クエスト!!
「換金お願いしまーす」
「魔法石5キログラムですね、50000Gになります」
「どーも」
俺は先ほどのモンスター討伐で獲た魔法石を換金し、資金の足しにした。
50000G、何に使おうか。そういえば、この世界の食べ物はまだ食べていなかったな。亜紀と祝勝会でもしようか。
「換金してきたぞ、これから食事でもどうだ?」
「いいですね!オススメのお店があるんですよ、行きましょう」
俺は亜紀に連れられ、彼女が常連だと言う店にやってきた。
あまり大きくはない店だ。大きさはファミレス程度か。
看板には「ガンモール」と大きく書かれている。
「入りましょうか」
「おう」
中に入ると、様々な冒険者の溜まり場になっていた。中には上級の冒険者もいる。
雰囲気は俺が想像していたとうりだ、看板娘が酒を運んでいる。
「いらっしゃい」
「どうも、ミエルさん」
亜紀と挨拶したのは、この店の店長だと思う40代くらいのおばさんだった。
体型はしっかりしていて、昔は冒険者をやっていそうだ。
「いつものを二つください」
「はいよ、連れは彼氏かい?」
「もぉ、そんなんじゃないですよ」
二人は笑ながら会話している、まるで親子のようだ。「いつもの」が通じるのは常連の証だろう。
「ここはね、私がこの世界に連れて来られて右も左も分からない時に入ったお店なの。私が冒険者として色々迷っていた時、店長のミエルさんが私に色々教えてくれたんだ」
「へぇ、俺からは親子のように見えたぞ」
「はい、私にとってお母さんみたいな存在です」
そんな会話をしていると、店長さんが料理を運んできた。いい匂いがする。
「はいよ、ローズバイソンのステーキとミロブレオのサラダだよ」
「ありがとう、ミエルさん」
運ばれてきたのは、牛肉のステーキのようなものと、紫色のトマトなようなものが乗ったサラダだった。
「この料理は、ミエルさんが初めてお店に来た私に作ってくれたものなの」
「そうなんだ。じゃあ、いただきます」
俺は鉄板でパチパチと脂が跳ねている肉にナイフを入れる。
思ったよりも柔らかく、ナイフで楽に切れた。
その一口サイズに切った肉を、隣のタレにつけ、口に入れた。
最初、脂っこいかと思ったがそんなことはない。しつこ過ぎずちょうどいい脂身だ。それに、何より柔らかい。地球でA5ランクの肉と同じような柔らかさだ。
そんな肉が駆け出し冒険者が食べられる値段とは……異世界っていいものだ。
「……んまい」
「ですよね!地球で食べた牛肉のステーキよりも柔らかくて美味しいんですよ」
亜紀も少し大きいかなと思うほどの大きさのステーキを頬張る。
満足げな笑顔を俺に見せる。
か、可愛い。
「このサラダも美味しいんですよ。ほら、こやトマトのようなやつ、すごく甘いんです」
「へぇ、どれどれ」
その紫色のトマトなようなものを指でつまみ、口に入れた。
その瞬間、ぶどうを食べているかのような甘みが口の中に広がる。
その後、柚子のような風味が口に残った。
「美味しい!果物みたいだ」
「私もこれ大好きなんです。なんだか気が合いますね私達」
「そ、そうだな。あははは」
異世界に来なければこんな素晴らしい出会いはなかった。ありがとう、俺をこの世界に送った人!
