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第九十三話

「もうすぐクロックフィールドが来る」

「クロックフィールド?」

「……お前の護衛についていた灰騎士だ」


そう老人が言う。

ジャンってクロックフィールドって言うんだ。

好きって言ってるくせに相手のこと何にも知らないな私。


聞く機会も一杯あったのに。

そういう半端な気持ちだから気持ちが伝わらないのかな。

そう自己憐憫に浸っていると扉が叩かれた。


胸がときめいた。

また彼に会える。

「入れ」


「はっ!」

その声とともに見慣れた長身の男が入ってきた。

細い黒髪が懐かしい。無愛想な顔さえ愛おしく見えた。


「ジャン!」

思わず駆け寄ってしまった。

「元気だった!? 私元気だったよ! 帰ってこれたんだよ! 話したいこと一杯、ある……」


彼の外套の後ろに小さな赤色の髪の女の子がいた。

怯えるようにしてその外套にしがみついている。

「あれ? ……この娘は?」


そう可愛い顔をした小さな魔法使いとジャンを交互に見る。

「教皇庁所属、灰騎士のジャン・クロックフィールドです。ティエーラ戦線から戻って参りました」


「うむ! 新しい魔法使いはどうだ」

「魔力も安定しておりますし戦場での活躍やその他の雑務にも積極的に取り組む姿勢が他の兵士達に良い影響を与えているようです。優秀な魔法使いだと思います」


なんだよそんなに褒めて。

私のことそんなに褒めてくれたことなかったじゃん。


「で、どうだ?」

そう老人が私に眼をやると彼もようやく私を見る。

「間違いないですね。私が護衛を務めていたカーシャ・ヴァレンタインです」


過去形。

誰かを好きになると微妙な言葉づかいまで気になる。

気づきたくないことが解るぐらい心が繊細になるんだ。


「見ただけでわかるのか? 少し会話してみろ」


ジャンが頷き私の前に立つ

私の瞳も唇も震える。

話したいことが一杯あったのにいざとなると何も出てこない。


彼に見つめられると尚更だった。

「……必要ありませんね。間違いなく彼女です」

そう言うと彼は外套をひるがえし部屋を出ようとする。


「な、貴様」

そう何か言おうとする老人を別の一人が止める。

私は呆然とする。


何か見てるんだけど何も見てないような。

考えてるんだけど考えてないような。

頭が真っ白になった。


あれ。私帰ってきたんだよ。

あなたのために帰ってきたんだよ。

なのにこんなのって。


もう涙すら出てこなかった。

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