ネクストステージ(脚本)
登場人物
江南まどか(23)
江南美佐子(51)
今井慎太郎(29)
向井智里(25)
実里(25)
多田(31)
松村(29)
アルバイトの若娘
女子高生A、B、C、D
その他
○居酒屋・個室(夜)
カーテンで仕切られている。
テーブルに置かれたビールや酎ハイのグラス。
堀付きテーブルを挟んで手前に女三人、奥に男三人。
通路側に江南まどか(23)、隣に向井智里(25)、実里(25)、まどかの正面に多田(31)、その隣に松村(29)、今井慎太郎(29)。
多田「俺は手取りで……えーっと五十くらいかな」
智里「すっげえ! あたしの十五倍ぐらいです!」
今井「いやいや、月給三万ってビラ配りのバイトやん」
笑う智里、松村、実里。
つくり笑いをして居心地の悪そうにする
まどか。
智里「今井さん、計算早!」
今井「毎日、ソロバン踏んで足裏マッサージしとったからな」
智里「意味わからん!」
笑う智里、実里、松村。
多田「でもさー、上司が仕事出来なさすぎてすっげえ毎日イライラしてんだよね」
智里「へー、そうなんですね!」
多田「うん、酒も飲めねえクセに口だけは達者で――」
視線を落としているまどか。
まどかの方を見つめる今井。
× × ×
会話グループが実里、松村、今井と智里、まどか、多田に分かれている。
多田の前に置かれた焼酎のグラス
泥酔して、壁にグッタリ寄りかかる顔を真っ赤にした多田。
多田「(酔っぱらった感じで)まどかちゃん、あんましゃべんないねえ」
笑ってごまかすまどか。
智里「うちの新人なんで大目に見てやって下さい」
多田「(智里の言葉を遮るように、前かがみになってまどかを見つめ、ニヤッとして)可愛いねえ、まどかちゃん」
松村「(割って入るように)多田、お前の好み?」
ニヤニヤとして頷く多田。
まどかに何かを耳打ちする智里。
ええっという表情で智里を見つめるまどか。
実里、松村、今井の会話グループに参加す
る智里。
ニヤニヤとしている多田。
立ち上がって、ふらつきながらまどかの傍に座る多田。
驚いてのけ反るまどか。
キス顔を作る多田。
男A「(その様子に気付いて)出た! 多田さんのキス魔!」
手拍子をしてキスコールを周りに催促する実里。
手拍子をしてキスコールをする智里、実里、松村。
首を横に振って、困惑するまどか。
突然立ち上がって、多田の元に駆けつけ多田にキスをする今井。
むせる多田。
何?という表情のまどか。
悲鳴をあげて、笑う実里と智里。
笑う松村。
○同・表(夜)
こそこそと暗闇に去っていく実里と松村。
表で待機する智里、まどか。
出てくる泥酔した多田の肩を組んで支える今井。
今井「ほな、このまま帰るわ」
智里「ご馳走様でした!」
手を挙げて去っていく今井と泥酔した多田。
○道路(夜)
閑静な道沿い。
歩く智里、まどか。
智里「実里だけかー、収穫あったの」
まどか「そう……ですね」
智里「ほんと多田は無いっしょ。熱弁ウザいし、話面白く無いし。ごめんねー、なすりつけちゃって」
まどか「いえ……」
まどかを見つめる智里。
智里「怒ってんの」
まどか「(焦ったように)いえ、そんな事ないですないです!」
智里「あんた、可愛いだけじゃ幸せ捕まらんよー? もっと社会人スキルあげなきゃ」
まどか「はあ……」
智里「どうせ明日休みだしもう一軒いっとく?」
まどか「……ああ……はい、休み……ですも
んね」
○ショットバー・店内(夜)
薄暗い店内を大型テレビが照らしている。
カウンターに座って酒を飲むまどかと智里。
まどか「毎日毎日、嫌味ばっか。お金稼いで家出ていきたい」
智里「あんた、だいぶ酔ってきたね」
まどか「(ワインをグッと飲んで)わたしがいないと皿一枚、まともに洗えないクセに」
