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ハザマの国  作者: まのの
1/8

 ママはいつも怒りんぼうだ。



「遊んだオモチャは片付けなさい!」

「好き嫌いせずに何でも食べなさい!」

「喧嘩しないで仲良く遊びなさい!」



 あれしなさい! これしなさい! とママに叱られた葵はすっかり拗ねてしまった。葵だけがオモチャを出した訳じゃないのだ。栞だって蛍だって遊んでいた。けど蛍はまだ二歳になったばかりでママに怒られてもよくわかっていない。片づけもしない。栞は四歳だから片づけられるはずなのに夢中になるとママの声が聞こえなくなる。ママがどれだけ怒っていても気にする事なくお人形で遊んでいる。その内ママは大きなため息をついて葵に「ママ洗濯物畳んでくるから葵と栞で片づけてね。片づけないと捨てちゃうからね!」と行ってしまう。

 いつもなら葵は「すてちゃヤダ―!」と泣きながらオモチャを片づけるのだが、その日はもう何もかもが嫌になった。



「なんであおいばっかり! しおりやほたるだってあそんでたもん!」



 ぷんぷんっと頬を膨らませ「おこりんぼのママなんていらない!」と叫んでクローゼットに隠れた。クローゼットの中には小さな本棚が一つあるだけでがらんとしている。本棚には絵本が綺麗に並んでいるけれど今は暗くて見えない。けれど扉の隙間からわずかに光が差し込んでいるため完全に真っ暗ではなく、周りの景色はなんとなくわかる。本棚の上にある真新しいランドセルは葵が来年使う物だ。ママは「その色でいいの?」と聞いたけど葵は迷うことなくラベンダー色のランドセルを選んだ。

 一年生になったらこれを担いで小学校に行くんだ、と先ほどまでの怒りが収まってきた所に「あおい~」と栞がクローゼットの中に入ってきた。後ろには蛍もいて、ちゃっかり一緒に入ってくる。



「かくれんぼ?」

「ぼっ」



 栞が葵に尋ねると蛍も真似をして声を出した。まだ少ししか話せないが、子ども同士だとなぜか言いたいことが伝わる。

葵は栞の顔を見て一瞬忘れていた怒りを思い出した。本当なら栞だって一緒に片づけなければいけないのに、いつも葵一人で片づけているのだ。ママにも一緒に片付けなさいって言われたのに栞はお人形で遊んでいた。

 葵は「かくれんぼじゃない! もうでてって!」と言ったけど、栞は「やだ。あおいのとこにいる。だってしおり、あおいのことすきだもん」と笑った。これが栞のズルいところである。葵はなぜか涙が出そうになったけどぐっと堪えて「じゃあかたづけてつだってよ!」と怒った口調で言った。こんな言い方をしなければ栞に負けたような気がするからだ。何が勝ちで負けなのかわからないけど、負けず嫌いの葵は姉貴風を吹かせながら「あおいのいうとおりにしてよね!」と鼻を鳴らした。 



「ばっ! だっ!」

「あ! みて、あおい! ほたるがえほんだしてる!」

「ほたる、ダメでしょ!」



 葵と栞が話している隙に蛍は本棚の前で座り込み一冊ずつ本を棚から引き抜いていた。何でも出したいお年頃である。姉達の静止を聞くはずもなくご機嫌で本を出していく蛍。葵が蛍を抱っこした時にはすでにほとんどの本がクローゼット内に散らばっていた。この状況をママがみたらまた怒りんぼママに変身しそうだ。



「みんなでかたづけるよ」



 お姉ちゃんらしく葵が二人に声をかける。すると栞が「あれ? このえほんみたことない」と一冊の絵本を持って葵に見せた。うっすらとしか光が差さないクローゼット内で、どうして見たことないとわかったのだろうか。葵が不思議に思うと栞が手にした本が光っていた。これは確かに見たことない絵本だ。

 

 優しく暖かな光を放つ絵本を三人はそっと触ってみた。

 

 すると突然目を開けていられないほどの光になり、三人はぎゅっと目を閉じた。



 ――しばらくして、そっと目を開けるとそこは先ほどまで居たクローゼットの中ではなくなっていた。



 目の前にあるのは沢山の木。中には色とりどりの小さな丸い実がなっている木や、丸くて薄いお煎餅みたいな実がなっている木もある。木の大きさはさほど高くなく、手を伸ばせば栞にも木の実が取れそうだ。木の下には沢山の花が咲いている。ピンクや水色、黄色に紫。金色や銀色の花もあった。辺りが甘くていい匂いなのはこの花達の香りだろうか。三人の足元には白くてふわふわした絨毯みたいな道。みんな裸足だけどこの道の上なら歩いても痛くない。



