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ハザマの国  作者: まのの
4/8

 一つ目の星を手に入れて、三人が意気揚々と目指すのは『秋の大地』だ。

 パタパタと羽を動かし飛んでいたが、『夏の海』が終わりに近づき紅葉した山々が見えた所で羽は徐々に力を失いやがて消えた。地面に降り立ってから消えたので三人に怪我はなく、今まで着ていた水着もいつの間にか元の長袖長ズボンに戻っていた。

 カサカサと音がする落ち葉の感触を裸足で楽しんでいると「ここはまだ『秋の大地』じゃないよ。ここから山を三つ越えた場所が『秋の大地』なんだ」とヤマトが言った。



「どうやってそこまでいくの?またハネのみつなめる?」



 葵が尋ねるとヤマトは「それでもいいけど、蛍はそろそろ疲れたんじゃないかな?」と落ち葉の上で座りながらうとうとしている蛍を見つめた。まだ遊びたいらしく、本人は懸命に目をこすってはいるものの眠気がそれを上回っているようだ。次第にこっくりこっくりと舟をこぎ始めた。栞が「あおいがおんぶしていけば?」と言ったけど葵は「おもいからむり」と断った。短時間なら蛍を抱っこできるが、おんぶして山を三つ越えるのはどう考えても無理だ。



「じゃあ僕が蛍をおんぶするよ」

「ヤマトちいさいからつぶれちゃうよ。むりだよ」

「ヤマトちからもちなの?すごーい!」

「僕は力持ちにはなれないけど、大きくなれば蛍も葵も栞もみーんな運んであげられるよ」



 ヤマトは得意げにそう言うと「どうやっておおきくなるの?」と聞いてくる葵に「あれだよ」と少し先に生えている大きなキノコを前足で指した。大きなキノコには青いハート模様があり、あんまり美味しそうには見えない。



「あのキノコたべるとおおきくなるの?」

「あれはデカデカキノコだからね。食べると大きくなるんだ」

「すっごーい!しおりもたべるー!」

「栞まで大きくなると僕がおんぶできなくなっちゃうよ」

「あ、そっかー」



 栞はほんの少しだけしゅんとしたが「ヤマト、はやくおおきくなっておんぶして~」とすぐに機嫌が戻った。ヤマトは「ちょっと待っててね」と言ってキノコを採りに行く。そして一口分だけ咥えて戻ってくると「大きくなる前に僕に跨って」と二人に指示を出した。葵はすっかり眠ってしまった蛍を抱っこし、ヤマトを潰さないように跨る。栞はそんな葵の背中にくっついてヤマトに跨った。

「じゃあ食べるね」とヤマトが二人に声をかけ、キノコを食べ始める。



――するとヤマトの体はむくむくと大きくなり、海にいたクジラよりずっとずっと巨大な体になった。

 毛はふわふわしていて、まるで温かい毛布の中にいるようだ。葵は蛍をその上にそっと寝かせると覆いかぶさるようにヤマトの体にしがみ付いた。栞も真似をして葵にしがみ付く。ヤマトは「じゃあ動くよ」と言い、とすん、とすん、と歩き始めた。

 なるべく揺れないように、ゆっくりゆっくり歩くヤマト。


 とすん とすん とすん とすん


 一つ目の山を越え


 とすん とすん とすん とすん


 二つ目の山を越え


 とすん とすん とすん とすん


 三つ目の山を越えて三人は無事に『秋の大地』へと辿り着いた。

 

 ヤマトは「今から小さくなるから蛍をしっかり抱っこしててね」と注意し、葵の「わかった~」という返事を聞くと足元に生えている小さなキノコを一口で食べた。

 赤いハートマークがついているチビチビキノコは食べると体が小さくなる。ヤマトはしゅるしゅると元のサイズに戻った。葵と栞が無事に着地するとヤマトが言う。



「ここが『秋の大地』だよ」



 目の前に広がるのは広大な畑。様々な作物が実っていて、まさに実りの秋だ。レタスみたいな緑の葉っぱが生えていたり、ミニトマトのような赤い実がなっている木があったり、『春の森』で見たプニプニの実の木もある。足元にはふかふかの土が広がっているため裸足でも痛くない。栞は「ふかふか~」とさっそく走り回っている。葵は「ほたるおもい~」とヨロヨロ歩きだ。



「あおいー!おうちがあるよ~!」



 少し先で振り返った栞がそう言うので「そこでほたるねかせてもらお~」と葵は答えた。栞は「わかった!さきにいってるね~」と駆け出してあっという間に家に着き、ドアを叩いている。葵はその様子を見ながら「よいしょ、よいしょ」と蛍を運ぶ。


 やがて家から顔を出したのは小さな猿だった。


 

「おさるさん、こんにちは。ほたるがねちゃったからおふとんかしてください」

「え、っと……。ほたるって? 君は誰?」

「ほたるはしおりのいもうとだよ」

「しおり? きみのなまえ?」

「うん! いまね、あおいがほたるつれてくるからおふとんかしてほしいの」

「あぁ、あそこにいる子だね。あおいはしおりのお姉ちゃん?」

「そうだよ」

「わかった。今、お父さんもお母さんも居ないけど、僕のお布団で良かったら貸してあげるよ」



 それを聞いた栞は満面の笑みで「ありがとう、おさるさん!」とお礼を言った。

 二人がやり取りをしているうちに葵が到着し「てがいたい~」と言いながら小猿の家に入り布団に蛍を寝かせてもらった。葵も小猿にお礼を言うと小猿は照れながら「いいよ」と笑った。



「おさるさんはひとりでおるすばんしてるの?」

「うん。お父さんとお母さんは出かけてるんだ。だから僕一人さ」

「そうなんだ。おさるさんえらいね」

「しおりもおるすばんできるよ」

「あおいといっしょなら、でしょ~? しおりひとりじゃできないじゃん」

「できるよ!」

「できないよ」

「できるってば!」



 二人が言い合っていると小猿が「いいなぁ」と羨むような声でぽつりと言った。その声が聞こえた葵が小猿の方を向くと、小猿は少しだけ俯いた。



「僕、兄弟いないからいつも独りぼっちなんだ……。前は友達が居たんだけど、みんな僕が小さくて弱いからって相手にしてくれなくなって……いつも、一人で家に居るんだ」



 最後の方は消えそうなくらい小さな声だった。もしかしたら泣いているのかもしれない。小猿は俯いたまま顔を上げなかった。

 葵は小猿に近づき頭を撫でた。何て声をかけていいかわからない。どうしたら独りぼっちじゃなくなるのかな。


 ずーんと重くなった空気をぶち破るように、栞の言葉が響いた。



 「いいことおもいついた!」



 問題解決の合図だ。

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