智里「(苦笑いをして)まあまあ」
テレビ画面をボーっと眺めるまどか。
インサート――テレビ画面「トップモデルがステージを歩いている」
智里「お水いる?」
テレビ画面をじっと見つめるまどか。
智里「(店員の方へ)すみませーん! お水二つ」
○江南喫茶店・全景(朝)
こぢんまりと佇む古民家。
一階部分が喫茶店となっている。
○同・二階・まどかの部屋・室内(朝)
三々五々と置かれた化粧品や床に積み上げられたファッション雑誌。
ベッドで眠っているスウェット姿のまどか。
一階より美佐子の声「まどかーまどかーー」
ゆっくり起きて頭を痛そうにするまどか。
まどか「(目をこすって)はーい!」
○同・一階・喫茶店・店内・テーブル席(朝)
壁に掛けられた絵画、置かれたシェードランプ。
白熱球で照らされて落ち着いた雰囲気。
客席で一人コーヒーを飲みながらタバコを吸いながら座っているサングラスをかけた江南美佐子(51)。
ドタドタと降りてくる軽装のまどか。
美佐子「あんた、いつまで寝とんねん」
まどか「ごめんごめん、で、何」
机の上のコーヒーカップを手ではたいて地面に落とす美佐子。
割れるコーヒーカップ。
美佐子「何って何や! 何回呼んだとおもっとんねん」
面倒な表情のまどか。
まどか「ごめんなさい、ごめんなさい、ちょっと疲れてて――」
床に散らばったコーヒーを雑巾で拭き取り、割れたコーヒーカップを片付けるまどか。
× × ×
何台かのテーブルにそれぞれ数人の客。空席が目立つ店内。
コーヒー豆をキッチンで手挽きしている美佐子。
エプロンを着て、コーヒーを運ぶまどか。
入店する今井。
まどか「いらっしゃい……(今井だと気が付いて)なんで……(その場で固まる)」
今井「(頭を下げて)昨日は、多田が迷惑掛けて悪かった」
まどか「ちょっと……今仕事中なんで……」
今井「(頭を下げたまま)ブレンドコーヒー、アイス、砂糖ミルク有りでお願いします。お子ちゃまですけど」
困った表情のまどか。
○同・カウンター席
席に肘をついて座っている今井。
ブレンドコーヒーを今井の前に置くまどか。
まどか「(ひっそりとした声で)何でここを?」
今井「(普通のトーンで)智里に聞いた。休みの日まで働いてるんや」
慌てて、美佐子の方を確認するまどか。
コーヒー豆を手挽きしている美佐子。
今井に対し人差し指を自分の唇に当てるまどか。
美佐子「まどかの友達?」
まどか「(慌てたように)い、いや、知り合いっていうかその……」
今井「合コンで知りました」
美佐子「合コン?」
今井に対して首を小刻みに横に振るまどか。
今井「はい、そうですけど」
笑い始める美佐子。
美佐子「(笑いながらまどかに対して)あんたもませたもんやねえ」
今井に対して怒ったような表情のまどか。
美佐子「で、まどかが好みやったからここまで来たってわけ?」
今井「そうですね」
美佐子「へえー、(笑いながら)おススメはせんよー」
何も気にしてないような表情でコーヒーを一口啜る今井。
今井「まどか、モデルやってみない?」
え?という表情のまどか。
美佐子「はあ? モデル? この子にそんなもん務まるわけ無いやん」
今井「(まどかの目を見つめながら)まどか」
まどか「(目線を落として)出て行って下さい」
今井「……まだ飲み終わってねえし……」
まどか「(今井の言葉を遮るように)出て行ってよ!」
美佐子「(笑いながら)あーあ、怒らせちゃった」
○同・店内(夕)
小窓から差し込む夕日。
客はおらず、がらんとしている。
キッチンで皿洗いをするまどか。
カウンターでコーヒーを飲みながらタバコを吸う美佐子。
