凸凹コンビ
「ここからさきにはッ! いかせんゾォッ!!!!」
言葉と共に、体に常人であればそのまま本当に死んでしまうであろうレベルの殺気が放たれる。事実、彼の横にいた騎士達は死にこそしてないが気絶している。
「うーん、こんな強そうなオジさんがいるなんて聞いてないんだけどなあ」
「そういうな。どうせ戦いたくてウズウズしてるんだろ、むしろラッキーくらいに思ってるくせに」
「ま、そーなんだけどさっ」
ニヤッと笑みを浮かべたリンは詠唱することなく魔術を発動させる。
「ッ?! 空間系の魔術か!」
「お、やっぱりオジさんただの脳筋じゃなさそうだね! とりあえずっ」
その場からリンの姿が掻き消える。
「そこかァ!!!!」
咆哮を上げながらターゲットの護衛と思しき敵の筋肉が唸りを上げ、手にした100kgはくだらないであろう大剣を素早く振り下ろす。
「うわっ!」
リンは短剣を抜き大剣を右にそらしながら左へ小さく跳ね、そのまま手から雷撃魔術を放つ。その形は龍が如く、見たものに凶暴だという印象を与える。魔術を知らないものが見ても当たったら消し炭も残らないということが本能で理解できるであろう。
「ふんッ!!」
大剣を大きくふるうことで放たれた雷撃魔術を打ち消し、その大きな図体からは想像もできない速さで護衛の人物はリンに肉薄する。
「思ったより全然強いや!! あははははは、たーのしっ!!!!」
三日月のように大きく歪んだ笑い顔を浮かべながら、轟と唸りを上げ襲いくる大剣をリンは短剣で受け止める。
「その小さい体のどこにそんな力が…ッ!」
「ひっみつー!! セイッ!」
鍔競り合いになっていた短剣と大剣の拮抗はリンの掛け声とともに崩れ、二人は距離を取る。
「雷よっ!」
先ほどよりもはっきりとしたフォルムの龍頭が4つ。リンの周りに浮遊する。
「やはりまだまだ力を隠しておったかッッ!!!」
気合共に先ほどよりも重く素早い大剣が放たれ、剣圧だけで4つの龍頭は霧散する。
「今飛ばしたのは魔力!?!? ひっさしぶりに魔法が使えなかったぞ!!!! これはどうっ!? 雷龍よっ」
次に現れたのは、雷でできた龍。明らかにさっき放った龍頭よりも込められている魔力が多い。それが放たれるかに思われたが、またも霧散してしまう。
「あーー!!! なにするんだよ、リュウ!!」
「リン、時間をかけすぎだ」
「せっかく強そうなオジさんいるんだから楽しみたいじゃんー!! うー!!!!」
「まだ標的を仕留めていないぞ」
「ちぇ、せっかくわたしと同じくらい強い人と戦えてたのにー…」
「わたしの前で、世間話とは随分と余裕だな、侵入者よ」
いつの間にか後ろにいた敵が完璧なはらい斬りで二人を叩き斬る
かに思われた。
「見よ」
男の目が青に輝き、見開かれた、その瞬間に
「…………う……あ………??」
リンと激しい戦闘を繰り広げていた敵、フレデリックは、自身に何が起きたかも知らぬまま意識を落とし、二度と目覚めることはなかった。
「ちぇーっ、戻ったらわたしと絶っっっ対戦ってよ?」
「暇だったらな」
「どーせ暇じゃないじゃーん!!!ぶぅ!!!」
「カガヤと戦ってもらえ。喜んで相手してくれるぞ」
「あの人はリュウを倒せるようになってから!!」
「シンさんにも勝てんくせに何を言う」
「んだとぉ!? 表出ろや!!!」
口では悪態をつきながら、ちゃんと何をするべきか理解はしているのであろう、リンは空間魔術を解除する。
「さぁ、仕上げだ」
「ったく、人の話聞けよなー!」
そんな風にじゃれ合う二人の後ろには
急所をひとつきされた死体と、大きい風船を血液で膨らませて爆発させたような、そんな血だまりが広がっていた。
これは、しがない暗殺組織「静」の物語である。