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ハザマの国  作者: まのの
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「デカデカキノコをたべればおおきくなれるよ!」



 栞の問題解決法はやはり“食べる”だ。小猿は「デカデカキノコなんて食べたらもっと遊んでくれないよ……」と先ほどよりしょんぼりしてしまった。栞は「なんでー?おおきくなったらあそべるんでしょ~?」と首を傾げている。




「デカデカキノコだと大きくなりすぎるんだ。それに僕、キノコ好きじゃないし」

「キノコおいしいよ?」

「美味しくないよ。僕が好きなのはプニプニの実だけさ。あとはぜーんぶ好きじゃない。だって美味しくないんだもん」



 小猿はぷいっとそっぽを向いてそう言った。その様子を見てピンときた葵が「わかった!」と叫ぶ。



「おさるさん、すききらいばっかりしてるからおおきくなれないんだ!」



 葵の指摘に小猿はびくっとした。



「すききらいしないでなんでもたべないとおおきくなれないよ?」

「しおりはなんでもたべるからこーんなにおおきいよ!」


 

 母親の様に優しく諭す葵の隣で栞は大きく胸を張っている。立派なお腹が“よく食べる”ことを物語っている。 

 小猿は「だ、だって、美味しくないんだもん。食べたくないんだもん」と唇を尖らせた。

 


 どうしたら好き嫌いせずにご飯を食べられるのだろう? 



 葵は考えた。葵自身も好き嫌いが多く、何でも食べる栞と比べられるとすぐにヘソを曲げる。「だって美味しくないんだもん」と。だから小猿のいう事はよくわかるのだ。さっき小猿に対して言った言葉は葵がよくママから言われる言葉だ。

 


 こんな時、ママならどうするんだろう?



 葵はママを思い出した。


 そういえば、この前食べれるようになった野菜がある。葵が苦手なジャガイモだ。ジャガイモのホクホクした食感と口の中の水分がなくなる感じが嫌いだった。

 いつもは「好き嫌いしないで食べないと元気に大きくなれないわよ!」と怒るママが「自分で作ったご飯なら美味しく食べれるんじゃないかな?」とにこにこしながら葵にコロッケ作りを手伝わせたことがきっかけだ。茹でたジャガイモを潰すことからお手伝いし、炒めた玉ねぎとひき肉を入れて塩コショウをしてそれをこねた。まるで粘土で遊ぶようにこねこねして丸く形を整える。「好きな形にしていいよ」と言われて色んな形のコロッケを夢中で作った。隣を見ると栞が丸く整えたコロッケのタネを「おいしい」と食べていた。ママに怒られるかと思ったけれどママは「沢山あるからつまみ食いしてもいいよ」と笑った。

 葵は苦手なジャガイモだったけど、あまりに栞が美味しそうに食べているのを見て「ちょっとだけ」と味見をしてみた。いびつだけど自分で丸めたコロッケのタネは今まで食べてきたジャガイモの中で一番美味しかった。

 


 ジャガイモってこんなに美味しいんだ。



 それからコロッケのタネだけでなく、出来上がったコロッケも沢山食べて葵はジャガイモ嫌いを克服した。好きじゃなかったポテトサラダも、自分で作ってみたら美味しくて好きになった。カレーに入ってるごろごろのジャガイモも食べれるようになった。



 そっか。自分で作ればいいんだ!



 葵は小猿に「おりょうりしよう!」と提案した。「料理?」とよくわかっていない様子の小猿に、自分で作った料理がいかに美味しいかを力説する。小猿は葵の言葉を聞いて「そんなに美味しくなるなら僕も料理してみたい」と目を輝かせた。




「でも、僕料理なんてしたことないよ?お母さんが居ないと火も使えないし」

「だいじょうぶ!ひをつかわないりょうりをしよう」

「あおい、なにつくるの?」



 ハテナマークを浮かべた小猿と栞に葵は満面の笑みで言う。



「サラダ!」



 サラダは葵と栞の得意料理だ。料理といってもレタスをちぎってトマトを乗せるだけだが。ママのお手伝いをするとサラダを任される二人にとって、サラダは唯一自分たちだけで作れる料理なのだ。