美佐子「あんたもよう変な男に好かれんなあ、(今井のマネをするように)モデルやってみない?って……えらい強引な手口やん」
不機嫌な様子で洗い物を淡々と続けるまどか。
○社内食堂
テーブルを挟んで食事をするスーツ姿の智里、まどか。
智里「(白飯を口に運びながら)なんやー、うまくいかんかったんかー」
まどか「(焼魚をちまちまと食べながら)びっくりしましたよ……」
智里「(味噌汁をグッと飲んで)良いやん、今井さん面白そうやし、顔もそこまで悪くないし」
まどか「(水を飲んで)ええ……」
智里「辞めちゃいなよ」
?という表情のまどか。
智里「カフェ」
視線を下に落とすまどか。
智里「(箸を止めて)いや、だって普通に考えておかしいやん。本業はこっちなんやし。そんなんじゃあ、仕事にも力入んないしデートだって行けへんやん」
俯くまどか。
智里「(ため息をついて)土曜日だってアルバイトの子雇ったら良いやん、何でそれを言わへんの?」
まどか「いや……その……」
智里「ん? 何?」
まどか「お母さん、目が見えなくなってから辛そうで……多分私に出て行かれるのが怖いんだと思います……」
智里「あんた言ってたやん、早く稼いで家出ていきたいって」
まどか「え……」
動揺して白飯をかきこむまどか。
智里「(まどかの額をポンと叩いて)覚えて無いんかい」
軽く頭を下げるまどか。
智里「あのな、まどか。思ってる事はちゃんと言葉にしないと誰も分かってくれないし、相手にとっても失礼だとあたしは思う」
智里を見つめるまどか。
智里「誰が思った事すぐ言う口から産まれしババアや!」
笑うまどか。
○社内食堂・表
智里「ってことで今週の土曜、実里の男友達とプール行くから。阪急芦屋川、一一時集合な」
まどか「(驚いて智里を見つめて)ええっ?」
○歩道橋(夜)
スーツ姿でトボトボと歩くまどか。
フラッシュ――智里の言葉「思ってる事はちゃんと言葉にしないと誰も分かってくれないし、相手にとっても失礼だと私は思う」
立ち止まって、流れる車をボーっと見つめるまどか。
今井の声「まどか!」
走ってくる今井。
驚いて後ろずさりするまどか。
まどかの前まで来て、膝に手をついて呼吸を荒くする今井。
今井「返事」
まどか「(怖がるように)何?」
今井「返事まだやったから」
逃げようとするまどか。
まどかの前に立ちふさがる今井。
まどか「しつこい! 警察呼びますよ」
今井「モデルしないか」
ムッとした表情で立ち去ろうとするまどか。
今井「今週の土曜日、雑誌の一次オーディションがある。場所は心斎橋、十五時に二番出口集合」
佇むまどかの後ろ姿。
まどか「(振り返って)私の何がいいんですか? 何にもないですよ。(鞄を地面に落として両手を広げて)ほら」
今井「ほらって、何が」
まどか「(鞄を持って立ち去りかけて)ちゃんと返事しておきます。モデルはやりません。なのでもう来ないで下さい」
走って立ち去るまどか。
まどかの後ろ姿を見つめる今井。
○江南喫茶店・二階・まどかの部屋・室内(夜)
ベッドでうつ伏せになって泣いているまどか。
ベッドを叩いてジタバタするまどか。
○まどかの夢の中
目の前に現れるランウェイ。
大きな歓声。
自信満々に歩いていくまどか。
ステージ横から誰かに掴まれる足。
まどかの足を掴む美佐子。
○江南喫茶店・二階・まどかの部屋・室内(朝)
ベッドでもがくまどか。
飛び起きるまどか。
○同・一階・店内(朝)
パジャマ姿で目玉焼きを作るまどか。
トースト、サラダが既に乗ってあるお盆に目玉焼きを加えて二階へ運んでいくま
どか。
○同・二階・美佐子の部屋(朝)
テーブルにお盆を置くまどか。
起き上がる敷布団で眠っていた美佐子。
まどか「ごめん、起こしちゃった? ここ置いとくね」
