第一話
少し前から書きたい作品だったのですが、投稿する勇気が無くずっと心の中で物語が膨らんでいくばかりでした。少し前にこのサイトを知って書くことを決心しました^^
まだまだ至らぬところが目立つと思いますので、御助力よろしくお願いします^^
この世界には、奇跡を起こす力がある。魔法、神の奇跡、陰陽術などなど呼ばれ方はさまざまだがそれら全てに共通することがある、それは・・・精霊の力を使うことだ。
故にこの世界に住む全ての人々には個人差はあれどそれぞれ精霊とコンタクトを取る能力や支配する能力を持っている。
例えば魔法は精霊を集めてその現象の密度を上げ炎などを起こす、神の奇跡などは精霊たちの回復力促進の力を使い、陰陽術の式紙は神を媒体として高位の精霊を呼び出す。
そして精霊には『光闇火水氷地雷風』の八つの属性がある。
だが精霊の力は決して良い方向へばかり行きはしなかった。
事の発端は一部の精霊の力の濃い地域でその辺りの生物が異常な進化を遂げたことからだった。その生物は自身の異常な進化に耐え切ることができず理性を失い全ての生きとし生ける者を殺そうとする存在となったのだ。
その生物を総して『魔物』と呼び、人々の中でそれらを討伐することで収入を得るハンターと呼ばれる者まで出てきていた。
ハンターは命の危険と隣り合わせと言うこともあるがかなりの高収入のため目指す者が後をたたなくなっていた。
だが魔物を倒すことは容易ではなくそのせいで魔物による人間の死亡率が跳ね上がった、事態を重く見た世界政府は各国が協力しハンター育成学校を作った。
島国であり魔物の危険があまり無さそうな日本も協力した国の一つであった。
「少年よ、もう良いんだ、我が死ぬことは分かっていた事・・・。これ以上心を無意味に痛めるな」
「いやだ、いやだよぅ・・・。ぼくは・・・ぼくは君を見捨てたくなんかないよぉ」
「我が侭を言うな、我と少年が会ってからたったの三日しか経っておらぬだろう?なぜそこまで我を・・・気にかける?」
「・・・・・・だから」
「なんだ?」
「初めての友達だから・・・。ぼくは、君を、絶対、助ける・・・。」
「よ、寄るな!!今の我に近寄れば大切なものが失われ後悔することに・・・。」
「大切なものは君だっ!!ぼくは後悔しないよっ!!」
そう言って少年は手を伸ばす、宙に浮かぶ今にも消えそうな漆黒の球体に向かって
ズ、ズ、ズ、ズ、ズ・・・。
伸ばした少年の手がその球体に触れたとき、少年の視界は暗転した。
ピッピッピッピッピッピ!!
ズゴ、バキ、ドカ
「うぉ〜〜〜!!」
目覚まし時計が鳴るとともにベットに寝ていた青年はビクリと体を跳ねさせ頭から床に落ちた。想像を絶する痛みが頭を襲い唸る青年は数秒後頭を擦りながらベットに戻って行き・・・快適な睡眠をとり始めた。いわゆる二度寝である。
惰眠を貪る青年の名前は須長瑞貴、この世界でも数少ないハンター育成学校に今月から通う、十五歳の青年だ。
目指すハンターは剣士で結構腕が立つ方だが魔法などを起こすための精霊とコンタクトを取る能力は無い、普通の人間は少しはあるはずなのだが話すことはおろか見ることさえできない。ある意味特殊な体質の持ち主でその為総合的な実力はあまり高いとはいえない。
そんな彼だが三日前に転機が訪れる、それは日本に唯一つしかないハンター育成学校からの入学当選のお知らせだった。
入学当選とは、一年に二人ハンター育成学校の校長が十三歳以上二十五歳未満の日本国民の中からランダムに無料で入学をさせる生徒を選ぶという制度である。
その知らせを見たとき瑞貴は何かの間違いだと思い何度も何度もハンター育成学校の事務員に確認を取り迷惑をかけた。
その結果知らせがドッキリでも嘘でもなく本当のことだと知り意気揚々と暮らしていたアパートを引き払い、ハンター育成学校の寮へ引越しを果たした。
だが越して来たは良いものの何をすれば良いかもわからず取り合えず少しは使える剣で魔物と戦おうと思い剣士志望となった。
そして今日もいつも通り二度寝を堪能しようとしているのだが、今日はいつもとは、違うことが一つあった。
始業式があるのである。
そんなことも知らずのうのうと寝ている瑞貴の部屋にコツ、コツ、コツと足音が近づいてきた。足音は瑞貴の部屋の前で止み・・・ギィーっと鍵がかかっていたはずの扉が開く。
「水の精霊よ、恵みの雨を前方に降らせよ」
女のソプラノの声が部屋に響くと何故か何処からとも無く灰色の雲が瑞貴のベットの上に現れ・・・雨が降り注いだ。
「うぐぅ・・・ぬぅ・・・ん!?雨!?」