 すると先ほどまで蛍の隣で丸くなっていたヤマトが葵に近づき「レタスに似た野菜なら畑にあるよ。あとミニトマト。シャキシャキの葉とプチプチの実さ。それを使えば美味しいサラダが出来るよ」と教えてくれた。小猿はどちらも好きじゃないけれどせっかくなので自分で作ってみたいとサラダを作ることに賛成した。


 表の畑に出てシャキシャキの葉とプチプチの実を収穫する。それらを綺麗に洗ってシャキシャキの葉を一口大にちぎっていく。葵と栞は指示を出すだけで手伝わなかった。栞は「しおりもする」と駄々をこねたが葵が「それじゃあおさるさんのためにならないから」となんとか納得させた。

 丁寧にちぎられた葉の上に洗ったプチプチの実を乗せていくと緑色に赤色が映えてとても綺麗だった。



「あとはドレッシング……」



 サラダにはママ特製和風ドレッシングが必要だ。野菜嫌いの葵の為にママが作った特製ドレッシングは玉ねぎの甘みが効いていて美味しい。そのドレッシングのおかげもあって、葵はサラダが好きになったのだ。



「ドレッシングならこれを使って」



 チリンチリンと鈴を鳴らしたヤマトが出してくれたのは細長い瓶。コルクを開けるとママのドレッシングと同じ匂いがした。「これは魔女特製ドレッシングさ。レシピもあるから次はこの紙を見ながら作れば同じドレッシングができるよ」と小猿の前にレシピを出す。小猿はそれを受け取ると「ありがとう」とお礼を言った。

 葵は瓶にもう一度コルクをしてよく振ってからサラダにかけた。ママのドレッシングとは違い、魔女のドレッシングは小さな星が散りばめられた様にキラキラとサラダが輝く。その美味しそうなサラダに小猿と栞はごくりと唾を飲み込んだ。

 そして、意を決したように小猿は「いただきます!」とサラダを口に入れた。葵と栞はドキドキしながらその様子を見守る。



 美味しく出来たかな?大丈夫かな?これでサラダが食べれるようになるかな?



 葵は祈るように手を合わせ、もぐもぐとサラダを頬張る小猿の反応を待つ。


 

 もぐもぐ もぐもぐ もぐもぐ

 


 ごっくん



 「美味しい~!」



 小猿は「サラダってこんなに美味しいんだね!」とニコニコしながらサラダを食べ続ける。自分で収穫して、自分で洗って、自分でちぎって、自分で盛り付けたサラダは格別だった。苦手だったプチプチの実もドレッシングのおかげか美味しく食べられる。

 小猿の様子を見ていた栞がついに我慢できなくなり「しおりもたべる~!」とサラダを横取りするように食べだした。兄妹がいなくて独りぼっちだった小猿は「これは僕のだよ!」と言いながらもご飯を取りあうということが新鮮でなんだか嬉しかった。競う様に食べる二人を見て、葵は満足そうに微笑む。


 そこにいつの間に起きたのか蛍がぴったりと足にくっついてきた。

「おはよう、ほたる」と頭を撫でるとまだ眠そうな声で「ぼぉ……」と頭をすりすりしてくる。蛍を足にくっつけたまま視線を戻すと、そこにあったはずのサラダはすっかりなくなり「ごちそうさまでした!」と仲良く手を合わせる二人の姿があった。



 苦手な野菜を食べれたことで自信がついたのか、小猿の顔つきが少しだけ変わったように見える。



「これでおおきくなれるね」と栞が笑うと「うん!これからはもっともっとお母さんを手伝って料理して、色んなものを食べれるようになるよ。それで、大きく強くなって、また友達と一緒に遊べるように頑張る」と小猿も笑った。


  

「素敵なことを教えてくれてありがとう。お礼に僕の宝物をあげるね」



 そう言って小猿は引き出しの中に大切にしまってあった小さな星を葵に渡した。



「おほしさまだ!」

「家の前で拾ったんだ。とっても綺麗だから僕の宝物にしてたんだけど、葵達にあげる」

「いいの?」

「もちろん!だって僕はその星よりもっと大切な宝物を手に入れたからね」



 葵が「なに?」と聞くと「葵と栞、あと蛍とヤマト。僕の大切な友達だよ」と照れたように笑った。葵も嬉しくなって「おともだちだね!」と笑う。

 その笑顔は葵が持つ星よりもピカピカと光っていた。

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