美佐子「(欠伸をしながら)早いなあ、もう行くんか?」
○歩道橋(朝)
スーツ姿で歩くまどか。
歩道橋の壁にもたれ掛かって座りながら眠っている男性。
見ないようにして、通り過ぎようと歩いていくまどか。
すれ違う直前でチラッと眠る男性の顔を見るまどか。
まどか「今井さん!?」
ゆっくり目を開けて微笑む今井。
○歩道(朝)
駅に続く、交通量の多い道路沿い。
歩くスーツ姿のまどかとその後ろを歩く今井。
まどか「もう来ないでって言ったじゃないですか」
今井「いや、歩いてきたのはまどかやん」
歩くペースを速めるまどか。
今井「(まどかのペースについていきながら)俺はまどかをプロデュースしたい! 本気や! 感じるもんがあるんや。まどかの輝くところ見たいねん!」
まどか「(振り返って)本当にしつこいですね。あなたみたいな怪しい人についていくわけがないでしょう! 電車なんで」
そそくさと駅の方へ去っていくまどか。
疲れた表情の今井。
○社内食堂
テーブルを挟んで食事をするスーツ姿の 智里、まどか。
智里「(から揚げを頬張りながら)モデル!?」
頷くまどか。
智里「(笑いながら)ヤりたいだけだよ」
まどか「そう……なんですかね……やっぱり」
智里「(ニヤニヤして)へー今井さん、案外がっつくタイプなんだ」
悩ましい表情でチマチマと白飯をつまんで食べるまどか。
智里「(白飯を頬張りながら)どうなの、土曜日、空けられそう?」
まどか「いえ……まだ……」
○歩道橋(夜)
そわそわして周りを見ながら、早足で歩くまどか。
歩道橋を渡り終えてため息をつくまどか。
○江南喫茶店・二階・美佐子の部屋・表(夜)
美佐子のドアの前に立つまどか。
深呼吸してノックするまどか。
返事は無い。
まどか「お母さん」
静まり返る部屋。
まどか「お母さん!?(強く扉を開く)」
タバコを吸って笑っている美佐子。
まどか「(力が抜けたように)もう、驚かさないでよ」
美佐子「(まどかをからかうように、まどかのマネをしながら)お母さん!? 何の用」
まどか「ああ、いや、えーっと……今週の土曜日なんだけど」
美佐子「デートか」
まどか「はあ? 違うよ」
美佐子「何や、知らんけど、店の事ほっぽらかすのは許さん。あんたが就職する時そう約束したんやろ」
まどか「したけど……」
美佐子「(思いっきり机を蹴飛ばして暴れながら)したけど何や! ワシ一人にする言うんか! 死ねって事か!」
まどか「ごめんなさい、ごめんなさい。ちょっとやめてよ。誰もそんな事言ってない」
机を元に戻すまどか。
○同・まどかの部屋・内(夜)
ファッション雑誌で顔を覆ってベッドで仰向けになっているまどか。
ファッション雑誌を放り投げて、うつ伏せになるまどか。
○歩道橋・階段(朝)
スーツ姿で階段を降りてくるまどか。
スーツ姿で髪をホテルマンのように整えた丁寧なお辞儀をする今井。
今井「まどか様、あの……」
顔を伏せるようにそそくさと今井の隣を通り過ぎていくまどか。
今井「お待ちを!」
まどか「馬鹿ですか、本当に。全然面白く無いですよ」
真剣な表情の今井。
今井「雑誌モデルのオーディション受けて下さい」
まどか「失礼! ヒマじゃないので」
立ち去るまどか。
今井「(まどかの後ろ姿を眺めながら)諦めません!」
○歩道橋(夜)
俯いて歩くまどか。
スーツ姿で頭を下げる今井。
不審そうに今井を見つめるまどか。
足早に通り過ぎていくまどか。
諦めないぞという表情の今井。
○歩道橋(朝)
片膝をついて花束を捧げる今井。
通り過ぎていくまどか。
寂しそうな表情の今井。
○歩道橋(夜)
ケーキを食べて、もう一つをまどかに勧める今井。
通り過ぎていくまどか。
チラッと今井を見るまどか・
