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第九十話

皇帝が私をテラスに呼び出す。

「どうだ我が国を一望できるだろ」

彼は石造りの手すりに肘をやる。


その広大な大地を見る。遠くにウェルトミッドの緑が見える。

もっと晴れていれば商業都市ベリューブックも見えるかもしれない。


「我が国は荒野と石ばかりだ。それに帝都以外の町や村は教国と比べたら文化の水準は低いかもしれん。荒れた土地を耕す農民ばかりだ」


彼は乾いた風を受けながら唇を動かす。

「それでも懸命に生きてるのだ。余にはそんな彼らを守る義務がある」

前置きだったのか彼は咳払いをする。


「教国に残してきた者がいるのか?」

私は驚いた顔をする。その後恥ずかしげな表情を浮かべると彼は笑う。

「余に隠し事は通じんぞ。竜仕込みの観察眼だからな!」


そう彼は大きな口を開けて笑った後、ゆっくりと真顔になる。

「お前はいつも寂しそうな顔をしてたからな」

私の瞳が大きくなる。彼を見ると優しく微笑んでいる。


栗毛の髪が風で揺れていた。


「それにお前をここに連れてきた時にお前は真っ先に教国の方を見た。まるで何かを探すみたいに」

彼は石の手すりに肘をつきながら語る。


「大切な人間がいる証拠だ」

そう彼は皇帝らしからぬ子供みたいな笑顔で言った。


ここまで心を見透かされた上で優しくされると泣きたくなる様な拒絶したくなる様な複雑な気持ちが胸に浮かんでくる。

「そいつに会いたいか?」


うつむいて胸を整理してみる。


戻っても絶対に一緒になれないのに? 

身分の高い騎士とみんなにいじめられる魔法使いだよ? 

妄想もたいがいにしろよ私。幸せなんて夢物語の世界だけで十分だ。


なのになんで。

「会いたいです。凄く愛した人に」

自分が思ってない言葉を泣きながら言っちゃうんだろう。


しゃっくりが止まらない私を彼は優しく見つめてくれた。

「……そうか。そいつが好きなんだな」

彼は暫く眼をつむった後、意を決した声で言った。


「わかった。俺にまかせておけ。皇帝たるもの全員が納得できる道を考えなければな」

彼は困ったように笑い私の頭を撫でる。

「だからもう泣くな」


私はしゃっくりを出しながら強がりを言う。

「子供のくせに」

「子供だって大人の涙を拭くことぐらいできる」

そう彼の小さな指が私の睫毛に触れた。

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