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ハザマの国  作者: まのの
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「ちゃんと星を見つけられたようだね」



 魔女は嬉しそうにそう言うと三人の頭を優しく撫でた。三人は誇らしげな顔をして星を魔女に渡す。



「星を取ってきてくれてありがとう。イッヒッヒ。それじゃあ、お礼にこの珠をあげようかね」



 魔女がどこからか白い珠と黒い珠を出した。二つは野球ボールくらいの大きさでガラスでできているのか半透明だ。



「白い方がイルイルの珠、黒い方がナイナイの珠だよ。いいかい、よく見ててごらん」



 魔女が黒い珠を掲げて大きな声で「ヤマト、ナイナイ!」と叫ぶと目の前にいたヤマトが忽然と消えた。



「ヤマト!?」

「ヤマトどこいったの?」

「にゃんにゃー?」



 慌てる三人にニヤリと笑みを浮かべた魔女は、次に白い珠を掲げて「ヤマト、イルイル!」と叫んだ。

 すると先ほど消えたヤマトが突然パッと現れた。ヤマトは「もう、僕で遊ぶのやめてよ」と文句を言いながら尻尾でぺしぺしと魔女の足を叩いる。魔女は悪びれた様子もなく「この珠をお前たちにあげよう」と二つの珠を葵に手渡した。


 葵はどうすればいいのかわからず固まっていたが、横からひょいっと白い珠を奪った栞は何の迷いもなく「チョコレート、いるいる!」と叫んだ。

 すぐに栞の目の前にチョコレートが現れる。栞は「やったー! チョコレートだー!」と嬉しそうに噛り付いた。用が済んだイルイルの珠はすでに葵に返却済みだ。

 戸惑う葵を気にすることなく栞は「ほたるもたべたいの? いいよ」とチョコレートを蛍に食べさせていた。


 二人のマイペースっぷりについていけない葵は手に持つ二つの珠に視線を落とした。



 イルイルの珠は欲しい物を出してくれる。

 ナイナイの珠はいらない物を消してくれる。



「お前にはいらないものがあるんじゃないのかい?」



 すぐ耳元で魔女の囁きが聞こえた。葵はひゅっと息を飲む。

 魔女は低く、怖い声で囁き続ける。



「怒りんぼのママはいらないんだろう? ナイナイの珠に“ママ、ナイナイ”と言ってごらん。……そうすればお前の嫌いなママはいなくなるよ」



 葵は目の前が真っ暗になった。怖くて震えが止まらない。

 


 確かに「怒りんぼのママなんていらない」と言ったのは自分だ。けどそれは、本当にいなくなれって意味じゃない。



 ママがいなくなるなんて……絶対ヤダ!



 カタカタと震える体を落ち着かせるために葵はゆっくり息を吸って吐きだした。

 そして、力を込めてこう叫んだ。



「まじょ、ないない!」



 途端に葵にまとわりついていた魔女が跡形もなく消えた。

 葵はまだ少し震える手でイルイルの珠を掲げて叫ぶ。



「ママ、いるいる!」



 ぎゅっと目を瞑ると我慢していた涙がポロリとこぼれた。イルイルの珠から白い光が溢れ出て全てを包み込んでいく。



 ――目を開けるとそこは薄暗いクローゼットの中だった。



 「かえってきたんだ!」と葵たちは飛び出し、ママを探す。ママはリビングで洗濯物を畳んでいた。バタバタと駆け寄る三人に「お片付けはもう終わったの?」と声をかけながら飛び付いてくる娘達を受け止める。



「どうしたの?怖い虫でも出た?」



 ママは優しく三人の頭を撫で、困ったように笑った。



「……ちょっとママ苦しいんだけど。もう少し優しくぎゅうしてくれる?」



 あまりにぎゅうぎゅうと抱き着くのでママが苦しそうにそう訴えると葵が「ママ! あおいはママがいるから、いらなくないから、だからどこにもいかないでね!」と泣き出した。続いて栞が「ママー! しおりね、はじめてのおつかいいってきたんだよ! あのね、まじょがいてね、ほしをみつけにいってね、ヤマトがしゃべったのー!」とさっきまでの出来事をにこにこと話し出す。蛍は「まんまー!」と顔をぐりぐりママに押し付けていた。


 ママは「わかったわかった。ちゃんと一人ずつ聞くから、順番に喋って」と微笑む。


 その様子を見ていたヤマトは穏やかな声で「にゃーん」と鳴いた。

 ママは顔だけヤマトの方を向いて、人差し指を口元に持っていき「しー」と合図を送る。ヤマトはそれを見てそっとリビングから出て行った。

 そして廊下でぽつりと呟く。



「内緒って言われても、蛍には魔女の正体がわかってたみたいだけどね」



 ヤマトはくすっと笑ってから、温かい日が差し込む窓辺に行き丸くなった。耳には子ども達の賑やかな声が絶え間なく聞こえてくる。

 ぽかぽかの日差しを浴びていたらなんだか心までぽかぽかしてきて、ヤマトは幸せそうに眠りについた。



 ハザマの国は夢と現実の狭間にある不思議な国。

  ――訪れる人をちょっぴり成長させる不思議な国。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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