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静の瞳  作者: 汚名返上丸
5/7

深夜、森林にて 2

「さすがに直撃もらっちゃァ、まずいよなぁ」


 テンはとっさに土魔術を使い深く穴を掘り続け、ヒースのちょうど後ろに出るよう調節する。掘り続ける間背中から圧倒的な熱量が襲いかかるが、直撃するよりもましと考え穴を掘り続ける。


「甘いな」


 ヒースの一閃が穴から飛び出し襲いかかるテンを斬らんとする。


「甘いのはそっちだッ!」

「ぬゥッ?」


 飛び出た瞬間に張り巡らされていたテンの糸がヒースの剣を絡め取り、馬車ごとヒースの体を雁字搦めに縛り付ける。


「さすがの団長サマも絡め手には弱い、ッショォ!!」


 テンが腕を大きくふるうとそれに伴い糸がキュルキュルと音を立て絞られ、馬車をみじん切りにする。


「けっ、あの馬車は囮ってか、団長様のみじん切りもできなかったみたいだし」


 みじん切りにされた馬車の下から、腕から多少の出血はあるものの、ほとんど無傷のヒースが出てくる。それを見ていつでも援護できるようにと近くの木陰に待機していたリュウがテンに駆け寄った。


「テン、退け。カガヤが本体を発見し、今から攻撃を仕掛けるようだ。おそらくさっきの魔術はこの場にいなかった勇者のうちの一人だろう。リンが今周囲を捜索している、一人は補足したようだから急いで現場に向かって殺ってこい」

「あのおっさんには俺の絡め手はあんまし効かなそうだし、この場はリュウに任せる。頼んだぞ」

「ああ」


 そう言うや否やテンは魔法を放ってきた勇者を仕留めるためにその場を離れる。


「よく初見でテンの糸を避けることができたな」

「ふむ、新手か。何故に君たちは公爵閣下の命を狙うのか、聞いてもいいかい?」

「純粋に戦争が嫌なだけさ。いまこの国が戦争に巻き込まれると不都合なんでな」

「君はグランが負けると思っているのか?」


 友人のように軽い調子で話している二人だがその間にも隙を見せ合ったり攻撃のタイミングを探りあったりと心理戦が行われていた。


「俺らが手を貸せば絶対に負けることはない」

「だったらそれこそ我々に、国に力を貸してくれてもいいと思うのだが、どうかね?」

「俺たちが求めているのはグランの国が助かることでも、滅ぶことでもないからな」

「ふむ、実に不思議な意見だな。だが、交渉は決裂か。非常に残念だよ。立ち会うだけで私と同等かそれ以上とわかるものとはここ最近会う機会がなかったからね」

「よくしゃべる奴だ。……だが」


 途端、ヒースの足元の土が底なし沼になったかの如く、体を飲み込んで行く。そして、なぜか、体の自由が利かない(・・・・・・・・・)



「お前にはここで退場していただく」



 先ほどまで黒かったリュウの瞳が、いつの間にか青に変化していた。



「ふむ、幻術か。十分に注意していたはずなのだが」

「見敵必殺がうちのモットーでね、確実に殺る手段を選ばせてもらったよ。何も幻術っつうのは目を見たり匂いを嗅いだりするだけじゃない」

「なるほど、その青に変わった君の目が幻術の源かい?」

「ああ、そうだ。だがお前にかけたのは五感のすべてによる幻術だ」

「随分と簡単に教えてくれるのだね。私がそれを国に持ち帰ったら、どうするつもりだね?」

「お前はすでに俺の術中。そしてここは俺の世界だ。ここからお前が生きて帰ることはない。さぁ、教えてもらうぞ、今回の騒動の詳細」

「タダでは言わんさ」


 そう言い放ったヒースだが、いつの間にか埋まっていたはずの体が地中から出てきている。だが、埋まる前には確実にそこにあった両手がない。


「ふむ、なかなかの術だ」

「お前の精神を極限まで削り取って、必要な情報を持ち帰る、そして並の人間ならその段階で死ぬ。それが俺の術だからな」

「さぁ、この状態に陥ったら」

「もうお前に」

「生き延びる術はない」

「早く」

「楽になれ」


 いつの間にかヒースの体は十字架に架けられ、たくさんのリュウに囲まれている。気付かぬうちにヒースの足元には火がかけられ、周りにたくさんいたリュウはヒースに対し矢を放つ。バスバスと、重い音を立てながら無数の矢がヒースに襲いかかるが、矢は実際に刺さっていない。確かに痛みを感じるのに


「なか、なか、効く。が、こんなことで、私の口を、割れると、思うなよ」

「しぶといな、普通の人間だったらすでにここで堕ちている。流石はグランが誇る団長様だな」

「ふ、お褒めにあずかり、実に、光栄だ」

「だがいつまで耐えきれるかな?」




「この術の効果時間は」




 リュウの言葉が





「48時間だ」




 __ヒースに絶望を叩きつける。




______________________________________



「……ッハァ」


リュウの青の目は黒に戻り、両の目から血を流している。


「48時間フルに使ったのは、久しぶりだった」


目頭を抑えるリュウの前には、凄絶な表情を浮かべたまま事切れている、ヒースの亡骸がある。


「団長の肩書きは、伊達じゃなかったな…」


全身にまとった鈍い倦怠感を我慢しながら、リュウはカガヤに連絡を取る。


「こちらリュウ。今近衛騎士団長を始末した。そっちの守備はどうだ?」

「夜は俺の時間だからな。勇者が一人護衛についてたが、勇者ごと公爵を始末した。これにて任務完了だ」

「了解、帰投する。団長の死体はどうする?」

「リンと合流できるなら回収してきてくれ、だが、おそらくリンとテンはまだ戦闘中だろう、そっちがケリついたら、回収に向かわせる」

「了解」



 久方ぶりの大仕事は意外とあっさりと決着を迎えた。この結末が、後に長い間語り継がれるルミア対戦を巻き起こす遠因となることを、『静』がさらなる戦いに放り込まれる原因になることを、この時はまだ誰も知らなかったのである。

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