俺達は夜飯を食べ、ガンモールをあとにした。そして暗くなった市場を歩く。
「では、今日は解散にしましょうか。明日は私用事が少しあるので、午後に正門前に集合しましょう」
「分かった。おやすみ、亜紀」
「おやすみなさい、徹君」
そう言って俺は亜紀と別れ、宿に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「くぅぅ、午前は暇だしクエストでも受けてみるか」
朝起きた俺は、ジャージから装備に服装を変えた。ジャージはいつの間にか俺の寝巻きになっていた。
今日の午前は暇なので、クエストを受けようと思ったが、はたしてどこで受注できるんだ?まあ、多分冒険者ギルドか。
てことで俺は冒険者ギルドへ向かった。
「あのぉ、クエストを受けたいんですが…」
「はい、難易度はどういたしますか?☆1〜☆10までありますが」
ふむ…☆1じゃ低すぎると思うから、☆2にしておくか。
「じゃあ☆2で」
「ただいま☆2のクエストは三つあります。一つ目はドラゴントカゲ3体の討伐、二つ目はゴブリン5体の討伐、三つ目はアーセナルスライム3体の討伐です」
「んー、じゃあドラゴントカゲ討伐のやつで」
「かしこまりました、では冒険者カードにクエスト情報を送りますね」
受付娘の人は、冒険者カードを受け取ると、何かの魔法を使い、その後冒険者カードを俺に返した。
「どうも」
「では、お気をつけて」
俺は受付娘に見送られ、冒険者ギルドを出た。
他の冒険者の怪しい視線を感じていたが、俺は気にしないようにしていた。
めんどくさいことに巻き込まれるのは嫌だからな。
俺はクエストを達成するために草原へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぅ、ドラゴントカゲどこにいやがんだ?」
ドラゴントカゲを探し、草原をうろうろしていた。
ドラゴントカゲ、名前からしてトカゲなんだろうけど、岩の裏とかにいるのか?
俺は少し大きめの岩を裏返した。
「いねぇな…」
ツンツンと背中を指でつつかれているような感触が伝わってきた。
誰かが後ろにいる?
「誰だ!!」
俺は素早く後ろを向くと、そこに人はいなかった。
「ガロロロロロ」
人ではなくめちゃくちゃデカイトカゲがいた。
「う、うそぉ」
横の大きさは3メートルほど、見た目はゴブリンなんかよりもうんと強そうだ。
すぐさま剣を抜き、臨戦態勢に入る。
「おりゃぁ!」
短剣をドラゴントカゲに向けてふるった。ダメージは一応通ったのだろうが、鱗が硬くて大ダメージとはいかなかった。
「ガロロロロロ!!」
ドラゴントカゲは、怒っているのかこちらに突進してきた。地球では見たことないサイズのトカゲが突進してくる。なんだろう、ものすごく怖い。
「魔法ならどうだ、『火炎』」
右手から放たれた小さな火の玉が、ドラゴントカゲに当たった。
しかし、少し皮膚が焦げた程度でやはり大ダメージにはならない。
「ガロロロロロ!グロロロロロ!」
てゆうかさっきよりも怒ってる⁉︎
ドラゴントカゲは腕を振り下ろし、鋭い爪で攻撃してきた。
「ブンッ」と空気を切り裂く音が聞こえる。
「くっ、重い」
その攻撃を短剣で防ぐ、しかしその攻撃の重さに耐えきれず膝をついた。
そのままでは次の攻撃に対処しきれないので、後ろに後退した。
ドラゴントカゲは完全にこちらを敵と認識している。
「さてどうするか…」
命のやり取りだ。ゲームのように軽い気持ちで動くことは出来ない。
慎重に相手の動きを読み、なおかつどうやって大ダメージを負わせるか考えるだ。
幸い、こちらには新たに覚えた魔法がある。
「ガロロロロロ」
ドラゴントカゲがしかけてきた。
その巨体をこちらにぶつけてくる。まともに受ければ大ダメージはまぬがれないだろう。
「凍結!!」