ケーキを差し出す今井。
首を振って去っていくまどか。
惜しいという表情の今井。
○歩道橋(朝)
両手にプードルを繋いでいる今井。
通り過ぎていくまどか。
寂しそうな表情の今井。
笑うまどか。
○社内食堂
テーブルで食事をするまどかと智里。
まどかの傍に近付いて、まどかの背中をポンと叩く実里。
実里「明日よろしくー」
まどか「え? 何を?」
笑顔を見せて去っていく実里。
智里「ゴメン、勝手に参加って言ってもうた」
まどか「(焦ったように)困ります!」
智里「またカフェ?」
まどか「……まだ……許可貰えてないですし……」
智里「(箸を止めて)無理してでも来な。私達が守ってあげるから」
まどか「いや……」
智里「ちゃんと自分の思い伝えんとな」
困ったように俯くまどか。
○江南喫茶店・一階・喫茶店・表(夜)
ドアを開こうとするまどか。
出てくるアルバイトの女。
まどか「今日は随分遅かったんだね」
アルバイトの若娘「美佐子さんの手伝いで」
まどか「手伝い? ……そう。お疲れさま」
アルバイトの若娘「お疲れ様でした!」
○同・店内(夜)
輝くLEDライト。
飾られた画が変わっている。
テーブルを拭いている美佐子。
入ってきて辺りを見渡すまどか。
美佐子「どうや。雰囲気変わったやろ?」
まどか「うん、凄い……」
美佐子「どんな感じや」
まどか「古臭い感じだったけど、なんかちょっとオシャレ……」
美佐子「(嬉しそうに)そうか」
○同・二階・まどかの部屋・室内(夜)
布団や脱ぎっ放しのパジャマが綺麗に整えられている。
ベッドの下を覗くまどか。
まどか「ない……」
○同・一階・喫茶店・店内(夜)
カウンターでタバコを吸っている美佐子。
ドタドタと階段を降りてくるまどか。
まどか「お母さん」
美佐子「何や、気に入ったか」
まどか「雑誌は」
美佐子「はあ? 雑誌?」
まどか「私の部屋の」
美佐子「あれ、ゴミちゃうんか」
まどか「……どうして……」
美佐子「知らんわ、床にそんなん散らかしとくからやん」
拳を握って震えるまどか。
まどか「見えないクセによくそんなことできるね」
美佐子「(怒ったように)何やあんた。雑誌なんて置いとってもしゃーないやろうが」
まどか「そうね。どうせ服なんか買ったって日曜しか着れないし」
カウンターの椅子を蹴り倒す美佐子。
驚いて後ずさりするまどか。
まどか「お母さんヘンだよ! 病気になってからずっとずっとヘンだよ!」
勢いよく二階に上がっていくまどか。
落ち着かない様子の美佐子。
○同・二階・まどかの部屋・室内(夜)
せっせとリュックに衣類を畳んで詰め込むまどか。
フラッシュ――智里の言葉「無理してでも出て来な。私達が守ってあげるから」
隙間に化粧ポーチを詰め込むまどか。
○同・一階・喫茶店・室内(夜)
カウンターで片肘をついて頭を支えている美佐子。
降りてくるまどか。
まどか「(美佐子の隣で立ち止まり正面を見たまま)明日は帰らないから。一人で何とかしてね」
扉の方へ向かっていくまどか。
美佐子「(弱弱しい声で)……行かんといてえ……」
立ち止まって迷うような表情のまどか。
思い切って扉を開くまどか。
○歩道橋(夜)
リュックを背負って淡々と歩くまどか。
立ち止まって後ろを振り返るまどか。
再び前を向き、早足で歩いていくまどか。
○ネットカフェ・座敷の個室・店内・夜
寝転んでファッション雑誌を広げるまどか。
フラッシュ――「真剣な表情の今井」
雑誌を胸元に置いて、天井を見つめるまどか。
○同・女子トイレ・内(朝)
鏡を見ながら、メイクをするワンピース姿のまどか。
ワンピースを整えて、鏡にポーズを決めるまどか。
入ってくる女性A。
