第二話
目の前には三体の守護者、その形はライオン、鳥、巨人と様々だったが共通して氷で作られていた。
(本当に・・・やばいかもな)
瑞貴はそう思いながら深くため息をつくと足元に落ちていた、日本刀と呼ばれる剣を手に取った。目の前で日本刀を数回振り手に馴染ませる。
「準備は出来たみたいだね、じゃあみっちゃん・・・行くよっ!!」
千恵美は三体の守護者を前方と左右から襲わせる、最初の攻撃によって背後の退路は立たれていたため不本意ながらも瑞貴は立ち向かう事となる。
最初に巨人の拳が襲い掛かってきた、瑞貴はそれを飛んでかわすが鳥の放った突風により後ろに流されてしまう。背後にはいつの間にか口を大きく開けるライオンの姿があった。瑞貴は体をよじらせると日本刀の持つ手を逆手に持ち替え、思いっきりライオンの口の中に向かって投擲、ガキィという音とともに先っぽだけ突き刺さる日本刀の柄を止めとばかりに蹴り押し込む、ライオンはパリッと音を立てて砕けただの氷になってしまう。
「まずは、一体」
そう呟きながら日本刀を拾い上げ正眼に構える、怒涛の追撃が来るかと身構えていた瑞貴だがその様子がないので構えを下ろす。
「みっちゃん強くなったねぇ、でも私はもっと強いんだから」
その言葉が耳に届いたときには遅かった、千恵美の周りには氷の壁が展開されており守護者の二体が左右に立っていた。
「我 氷の精霊の氷の眷属なり・・・。」
(詠唱魔法!?)
瑞貴は下ろしていた日本刀を構えなおし千恵美に向かって走る。
「我が願いを聞き入れここに・・・。」
その時瑞貴は眼前にまで迫っていたが左右の守護者が動き出し瑞貴に立ち塞がる、巨人の拳を体を捌いてかわし、飛んでいた鳥を一刀両断にする。そして先ほどの鳥を斬ったように日本刀を壁にむかって振り下ろす、だが・・・。
ガキィ
「ちっ!!」
壁は思った以上に硬く易々と日本刀を弾き返してしまった。
そして
「氷の嵐を巻き起こせ・・・。」
最後の詩が紡がれた。
ゴォーッ!!
千恵美を中心に冷気を帯びた大気が巻き起こる。その力は大地(店の床)を削り、周りにあった棚を店の外まで押し出すほどの力だった。
「ねぇ、まだやる?」
自信満々に勝った気でいる千恵美が笑みを浮かべて問いただしてくる、もちろん答えは一つ
「俺が悪かった・・・。」
その言葉を聞いた千恵美はパッと顔を明るくした。
「じゃあ、私と付き合「それは無理だ」・・・。」
無理矢理割り込ませた瑞貴の言葉に千恵美は「そっか」と小さく呟き・・・大気に渦巻いていた冷気を瑞貴に向かって解き放った。
「ぶぁああああっ!!」
身体中に凍傷と裂傷、軽い打撲を負いながらも瑞貴は生きていた。
「じゃあ止め・・・。」
容赦のない一撃が今まさに放たれようとしたところで千恵美に向かって数発の水の弾丸、水弾が放たれる。
千恵美は慌てることなくその全ての水弾を凍らせて地面へと落とす。
「邪魔するのは誰かなぁ〜?」
不機嫌そうに千恵美が周りを見ると先ほどの攻撃を放ったであろう人物が瑞貴に歩み寄っていた。
「と、遠野・・・助けに・・・。」
そう先ほどの攻撃を放ったのは朝起こしに来た遠野だったのだ、命の恩人である遠野に瑞貴は軽い感動を覚えたのだが・・・。
「私の働いている店をこれ以上破壊しないでください」
そんな感動は一瞬で消え去ってしまった。
数分後・・・。
「はぁ、はぁ、やるねぇ・・・。」
「貴女こそ・・・魔術クラス主席合格の私と同等の力だなんて」
二人は互いに認め合い、またライバル視するようになっていた。そんな二人の姿をいくらか体を動かせるようになった瑞貴が呆然と見ていた。
(青春・・・なのか?)
