絶望を模る天使 ~友の日記帳~
君は、まるで透明だ。
凍えそうになりながら、その凍てついた手を差し伸べたところで、凍結、時間は容赦なく裁断を下す。ところでこれはどういう訳だろう。助けに来たはずが助けられて、結局何も残るものが無い。相変わらず、君は一人じゃないだの、なんだのと聞こえてくるかしましさと来たら、湯が沸いたやかんのようで、耳から侵入し脳髄をなめずり回すかのようだ。希望なんて抱くんじゃなかった。
人は結句、独人で生まれて、独人で死ぬんだから。あいつらは今頃よろしくやっている事だろう。大切なものなんていっそ、失う位なら最初からない方がましなのだ。失うを知っても、また繰り返してしまう。それは希望があるからだ。おためごかしの気分屋の希望というやつが、手ぐすね引いて待ち構えていやがる、次の獲物を、今か今かと。何度目だ。そうやってまた、誘き寄せられた獲物がとぼとぼと罠にかかる。甘言に乗る。そんなのはまやかしだ。実は気付いているのかもしれない。それにしたって、やり方が汚すぎる。だから、希望なんてものを信じるなんて、愚かな奴のすることだと、口では言ってみても、それでも、信じたいじゃないか。こういう諦めとか、そういう類の連盟がのこのこ仲間連れで、またしても皆目見当はずれな事をのたまう。そうこうしてるまにこちとら絶望とよろしくやらせてもらうしかないだろう。その絶望ってやつだが、紹介が遅れた。まあいつもいつもついて回ってきている奴の事だから、これが初めてって事も無いだろうけれど、そう言う事だ。ちゃんと忠告はした。だからこそ、希望の口車に乗ってやる振りもした。それこそ、次は無いってくらいちゃんと言い聞かせもしている。それだって、次善の策とかいうあてにならなさとどっこいだ。現実はこれ。引き連れてきたもろもろの理想、夢とか言う愉快なお仲間連れと一緒に、見事に薙ぎ払われて、この有り様。これでも、希望を信じていなかったなんて言えるんだろうか。もう言い訳は止しておこう。とにかく一人きりの境遇について考えてみるしかない。生きてくれと頼まれたけれど、それをどうやって果たせばいいのか、こんな自分をどうして信じて送り出すなんてことが出来るのか、ちっともわからない。誰かのためになりたかった。そんなちっぽけな希望さえ、明日を繋ぐために持ち寄らなきゃいけないのだったら、この日々の鬱屈は、何物にも代えがたい厄介な難物だ。明日を生きるべきはこちらではない。そう何度も言わせてくれたのは、明日に繋ぐ希望をまざまざと見せつけられたからだ。それを背負うべきは、どう足掻いたって、こちらに預けるのはお門違いだ。それでも、最期の力を振り絞って、一瞬触れた指先と指先、ただの一言、
――明日は君のモノだ。
冗談じゃない。それは、もちろん冗談じゃない。こんな時に冗談なんて言えたものじゃない。それでも、明日を託しちゃ一番いけないやつに、明日を託してしまったんだぞ。自分が生き残る選択をしなかった。そのためにこっちは危険を冒したのに。そう言う事をするやつだった。
明日なんて、信じられるかよ。
もう、諦めはついたのかい。重々しい足取り。
凍て尽きた境涯に、寂寥、詳らかに開け放たれた困却を刺し穿つ一雫。
掬い取るも空しく、日々の輝ける彩りの清かに、目映くも零れゆく。
闇の彼方から、とぼとぼと辿る。その先にあるは明日か。
行方知れずの地図は、されどここにありて、躊躇いがちに導く。
どういう訳かこんな所まで来てしまったようだ。
取っ掛かりは至極単純で、無理難題を押し付けられた。
手助けは必要ではなかった。
なぜなら、行き場のない者はやがて生き果てる。
その果てを衒うとするならば、願いの導かれる場所。
彼は求めた。幸いを。
その果てを弄うとするならば、憩いの限りある場所。
彼は記した。幸あれと。
少しずつだが、薄靄は解かれ、薄氷は霞む。
どうやら、僕にも、友達ができたらしい。
それはそれは、優しい目をした少年だった。
僕の世界は漆黒。
でも、彼はどこまでも、どこまでも透明だ。
漸く、と言ってもどれだけの時間が経ったやら。
生き永らえる辛苦の故に、然るべき愉悦を。
やがて彼は知るだろう、傍らに立つ者の名を。
やがて彼は知るだろう、傍らに立つ者の意を。
それだけ携えて堪えて贖って囲繞して、甘く囁く希望。
それはとても喜ばしい事。
あえかに鏤められた一欠けら。
交わる事の無い点と線。
でも、君と同様に私もまた、独人では在り得ない。
肯うべくまた、揺らめく幻燈を透かして覘く、彼の夢を。
望むべくは絶えぬ。
思い出を塗した、白砂の日記帳。
君と出会う日をまた夢見て。
This continuation is in the next "229".




