シルバーゴブリン
「深い森だなぁ」
周りが大きな木々に囲まれている森を今俺達は歩いている。
俺達が探しているのはシルバーゴブリン、こんなにも広い森の中、探し出せるかどうか分からない。
「シルバーゴブリンって見た目は白いんだろ?それ以外なんか特徴とかあるのか?こんな広い森の中、ただ探すだけじゃ埒が明かない」
「そうですねぇ、シルバーゴブリンは他のゴブリンよりも強いため、ゴブリンの集団のボスなんです。だからゴブリンの集団の中にいる可能性が高いんです」
「そうだな、ゴブリンの集団を探すのをまず私達の目標にするとしよう」
シルバーゴブリン、はぐれてないんだなぁ。なんかはぐれメタ○とかそういう珍しいモンスターは単体でいるイメージがあったからな。
でもこの森、さっきからモンスターと出会わないんだがどうゆうことだ?
キョロキョロと周りを見渡しながら歩くが、いるのは動物ばかり、モンスターが見当たらない。
「いないですね」
「そうだなぁ」
一時間ほど探したが、モンスターを一体も見ることがなかった。
「もしかしたら生態系が変化したのかもしれないぞ」
「どうゆうことだ?」
「この森に絶対的強者が来たとしたら、その他のモンスター達は場所を移すか隠れるかしないと殺されてしまう」
「つまりクロウツェル、お前はこの森に他のモンスターがびびって逃げるほどのモンスターがいるって言いたいんだな」
「まあ、可能性の話だが」
そう考えると、そのモンスターの強さは未知数ってことか。
もしかしたら俺達じゃ手に負えない相手かもしれない。
「このクエスト、どうする?続けるのか」
「私は……徹君の判断に任せます」
「そうだな、私も任せよう」
「は⁉︎俺?」
最近この世界に来たばっかりの無知な俺にそんな重大な判断ができるはずがない。
けどもし判断するとした、俺はこのクエストを続けたいと思っている。
命の危険があるかもしれない、たしかにそうだ、だかそんなことこれから頻繁に起こるかもしれない、だから尻尾を巻いて逃げるなんて俺はしたくない。
……まあマジで勝てないと思ったら逃げるけどな。
「……俺は続けたいと思う」
「了解した」
「分かりました」
「…ありがとう」
クエストを続けることを決意した後、森をしばらく歩くと、木々がなぎ倒されているところを見つけた。
どう見ても怪しい、もしかしたらモンスターによるものかもしれない。
「二人とも、ここから慎重にいきましょう」
「そうだな」
ゆっくりと、なぎ倒された木々の中を歩く。地面に落ちているのは動物だと思われる骨だ。
俺は地面を見ながら歩いていると、自分が大きな影に覆われていることに気がついた。
「上だ!!」
ドォォォォォンと砂煙を巻きながら上から何かが落ちてきた。
俺達はそれをとっさに回避する。
「なんなんだ、一体」
「こ、こいつは」
砂煙が風で流さると、そこに見えたのは銀色のゴブリンであった。しかし、普通のゴブリンには見えない。目が赤く光っており、筋肉もゴブリンよりもついている、なにより、普通のゴブリンよりひと回りもふた回りも大きい。
だが、大きさはそこそこあるが大型モンスターとは言い難い。
『グガガガガガガカゴゴゴ』
「お、大きすぎますよ…これ」
「どうゆうことだ?」
「シルバーゴブリンの大きさは普通のゴブリンと同じくらいです、ここまでの大きさのシルバーゴブリンなんて見たこと、聞いたことがありません」
……つまり、こいつがこの森の生態系を変えた原因ってわけか。
他のシルバーゴブリンよりも強すぎたせいで、生態系の中で絶対の捕食者となった。
群れでいないのは、一体でも他の天敵はいないからか。
「どうする?戦闘するか?」
「私は逃げることはできないと思うぞ、シルバーゴブリンは素早い、私達が走るよりもはるかにな」
「とりあえず、ステータス上昇の魔法を唱えますので、クロウツェルさんは時間稼ぎをお願いします」
「了解した」
「移動加速」
そう唱えると、クロウツェルの周りが青く光った。
そしてシルバーゴブリンめがけて凄まじいスピードで斬り込みに行った。
……あのスピードなら逃げることができるんじゃないのか…。
まあとりあえず、俺も唱えるとしよう。
「移動加速、防御上昇、攻撃上昇」
魔法を唱えると、俺の周りが青く、黄色く、赤く光った。
…これでいいのか?
「防御上昇、移動加速、攻撃上昇、攻撃緩和」
亜紀の周りが四色の色で光った。
「徹君はクロウツェルさんの援護を、私は遠距離から魔法を唱えます」
「おうよ」
俺はシルバーゴブリンの近くに寄った。
目の前では、シルバーゴブリンとクロウツェルが戦闘を始めている。
シルバーゴブリンの注意をクロウツェルが引きつけているため、俺にシルバーゴブリンの攻撃が向かってこない。
「炎斬!」
クロウツェルの短剣が魔法の炎に覆われる。
そして素早い18連打のダメージを与える。
シルバーゴブリンはその素早い攻撃に応えたのか、後ろに怯んだ。
「氷結斬!」
俺は片手剣に氷の魔法を纏わせて、怯んだシルバーゴブリンに斬りかかった。
『グガガガ』
シルバーゴブリンは怯みすら見せず、俺に殴りかかってきた。
「はぁ⁉︎…くっ」
二十メートルくらい吹っ飛ばされた後、ダメージが大きいことに気がついた。
「はぁ、はぁ、骨折れてんじゃねえのか。きっつ」
防御上昇の魔法を使ったのにもかかわらずこのダメージ、それに攻撃が速すぎて避けられなかった。
そう考えるとクロウツェルのやつ、よくあんな化け物と戦えているな。
「はぁ、はぁ……か、回復薬を飲むか」
皮のバックから回復薬を右手で取り出す。左手はものすごく痛い。折れている可能性が高いな。
「んぐっ、んぐ、ふうっ。痛みが引いたな」
左手の痛みが和らいだ。
回復薬すごいな、軽症程度ならだいぶ楽になる。たぶん骨も繋がっている。
「徹君、大丈夫ですか?」
亜紀が少し遠いところから呼びかける。
「ああ、大丈夫だ」
立ち上がると、シルバーゴブリンの方を向いた。そして右手を突き出す。
「火炎弾!」
背後から現れた魔法陣から炎の弾丸がシルバーゴブリンを襲う。
しかし、大したダメージを受けたような様子は見せない。
「くそッ」
「徹君、魔法を放ちます、回避してください」
「了解っ」
右の方に転がり、後ろから放たれた雷の魔法を避けた。
そしてその雷の魔法がシルバーゴブリンを直撃する。
電撃により筋肉が硬直したのか、しばらく動かない。
そこを見逃すはずがなく、クロウツェルと俺は斬りかかったのだった。