その問いに答えるものは誰もいなかった。
とその時二人とも大技を使うつもりなのだろうか互いに距離を取る。
「全ての動きを止める、大いなる氷の精霊王よ。その力の一欠けらを召喚せよ!!」
「災いを洗い流す、清き水の精霊王よ。我に仇なす全ての物を飲み込め!!」
千恵美の手に召喚されたのは氷の槍、対して遠野の背後に現れたのは水で出来た龍、千恵美は力いっぱい槍を投擲し遠野は水の龍で迎え撃った。互いの精霊の力がぶつかり合い衝突した場所を中心に衝撃で空気が震える。
「こりゃやばいな」
呑気な瑞貴の声が響くと同時に互いの槍と龍が消滅しより巨大な衝撃が波となって起こり・・・。
バリッ!!
今まで良く割れなかったと思いたくなるほど頑丈だった、購買部のある一階のフロアの全ての窓ガラスが割れた。
その後遅いながらも駆けつけてきた職員が倒れている千恵美と遠野(瑞貴は体を丸めて衝撃に備えていたので気絶しなかった、なので逃げられた。)を職員室まで強制連行し事態は丸く収まった・・・訳がない。
一つのフロアをほぼ前回にさせた罪はそれほど軽くはなく、二人には無期限の購買部バイト(給料無し)が決定した。
「今年の一年は、問題児が多いなぁ・・・。」
「そうだけど、私たち魔闘部の人材としては合格ラインじゃない?」
「ほ、ほんとにあの子達入れるの???」
「ばぁ〜か、入れるからこういう話してんだろ?」
「そう・・・だよね・・・。」
「そういえば南、あいつらの情報集まったか?」
「部長、私が情報集められない時ってありましたか?」
「無かったな・・・。じゃあ早速見せてくれ」
――――――
名前:遠野美穂
神楽西中出身
属性:水
武器:杖
備考:入学試験で主席合格を果たした優等生でその実力はC級ハンター並み、武器は杖だが水の精霊の力を使い杖の先から高圧の水を出して剣のようにする事が出来る。
――――――
「ほぉ〜、C級とは凄いな・・・。次は・・・。」
――――――
名前:小野寺千恵美
北洋中出身
属性:氷
武器:主に槍
備考:三日ほど前にフラリとハンター育成学校に来て、何故か入学が決まった。武器は槍と書いてあるが全て彼女が気分で氷で作り出す武器なので一概には言えない。今年の入学当選者の須長瑞貴とは幼馴染で側から見ても分かるとおりその瑞貴に好意を持っている。無理矢理の入学を許されることからC級ハンター以上の実力があると思われる。
――――――
「これはまた興味深い・・・。そして最後の・・・南、これは!?」
「すみません」
――――――
名前:須長瑞貴
北洋中出身
属性:?
武器:剣
備考:今年の入学当選者、幼稚園に通うより幼い頃不可解な事件に巻き込まれて以来それまでの記憶と精霊を感じる能力を失ってしまう。その為現在本人は自分が最初から無能だと思い込んでいる、実際両親が色々な処置をしたらしいが効果は上がっていない。情報屋からの情報にも身体に以上は見られないという。ただそれでも剣の才覚は凄まじく下級の精霊の力を使う相手なら素手で倒し、中級でも剣を持てば互角に渡り合えるという。その他一切不明
――――――
「これだけで十分なのにその他一切不明とは?」
「本当は詳しい情報がまだあったのですが・・・。」
「ですが?」
「強いプロテクトや情報抹消などがされている為・・・無理でした。」
「一介の人間の情報にプロテクトか・・・。何か秘密がありそうだな」
「面白そうですね、情報屋として腕が鳴ります。」
「ふ、二人とも怖いよ」
「ポチは黙ってい(ろ)(なさい)」
「うぅ・・・。」
こうして一日目は終わっていく・・・。(最終的に瑞貴は一日全てサボった。)