突然の雨に全身を濡らしながら口と鼻に水が入った不快感を露わにした顔で、この雨を起こしたであろう玄関付近で立っている女を睨み付けていた。
「おはよう瑞貴君、今何時だと思っているの?」
「八時か九時位だろ、それより遠野、俺の安眠を邪魔すんじゃねぇ・・・。」
そう言って濡れたパジャマを着替えに行こうと私服を手に持ってバスルームに入っていく瑞貴を、遠野と呼ばれた女が手を引いてとめる。
「ねぇ・・・もしかして今日が何の日か忘れてない?」
「・・・・・・。」
瑞貴は少し考え・・・頭に多数の疑問符を浮かべた。
「本当に忘れてたなんて・・・瑞貴って馬鹿?」
「う、うるさい!!俺が覚えてないってことはそこまで大事なことじゃ無いんだよ」
想像を超えた回答にしばらくの間固まった遠野だったが、すぐに口元を歪ませ目を細めて
「へぇ〜・・・じゃあ貴方にとってこんな学校の始業式なんて、取るに足らないものってことね」
そう告げてから遠野は外に出て行った。
「マジかよ・・・。」
瑞貴は一言呟くと制服のブレザーを取ってきて着替えだした。
三分ほどでブレザー姿になった瑞貴はすぐさま卒業式の行われる大闘技場へと走っていった。
「ゼェー、ゼェー・・・。」
肩で息をしながらやっとの思いで大闘技場に着いた、大闘技場には自分と同じ新入生と思われる新しい制服を着た集団がいかにも強そうなゴツイハゲ男の話を熱心に聞いていた。
瑞貴は、ばれない様に生徒たちの列に潜り込んだ。
二十分後
「よって君たちは今日から我がハンター育成学校に入学するわけだが・・・。」
さらに二十分後
「新設校である我が校は各国のハンター育成学校とは大きく異なった・・・。」
さらにさらに二十分後
「それでは、君たちも早く教室に行きたいと思うのでこれくらいの簡単な挨拶だけにしておこうと思う、以上」
(な、長すぎる・・・。)
そう思ったのは瑞貴だけでないのは周りの生徒の顔を見ていたらわかった。
聞いたところによると喋っていたゴツイハゲ男はこの学校の校長らしく世界でも数少ないS級ハンターらしい、入学して間もない俺たちのようなD級ハンターにもなれていない者にとってはそれはもう憧れの存在のはずなのだか・・・。
長い挨拶のため憧れというよりも話の長いハゲとほぼ全ての生徒が存在を再認識したのは言うまでも無い。
大闘技場から割り振られた剣術クラスに移動した瑞貴はある光景を見て唖然とした、その光景とは・・・ほぼ全ての人間が大小様々な剣や刃物をベルトにぶら下げたり腰に帯刀したりしていたのだ。
「んな、あほな事・・・。」
そう呟いた瞬間、瑞貴はその場から飛びのき・・・先ほどまで立っていた床が抉られた。
「あぶねぇ・・・何しやがんだ!!」
瑞貴が怒鳴っている前方には金髪碧眼のいかにも外国人ですよといった感じの青年が少し驚いたような顔をして少し長めの刀を抜いていた。
「剛牙を初見で避けるなんて見た目と違ってやるね」
青年はそれだけ言うと腰の鞘に刀を収めた。
「お前・・・言うことは無いのか?」
瑞貴は怒りのため両手に拳を作って震わせていた。その様子は直ぐにでも殴りかかりそうな様子だったのだが・・・。
「みっちゃん発見!!」
何故か背後から聞き覚えのある、背筋が反射的にゾッとするような声が聞こえる。ブリキの人形のように首を回して後ろを見ると自分の胸の辺りほどの身長150cmほどの少女が蔓延の笑みで立っていた。
「ち、千恵美・・・何でここに・・・。」
震える声には先ほどの怒りなど微塵も無くこの状況からどうやって逃げようかと模索していた。
彼女の名前は小野寺千恵美、瑞貴とは幼稚園からの付き合いで幼馴染、運動神経と頭がかなり良いのに加え精霊を感じる能力がかなり高いため将来有望な魔法使いや神官になれるかなり凄い少女、だが精神面ではまだまだ子供っぽいところがあり我が侭
そんな彼女だが当初はこのハンター育成学校に入る予定は無かった。普通の学校、及び瑞貴の通う学校へ入ることになっていたからだ。だが瑞貴が入学当選を受け取った次の日から姿を消していた。
そんな彼女がここにいることはあり得ない事で瑞貴は狼狽しながら後ろへ少しずつ下がっていく。
「私とみっちゃんの愛の力の前では些細な問題だよっ!!」
(でた・・・。)
千恵美の言葉に瑞貴は心の中で深いため息をついた。
(思えば千恵美がこんなに俺に引っ付くようになったのは幼稚園のときのあの事件からだよなぁ・・・。)
そんな思いにふけっていると水色の閃光が千恵美の指先から瑞貴の足元に放たれ、瑞貴は顔を青くして窓ガラスをブチ破って逃げる。幸い一階と言う事と何故か窓ガラスをブチ破るのに慣れている瑞貴はかすり傷程度で外の地面に転がった。と次の瞬間、瑞貴のいた廊下が真っ白の閃光に包まれる。
