だったために、部活を辞めさせられる原因になってしまった。


 母さん曰く、「バスケットボールをしてました、なんて言うより、ピアノが弾けます、って言った方が体面的にはいい」らしい。

 ピアノなんて、あたしが習いたかったわけじゃないのに。母さんが知り合いにお願いしてあたしを通わせていただけなのに。


「大事とかじゃないよ……母さんは、自分の思い通りにしたいだけ」と言うと、美晴も小さくため息をついて言った。

「ま、母親ってさ、そういうところあるよねぇ。うちも結構口うるさくて、しょっちゅう喧嘩になるよ」


 母親と喧嘩できるんだ。美晴ってすごい。あたしには、母さんと喧嘩する自分なんて想像もできないのに。


「喧嘩できるのって、すごいね……」

 ぽつりと言うと、美晴は一瞬不思議そうな表情をした。


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