鏡越しに女性Aの姿に気が付いて、慌てて出ていくまどか。
○阪急芦屋川駅・全景
近くを流れる川辺に子供達が虫取りをしている。
古風な街並み。
○同・ロータリー
盛り上がって話す二人の男と実里。
まどかを抱きしめて頭を撫でる智里。
智里「ようきた、ようきた!」
浮かない表情のまどか。
まどか「あの、先輩」
近づく一台の乗用車。
乗り込む男二人と実里。
実里「二人も早く!」
駅の方へ去っていくまどかの後ろ姿。
実里「(智里に向かって)どしたの? まどか、トイレ?」
『さあ』というポーズをとる智里。
智里「ほっといて行こ」
実里「え! なんで」
智里「良いから」
車のドアを閉めて駅の方を見つめる智里。
○心斎橋・ホーム
停車する電車。
○同・二番出口
今井の元へ歩いてくるまどか。
嬉しそうな表情の今井。
× × ×
辺りは薄暗くなって、店の看板が点灯し始めている。
土下座をする今井。
今井「完全に俺の力不足! すまんかった!」
首を振って今井の身体を起こそうとするまどか。
まどか「今井さんのせいじゃない」
不思議そうにまどかを見上げる今井。
まどか「言われちゃった、私。君の目はまだ決意が足りない。後ろめたい気持ちは無いかって」
まどかを見つめる今井。
まどか「だから私行かなきゃ」
去っていくまどか。
何かを言いたそうにする今井。
振り返るまどか。
○江南喫茶店・表(夜)
インサート――小さな木製の看板「CLOSED」
暗い店内の様子。
店の前で佇むまどか。
○同・一階・喫茶店・店内(夜)
恐る恐る扉を開くまどか。
明かりをつけるまどか。
カウンターで前かがみになって眠っている美佐子。
美佐子「まどか……まどかかー」
突然立ってフラフラとまどかの姿を探し始める美佐子。
涙を流すまどか。
美佐子の身体を支えるまどか。
美佐子の身体を掴んで大泣きする美佐子。
まどか「(泣きながら)ごめんなさい、本当にごめんなさい」
美佐子「まどか、まどか、まどか……」
まどかの身体を丁寧に触れていく美佐子。
まどか「綺麗になったなあ、……綺麗になった」
美佐子を見つめ、美佐子を抱きしめるまどか。
○同・表
T――「三年後」
店の前に沢山の観葉植物が置かれている。
待機する客。
○同・店内
内装は三年前と変わらないが満席で賑わっている。
キッチンでコーヒー豆を手挽きしている美佐子(54)。
せかせかとアルバイトの若娘と共にコーヒーを客席に運ぶまどか(26)。
○同・客席
お盆に乗せたコーヒーをテーブルに置く
ひそひそとする四人組の女子高生。
女子高生A「(緊張した面持ちで)あの……まどかさん……ですよね……」
笑顔で軽くお辞儀するまどか。
女子高生A「表紙すっごく可愛かったです……あの……握手……良いですか」
微笑んで女子高生Aと握手するまどか。
歓喜の声をあげる女子高生達。
女子高生B「(便乗するように)わたしも……サイン貰っていいですか!」
女子高生C、D「私も!」
微笑むまどか。
○同・表
扉を開けるまどか。
出ていく客。
まどか「お待ちのお客様どう……え……」
立って笑っている綺麗なスーツ姿の今井(32)とお洒落をした智里(28)。
今井「まどか、久しぶり! ちゃんと紹介しとこうと思って。うちの専属モデルやってもらう事になった智里」
ベロを出して片目を瞑りふざけた様子の智里。
唖然とするまどか。
○心斎橋・二番出口
振り返るまどか(23)。
悲しそうな表情の今井(29)。
まどか「落として頂いてありがとうございます! 何かスッキリしました。私、一流のモデルになります! だから出直します! 何度だって! 次はもっともっと高い所でお会いしましょう!」
エンドロール。
脚本ですが、映像を思い浮かべて読んでみて下さい。