医院にて
「たっだいまーーー!!!!!!」
「ただいま任務から帰還した。これから帰還報告を行う」
深夜、王都にある医院に対照的な二人の声が響く。
「よし帰ってきたな。リュウ、始めろ」
「了解。ターゲットの男爵は殺害後リンに持ち帰らせている。目撃者は0、全員殺した」
「お? 珍しく過激なことをする。トラブったのか?」
「警備が情報よりも多かったしリンが手こずる手練れもいた。リンがウキウキして飛び出して警備をガン無視していくから俺が後始末をしたんだ」
「リン後で俺と組手な」
後ろの方でうぎゃあと悲鳴が聞こえる。が、そんなことを気にせずリュウは報告を続ける。
「その手練はフレデリックだった。リンが遊びたがっていたが時間が長引いたから俺が殺った」
「リン、100本組手な」
のううううううと叫び声が聞こえるが二人は無視して報告と確認をする。
「以上が屋敷であったことだ。警備45とフレデリック、ターゲットの計47を殺してきた」
「んー、確かに思ってたより多かったな。にしても豪剣と戦ってリンはよく無傷で済んだな」
「俺が怪我する前に割り込んだんだ。早く寝たかったし」
「正直な掃除機だな」
「……これで報告を終わりとする」
「正直、掃除機、くくくっ」
「……カガヤ、もう寝ていいか?」
「くくっ、いいぞ、うむ。ああ、晩飯はセンが作ってくれてるから食ってけ。後リンは死体の提出後俺とオールナイト組手な。お疲れさん」
この白髪交じりの黒髪に、艶やかな黒目をもち、ひきしまった体をしょうもないギャグで震わせてるのが、暗殺組織『静』のNo.1であるカガヤ。リュウに瞳術体術魔術を叩き込んだ育ての親である。外見はかっこいいのに親父ギャグ好きがしょうもなさすぎる男である。そんなカガヤはとてもにこやかな顔でリンの頭を掴むとそのままトレーニングルームへと消えていった。リンの絶叫がこだまするが誰一人としてそれを気にはしない。
「リュウ、おかえり。晩御飯、つくってあるわよ」
「おう、ただいま。いつもありがとう、セン」
「ふふ、こんなの私にしか作れないわよ。腕によりをかけたんだから」
にこやかな笑顔でリュウに声をかけ、串を渡すのが、『静』のNo.6であるセン。燃えるような赤髪と赤目を持つが火炎魔術よりも料理の方が得意だそうな。料理の腕がとても良く、店を開けばそれはもう儲かるであろう彼女だが、常人には絶対に理解できないであろう趣味を持つ。それが、拷問と生きた人間の解剖。果たしてそれは趣味と言っていいのだろうかと常々思うリュウだが今更何をいったところで変わらないことを承知しているので何も言わない。今日も拷問上がりだからこんなに血生臭いのだろう。そして機嫌もすこぶる良い。なんで50人近く殺してきた俺より血の匂い強いんだよおかしいだろとは言わない、口が裂けても言えない。胃袋を掴まれてる以上、立場はうーーーーーんとしたなのである。
「うわ、でたよリュウのゲテモノ食い。なんでそんなもん食えるんだよ、マジでありえないだろ」
「お前も人のことバカにできないような趣味持ってるんだからな、この前も性病もらってきやがったのに、昨日またもらってきたんだってな。近寄るな。バカも性病も移ったらどうする」
「お前、移ったらそれはそれで問題だからな!」
ケタケタとずっと愉快そうに笑っているのがテン。黒い長髪を後ろでまとめ、綺麗な翡翠色の目を持つNo.5で普段は街に出て情報収集や女あさりをしている。たぶん女あさりの方が頻度が高い。リュウのことをバカにしているが、こいつもこいつで下半身で生きているからか、しょっちゅう性病をもらってくる。いくら治安も生活水準も良好な王都とはいえ、この男が食らう女の全ての病気を治療することなどできないのだろう。
「セン、直してやったのか?」
「治すわけないじゃない、バカにつける薬なんて私でも調合できないしそんな魔術あったらあたし今頃有名人だよ」
「性病はなおせるじゃねえか! なーんでなおしてくれねえんだよ!!」
「多少ましになるでしょ、ほっとけば治る系のやつだし。いい薬になってほしいわ」
センは優れた医療魔術の使い手であり、この医院を一人で切り盛りしている綺麗な女医さんという表向きの顔を持つ。彼女がいなければ死んだであろうこともあるし、この街で彼女に診てもらう人間は王族から普通の市民まで幅広いため、優れた情報屋とも言える。センが表の情報を集め、テンが裏の情報を集めるという形が、とてもマッチしていてなんだかんだこいつらいいコンビなのである。
「やっぱお前ら仲いいな。おれめしくってんね」
「あ?! お前の目は節穴だなぁ!? だからそんなキチガイフード食べれんだろ?!?!」
「私の作ったものにキチガイフードなんて名前つけるの?! 信じられない!!」
「カブト虫の素揚げに蜂蜜と味噌と唐辛子かけたやつだろ?! そっちこそしんじらんねえよ!!!」
「うん、うまい」
苦味と甘みと辛さと塩っぱさが非常にいい味を出している。うん、いけるな。
「テンもくう?」
「ぜっっっっったいいらねえ!!!!!」
「言われなくても食べさせないわよ!!!!」
あ、喧嘩に発展した、なんて考えながら、味の不協和音を楽しむリュウ。そんな彼にすっと近づく影が一つ。
「リュウ、おかえり」
「ただいま。シンさん」
よってきたオレンジボブカットの女は、この組織のNo.3、であるシン。リュウが豪商暗殺の任務の際に拾ってきたのが彼女なのだが、並列思考の技能をもち、『静』の裏方を一手に引き受けるやり手である。技能が故か、戦闘も魔術もリュウに匹敵する実力を持つ。そんな彼女だけが『静』でまともな人間であり、苦労の多い人物なのだ。
「また喧嘩…もう今日9回目なんだけど…」
「まあまあ、いいじゃないか好きにやらせれば」
「夜中だよ、シンも叩き起こされたし…」
「しかいあいつらもあきないよねえ。顔合わせりゃ喧嘩してるし…」
「喧嘩するほど仲がいいって、実は嘘なんじゃないのかな…」
「よーし、残りは明日だリン! しっかり体を休めろよ!!」
うるさいのがきたと思ったら、それはリンを肩に担いだカガヤだった。リンは死んでる。
「もう、むり、うぅう」
「必要ない戦いだったし、仕方ないな」
「また、リンの悪い癖?」
「そうだよ、結果として、カガヤの100本組手」
「まぁ、妥当」
「うぅうぅ、やだぁ、ううぁうえ」
ついには人の言葉も忘れてやがる。
「よし、久方ぶりにみんな集まったな! 今度はでかい依頼だぞ!!!」
カガヤの声に二人も渋々喧嘩を止め死体も復活し、皆の注目が集まる。
「公爵殺しだ」
なるほど、たしかにでかい依頼である。