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ハザマの国  作者: まのの
7/8

 それは冬の山々に響き渡る声だった。



「めんめぇぇぇー!!!!!」



 涙をぽろぽろ零しながら「めっ! めんめ! めぇぇぇ~!!」と泣きわめく蛍。

 その泣き声は大地を揺らし、所々で雪崩が起きた。

 地震と雪崩にすっかり青くなった二人の姉と二匹のうさぎ。蛍が泣けば泣くほど事態は悪くなり地面は酔うほどに揺れる。ヤマトは蛍の隣で伏せて器用に前足で耳を塞いでいた。



 ドドドドドド ドドドドドド 


 

 あちらこちらで雪崩が起きている。

 葵と栞は波打つ雪原をふらふらと歩き、なんとか蛍の元にたどり着くと必死で謝った。



「ほたるごめん! もうケンカしないから!」

「ごめんねほたる! もうあおいとなかなおりする!」

「あおいとしおりはなかよしだよね?」

「そうだよ! しおり、あおいのことスキだもん」

「あおいも、しおりとほたるがスキ」

「しおり、ほたるもスキ! だからなきやんで~!」

「ほたる、もうだいじょうぶだから、なきやんで?」



 葵は蛍をぎゅっと抱きしめて背中をとんとんと優しく叩く。栞は涙と鼻水でグショグショになっている蛍の顔をモコモコの手で拭いている。

 次第に泣き声は小さくなり、やがて止まった。同時に先ほどまで歩くのも困難だった地面は元に戻り、雪崩も収まった。葵と栞はホッと胸を撫で下ろす。


 蛍はあまり泣く子ではない。三女として鍛えられたおかげか普段からあまり泣かないのだ。転んでも泣かない蛍がこれほどまでに号泣するのを葵と栞は久しぶりに見た。



 蛍が泣くと大変な目に遭う。



 それは家で葵と栞が大喧嘩した時の事。喧嘩は毎日のようにしているが、ここまで激しい喧嘩は初めてだった。きっかけはオモチャの取りあい。葵のオモチャを栞が欲しがり、貸してくれない葵から無理やりオモチャを奪った。怒った葵がさらに栞から奪う。そんなやりとりを繰り返していたら事態はエスカレート。いつもならどちらかが諦めたり泣いたりするのだが、その時はどちらも譲らず大喧嘩に発展したのだった。

 お互いを罵り合い殴り合い、物を投げ合う二人を見て蛍が大泣きした。

 その泣き声に反応したのか乱雑に積み上げてられていたオモチャが雪崩を起こし、一番上に乗っていたブタの貯金箱が落下。派手な音を立てて割れた。その破片を栞が踏んで足の裏を切り出血。片付けなければと破片を拾った葵の指も切れて出血し、周囲は蛍の泣き叫ぶ声と赤色で染まった。

 なんという地獄絵図だろうか。急いで駆けつけたママがなんとかその場を片付けたが、ケガの治療が終わった後葵と栞に超特大の雷が落ちたことは言うまでもない。その日はおやつも貰えなかった。

 


 それ以来、二人は蛍を泣かせない様に気をつけている。



「しおり、なかなおりしよう? さっきはごめんね」

「あおい、ごめんね」



 泣き止んだ蛍から離れて二人は向き合い、ごめんねの握手を交わした。その様子を見た蛍は嬉しそうに「てってー!」と叫ぶ。どうやら機嫌はすっかり直ったようだ。

 葵はホッと息を吐いてからうさぎに尋ねる。



「そのリボンとおなじリボンはないの?」



 同じリボンがあれば喧嘩しなくても済むと思ったのに返事は「ないわ」だった。

 こんな時ママならどうするだろうと葵は考える。栞も左右に首をかしげながら一生懸命考えた。



 うーん うーん



 二人の悩む声をBGMに、蛍はとてとてと雪の上を歩き二匹のうさぎに近寄るとリボンを手に取った。そしておもむろに引っ張る。すると先ほどの綱引きが効いたのか、痛んだリボンは蛍がぐっと引っ張っただけでビリっとほんの少しだけ裂けた。



「あ!!」



 うさぎ達の声が重なる。

 蛍は「ばっ! ばっ!」と何やら訴えているようだがうさぎ達は呆然としていてその訴えが耳に届かない。

 


「いいことおもいついた!」



 栞のターンである。



「リボンもうダメになったからすてちゃえばいいんだ! そしたらケンカしないよ!」



 笑顔で残酷なことを言う栞にうさぎ達は泣きだした。まだいっそ「リボンたべちゃえばいいんだ~!」の方が良かったかもしれない。

 葵は泣きだしたうさぎ達に「だいじょうぶだよ。あおいがなんとかしてあげる」と声をかけてヤマトに「ハサミだせる?」と聞いた。ヤマトが「出せるよ」とハサミを出してくれたので、それを使ってリボンの裂けた所からジョキンと切り落とす。

 丁度真ん中で裂けたためリボンは真っ二つだ。うさぎ達は先ほどより大きな声で泣き出した。


 葵は半分になったリボンを持ってうさぎ達に近づくとその手首に一本ずつ結んであげた。最近覚えたちょうちょ結びでリボンを作る。



「みじかくなったからおみみにはむすべないけど、こうしたらむすべるよ」

「あおいすごーい! おそろいのリボンかわいいね」

「だー!」 



 うさぎ達はお互いの手首に着いたリボンを見つめる。少しいびつだけど可愛く結ばれたリボン。さっきまで一つしかなかったリボンが二つになり、しかも姉妹仲良くお揃いだ。うさぎ達の涙が止まる。



「お姉ちゃんとお揃いのリボン、嬉しい」

「私も。一緒に付けれて嬉しい」



 うさぎの姉妹は赤い目を細めた。



「なかなおりはあくしゅするんだよ」と葵が言うと二匹はリボンの付いた手を差し出し「仲直りしよう」「うん!」としっかり握手を交わした。

 栞は「よかったね~」とにこにこしているが、蛍はもう興味を失ったのか握手するうさぎ達から少し離れたところまで歩いて行ってしまった。

 そして「だっだー!」と何かを手にして叫んだ。



 蛍の小さな手に星がしっかりと握られている。



「おほしさまだ!」



 栞が叫ぶ。葵は「ゆきのなかにあったんだね~!」と驚いていた。

 星を手にした蛍は嬉しそうに葵と栞の元に戻る。その笑顔は太陽の光を浴びてチラチラと光る雪よりも輝いていた。


 ヤマトは「これで三つ揃ったね。さぁ、魔女の所に帰ろう」と『夏の海』『秋の大地』で手に入れた星を葵と栞に渡し、「三人とも僕の周りに集まって」と指示を出す。

 三人はうさぎの姉妹に「ばいばーい」「なかよくねー!」「ばっばーい」と手を振ってからヤマトを囲んだ。



 それぞれが手に持つ星が光を放つ。



 やがてその光は三人を飲み込み、あっという間に『春の森』にたどり着いた。

 目の前には木々が広がり、足元には色とりどりの花が咲き乱れている。もこもこだった服はすっかり元に戻っていた。


 

 「おかえり」



 そう言われて振り返ると、相変わらずローブで顔が見えない魔女が口端をニヤリと上げて立っていた。

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