「ここどこ!?」



 と、叫んだのは葵だ。「おうちは!? ママは!?」とパニックになっている。

 一方、状況がよくわかっていない栞は「きれーい! これたべれるかな?」とさっそく手の届く木の実を収穫していた。蛍は「はいっ」と右手を上げてお花に挨拶している。



「しおり! ほたる! どうしよう! もうママにあえないかも! どうすればおうちにかえれるの!?」



 慌てふためく葵を無視して木の実を集めるマイペースな栞とあさってな方向に「にゃんにゃー」と話しかけている蛍。葵にとってこの状況は絶望的だ。


 けれど、そこに救世主が現れた。


 蛍が「にゃんにゃー」と話しかけた草むらの影からひょこっと出てきた一匹の黒猫。



「ヤマト!」

「あ! ヤマトだ!」

「にゃんにゃー」



 ヤマトは葵達が飼っている黒猫だ。真っ黒な体に短めのカギ尻尾。葵は「カギ尻尾は幸運を引っかけてくるのよ」とママが話してくれたのを思い出した。

 ヤマトは近くにいた蛍にすり寄ると「なんでみんなここにいるの?」と喋った。葵と栞は「ヤマトがしゃべった~!」と驚いている。蛍は何にも気にせず「にゃーにゃー」とヤマトを撫でた。



「葵達、もしかしてこのハザマの国に迷い込んだの?」

「はざまのくに?」

「ここはハザマの国っていうんだ。夢と現実の狭間にある国だよ。ちなみにこの場所は『春の森』って呼ばれてる。栞が手に持っている木の実は甘くて美味しいプニプニの実さ」



 すらすらと説明されても葵は頭がついて行かず首をかしげた。栞は「あまくておいしいの?」とプニプニの実をさっそく口に入れている。そして「あまぁ~い!」とニコニコしながら「あおいもたべる?」とビー玉みたいなピンク色の実を一つくれた。

 その実は名前の通りぷにぷにとした触感で、最近ママがよく洗濯機に入れているぷにぷにの洗剤を思い出した。栞と違い慎重派な葵はぺろっと表面を舐めてみる。味はない。本当に美味しいのかな? と横目で栞を見るとパクパクと美味しそうに食べていた。

 葵は覚悟を決めてパクリ! と口の中に実を放り込む。軽く噛むとぷにぷにしていた皮がパチンとはじけて中からゼリーのような甘いものがとろりと出てきた。



「モモだ!」



 ピンクのそれは桃の味がした。あっという間に口の中で溶けてしまったけど、とても美味しくてもっと食べたくなるような味だった。栞が「ムラサキのはブドウで、キイロのはバナナだったよ。あとね、シロのはぎゅうにゅう!」と教えてくれる。その隣で蛍が口の周りを赤や緑に染めながらもぐもぐしていた。

 

 ヤマトはその他にも色々教えてくれた。


 丸くて薄いお煎餅みたいな実は『パリパリの実』、食べると色んなお煎餅の味がする。

 小さくて赤いハートが付いているキノコは『チビチビキノコ』、食べると小さくなる。

 大きくて青いハートが付いているキノコは『デカデカキノコ』、食べると大きくなる。  

 白くてもこもこしたキノコは『モコモコキノコ』、食べると体がモコモコになる。

 金色の花は『フクフクバナ』、この花の蜜を飲むと好きな服に着替えさせてくれる。

 銀色の花は『ハネハネバナ』、この花の蜜を飲むと背中に小さな羽が生えて飛ぶことができる。


 葵は「ヤマトすごいね~!」と感心していたけど、栞と蛍はそんな話を聞きもせずプニプニの実やパリパリの実を取って食べていた。しっかり者とよく言われる葵とは違い、マイペースと言われる栞とのんびり屋さんと言われる蛍。この二人を連れてこれからどうやってお家に帰ればいいのか。葵は小さな溜息をついた。



「そうそう、もう一つ大事なことを言い忘れてた」

「なに?」

「この『春の森』には魔女が住んでいるんだよ」

「まじょ!?」



 絵本に出てくる怖い魔女を思い出した葵は、もぐもぐと口を動かしている栞の服を掴む。栞はごっくんと口の中の物を飲み込んでから「まじょ、みたーい」とのんきなことを言っている。怖がりな葵は「まじょなんてみたくない! やだ!」とさっきよりも強く栞の服を掴んだ。けれど時すでに遅し。



「誰か私を呼んだかい?」



 いつの間に現れたのか、葵達の前に黒いローブを被った魔女が「イッヒッヒ」と笑いながら立っていたのだ。

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