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「これぜーんぶ、クジラさんがたべちゃえばいいんだ~!」
完全な無茶ブリである。基本“食べれば何とかなる”と思っている栞は、自分はなんて凄い解決方法を思いついたのだろうかと自信に満ち溢れていた。
これにはクジラの涙も止まった。泣いている場合ではない。泣いて大きく開けた口に実際に物を詰め込んできそうだ。泣き止んだクジラに栞はにこにこと「あーんってしてね」と言っている。その純粋な笑顔に恐怖を覚えたクジラはフルフルと巨体を震わせた。
それに合わせてザザーンザザーンと大きな波紋が広がっていく。
そのやり取りを何とか蛍を捕まえることに成功した葵は見ていた。そして溜息を漏らす。
「しおり、それたべものじゃないよ。そんなのたべたらクジラさんおなかこわしちゃうよ」
ごもっともだとクジラも大きく頷いた。栞は「えー」と唇を尖らせながら「じゃあおかたづけでもする~?」とやる気を見せずにそう言った。
「そうだ! おかたづけしよう! そしたらきっとハブラシもみつかるよ!」
葵がそう言うと栞は「そっかー!」と気づいたように手を打った。
先ほどまで震えていたクジラに、葵は優しく「だいじょうぶだよ」と笑顔を見せる。
「きちんとおかたづけすればきっとみつかるよ」
「でもオイラ、片付けは苦手なんだ」
「しおりもー!」
そこは自信満々に答えるべきではないが、素直な栞は隠すことなくそう言った。葵は腕の中で暴れ出した蛍を解放して「ヤマト~! おおきなはこだせる? おもちゃばこみたいなの!」と叫ぶ。ヤマトが「出せるよ~」と答えると「じゃあ、しおりおねがーい!」と返事をして、また蛍を追いかけだした。蛍はきゃっきゃと楽しそうに飛びまわっている。
どうやらこの場は栞に任せたらしい。ヤマトが大きな大きなオモチャ箱を砂浜に出すと「これにぜーんぶかたづければいいね」と栞が握った拳にぐっと力を入れた。
お片付けは苦手だけど葵が頼ってくれたことが栞は嬉しかった。そしてクジラに声をかけ「いっしょにおかたづけがんばろうね」と笑った。
「箱の中に入れるだけなら……オイラにもできるかな?」
「できるよ!しおりもできるもん」
「そう、か。そうだね。……オイラやってみるよ!」
「うん!しおりもおてつだいするー!」
一人と一頭は頷き合い、砂浜に溢れる物達を次々にオモチャ箱に入れていった。
クジラは大きな胸ビレを器用に使い、栞はひょいっと自身より大きなものを持って飛んだ。不思議なことにどんなに大きなものも羽の様に軽かった。ハネハネバナのおかげなのだが、栞は「しおり、ちからもちになった……!」と感動していた。
――しばらくして、物が溢れかえっていた砂浜は……なんという事でしょう。匠たちの手により、すっかり本来の綺麗な砂浜に。
そこに残されたのは大きな歯ブラシのみ。
栞とクジラは、汗を流しながら達成感で満たされていた。
「すごいねしおり! きれいになったね!」
そう褒めてくれたのは葵だ。蛍を抱っこしながら栞の傍へ飛んでくるとママがするように頭をいいこいいこと撫でた。栞はくすぐったそうに笑う。
そして葵がしてくれたように今度は栞がクジラの頭を撫でる。「いっしょにおかたづけしてくれてありがとう」と言われてクジラは嬉しそうに「オイラの方こそ! ありがとう」と笑った。
「じゃあみんなでクジラさんのはみがきしてあげよう!」と葵が言うと、葵の腕の中で「はい!」と蛍が手を上げた。返事だけは一人前だ。
それから三人は大きな歯ブラシを仲良く持って、クジラの歯をゴシゴシ磨いてあげた。クジラが痛がっていた虫歯の辺りを入念に磨くとそこにあったのは虫歯ではなく小さな星だった。
栞がそれに気づき、歯ブラシを葵に持たせて歯と歯の隙間から星を取り出した。クジラは「歯が痛いのが治ったー!」と喜んでいる。
栞の手に収まる小さな星はピカピカしている。
「おほしさまあったー!」
「やったー!」
「ったー!」
栞、葵、蛍が順番に声を上げるとクジラはお礼に潮を噴いてくれた。熱くなった肌に冷たいシャワーを浴びて三人は大喜び。クジラが潮を噴くたびに綺麗な虹がかかる。
クジラは沢山「ありがとう!」と言って、お礼にその星をくれた。貰った星をヤマトに預けて三人は次の星を目指す。目指すは『秋の大地』だ。
「ばいばーい!」とクジラに大きく手を振る栞の笑顔は、夏の太陽に負けないくらい輝いていた。