ピキ、ピキ、ピキ・・・。
そして、廊下は氷漬けとなっていた。
その様子を見ていた瑞貴はというと・・・冷や汗かいて少し震えていた。
「あぁ・・・もう・・・やってやる・・・。」
何かあきらめたような口調で瑞貴の割った窓から出てきた千恵美を睨み付ける。睨んでいると分からない千恵美は何故か見つめられていると思い顔を赤くしていた。
「凍てつく氷の精霊よ、我が前に集い形となせ」
千恵美の言葉に反応したように先ほどのような水色の閃光が現れ、一つに集まっていき巨大な人型の氷の彫像へと姿を変えた。
「じゃあ守護者、みっちゃんを捕まえちゃって」
千恵美が氷の巨人こと守護者にそう命令すると守護者はその巨体に似合わず俊敏な動きで瑞貴に向かっていく、一方瑞貴は腰を低し重心を落として次の行動を素早く行うために集中していた。
守護者の腕が瑞貴に伸ばされ・・・瑞貴の姿が消える。
次の瞬間守護者の背後を駆け抜ける瑞貴の姿がそこにはあった。
「千恵美、今回は俺の勝ちみたいだな」
そう言ってそのままその場から逃げようとした瑞貴だったが次の瞬間足が動かなくなり盛大に転ぶ、いや正確に言うと転ばされた。
恐る恐る足を見てみると靴が地面が凍らされ完全にくっ付いていた。
「動きは良かったけどまだまだ頭は駄目だね。」
そう言うと千恵美は笑みを浮かべゆっくり近づいて来た、完全に捕まえたと思ったのだろう、だがこんなことで瑞貴の抵抗は終わらなかった。
ポケットから直径二センチほどの玉を取り出し千恵美に向かって投げつける、とそこで慌てた様子も無く千恵美は守護者をチラリと見る、すると守護者が音も無く瑞貴と千恵美の間に割り込み玉を振り払う。
玉は守護者に触れたとたん弾け辺りに白い煙を発生させる。
「煙幕って・・・みっちゃんっていつの時代の人なの!?」
少し面を食らった千恵美だったが直ぐに守護者を鳥の形に変化させ風を起こして煙幕を飛ばした、だが先ほどまで瑞貴が居た場所には氷漬けの靴が地面に残っていただけで瑞貴の姿は無かった。
瑞貴は走っていた、授業中だというのに走っていた。理由は簡単だ・・・追われているからだ。結構な距離を逃げたと思うが油断は禁物、敵はそういう相手なのだ。片方しか靴を掃いてないのもバランスが悪く瑞貴は靴下まで脱いで裸足となった。冷たい土の感触を不快だとは思わない、むしろ気持ち良いとさえ思える。
目指すは何でも揃う購買部、あそこになら食料はおろか靴さえ売っている。そこまで考えた瑞貴の足は自然と購買部の方向に向かっていた。
スーパーマーケットを思わせるような巨大な購買部、何故このような施設にまで拡大したのか疑問を覚えつつも瑞貴は店内に入って行った。
時を同じくして瑞貴の足跡を発見した千恵美、向かっている方向を見据えると背後にいる人型の氷の守護者をライオンのような四足歩行の物に変える。
「逃がさないよ、みっちゃん」
やっとのことで靴を見つけた瑞貴はそれをレジに持っていこうとして人の出入りが多いコーナーを見つける。興味本位でそこに足を踏み入れるとそこには、護符やら杖やらいかにも魔法などといったものに関係ありそうなものや剣や槍といった武器がたくさん置かれていた。
「ここって武器も売ってんだ・・・俺も買ってみるか」
そう言ってそのコーナーに足を踏み入れたところで遠くのほうでガラスの割れる音が聞こえる、恐る恐る振り返り周りを見てみると棚をなぎ倒しながら向かってくる、氷のライオンとそれに跨る千恵美の姿が見えた。
「あの・・・馬鹿ぁ・・・。」
逃げようとしても遅かった、後ろの棚が俗に猫パンチと呼ばれる前足の攻撃で吹き飛ばされ瑞貴の背後の通路を完全に塞いでしまう、ここまでやるか?と言いたくなる理性をぐっと堪え瑞貴は向かってくる氷のライオンから片時も目を逸らさなかった。
残り十メートルまで近づいたところでライオンの氷の鬣が分離し針のようになりこちらに飛んできた。瑞貴は足元に転がる客の落としていった剣を拾い一閃する、すると飛んでいた針が全て叩き落され瑞貴の足元に雪のように落ちていく。
「チッ、ナマクラが・・・。」
瑞貴が剣を見てそう言うと剣は根元から折れてしまう。
「相変わらずみっちゃんは剣の腕だけは凄いよね」
千恵美は笑いながら言うはその目は笑っていなかった、よっぽど自分の決められると思った技が簡単に破られたことにイライラしているのだろう。
「ちょっと、本気になるよ」
千恵美がそう言った瞬間、部屋の中の空気が変わった。