レベルアップで新たに覚えた凍結の魔法を右手から放った。それにより、ドラゴントカゲの足が凍り動きが止まった。
チャンスだ!そう思い、今俺の最大攻撃力を誇る魔法、火炎を短剣に纏わせて切りかかった。
炎を纏った短剣がドラゴントカゲの尻尾の皮膚を焼き切る。
「グロロロ⁉︎ガロロロロロ!!」
ドラゴントカゲの尻尾を切り落とした。
切り口から血がドロドロと流れ手おらず、切り落とされた尻尾はガラスのように砕き割れ消滅した。
ドラゴントカゲは尻尾を切り落とされた痛みに動揺し、ひるんでいる。
「中位魔法が使えたら一発なんだけどな。『火炎弾』!!なんつって」
俺がそんなジョークを吐くと、背後から無数の魔法陣が現れた。
「は⁉︎なんで?」
そして、魔法陣から炎の弾丸がドラゴントカゲに向かって何度も放たれる。
「ガロロ……グロロロロロ」
ドラゴントカゲの悲鳴のような鳴き声が聞こえてきた。
草原のモンスターはレベルが低い、そのため中位魔法なんかを放たれたら一発で死ぬ。
ドラゴントカゲはその火力に耐えきれず、ドロップアイテムを残して消滅した。
「俺なまだ中位魔法は使えないはずなんだが…」
冒険者カードを確認してみる、すると覚えているはずのない中位魔法「火炎弾」の魔法が載っていた。
なんでだ?いつ覚えた?昨日亜紀と討伐に行く前に冒険者カードを見た時は無かった。それ以降に何かあったか⁉︎
くっ、思い出せない。いや、多分そんなこと無かった。
「……え?なんで…」
「火炎弾」の隣には、なんと上位魔法「火炎地獄」の名前があった。
駆け出しの冒険者が上位魔法を覚えられるはずがない。
俺はその時すこし恐怖を感じた。
覚えているはずのないものを覚えている。俺は異世界にやってきて、初めて不安を感じた。
「…まだクエストの途中だ。このことは後で亜紀に相談するとしよう」
ドラゴントカゲのドロップアイテムを拾い、あと2体のドラゴントカゲを討伐するため俺は草原を歩いた。
草原は広く、見通しがいい。あと2体のドラゴントカゲも多分すぐ見つかるはずだ。
すこし歩くと、先ほど聞いた鳴き声が聞こえた。
「「「ガロロロロロ!!」」」
「よ、よぉ見つけたぜ……」
どうやらドラゴントカゲの群れに出会ってしまったようだ。
30体近くの巨体が一斉に俺を敵と見なし臨戦態勢に入る。
「俺にはな、中位魔法があるんだ。2体も30体も変わらないぜ」
内心はその数にビビりながらも、中位魔法、火炎弾を放つモーションに入った。
右手を上げた。魔力という概念はよく理解出来ないが、右手に力を込めてみる。
「火炎弾!!!!」
背後から魔法陣が展開されていく、その数は約50程度、先ほどよりも数が多い。
右手を振り下ろし、その瞬間魔法陣から無数の炎の弾丸が放たれた。
「「「ガロロロロロ!!!!?ロロロロロロロロロロロロ」」」
シュゥーっと焦げくさい匂いがする。
風が吹き、火炎弾によってまかれた砂煙がはれた。
そこにはまるでマシンガンにでも撃ち抜かれたかのように目の前にいた30体近くのドラゴントカゲの死体があった。
その死体はガラスのように砕き散る。
そして大量のドロップアイテムだけ残った。
………中位魔法TEEEEEEE!
さっきまであんなに苦労して戦っていたドラゴントカゲを瞬殺。なんかもうさっきまで苦戦していたのが恥ずかしく思えてくる。
俺は草の上に落ちているドロップアイテムを拾い集め、冒険者カードに全て収納した。
その後、冒険者カードに「クエストクリア!!」という文字が表示される。
便利だな、多分魔法石の数でカウントしているのだろう。
あとは帰って冒険者ギルドから報酬をもらうだけか。
なんとか午前までに終わったな。もし中位魔法を覚えていなかったら終わっていなかった可能性が高い。
「……腹減ったなぁ」
鳴った腹を抑えながら、俺は町に帰った。
ちなみにこの作品、始めだけちゃんと冒険異世界ファンタジーものですので。