第八十八話
「竜と喋れる……」
自分の唇を抑えてしまう。
そうしてから抑えるのは耳だったかなとも思った。
皇帝はおかしそうに笑う。
「こりゃ驚いた。竜と話せる人間だったとはな」
ウィルでも話せないのになと彼は冗談気に言う。
ウィルさんは怒りつつも驚いた様子を隠せないみたいだった。
「お前だけの特技では無いにしてもかなり珍しい人間だな」
なんだこれはそんなに特殊な能力なのか。
『久しぶりにこの国で魔法使いを見たな』
その声がまた胸に響いた。
私は竜の顔を見る。
やっぱりちょっと怖かった。
『白と黒の魔法使いの一族か」
うん? 私は首を傾げてしまった。
「黒とか白とかなんです?」
皇帝は聴こえているのか草むらに寝転びながら笑っている。
「ヴァルディングスは500年近く生きてるからな。色々知ってるぞ」
軍師のウィルさんだけ辺りを見まわしながら不思議な表情をしている。
『お前は魔法が呪われた理由を知らんようだな。それになぜお前たちの使う力に魔という名が引き継がれてきたのかも……』
竜の声が胸に響く。
ん? ん? わからないことばかりだ。
私はあんまり頭が良くないんだ。もっとわかりやすく言ってくれ。
「そんなに思わせ振りに言うなら教えてくださいよ」
私がそう唇をとがらせて言うと周りが凍りつく。
「偉大なる竜に向かって何て事を!」
ウィルさんが慌てたが皇帝は笑っていた。
竜の喜んだ気持ちが私の胸にも伝わってきた。
それでおぼろげな推測が私の頭に浮かんだ。
ひょっとしてこれは喋っているのではなくて仕組みはわからないが心が繋がってるということなのかな。竜と私とで心が繋がっているからお互いの気持ちがわかるのかもしれない。
『真っ直ぐなその心。気に入ったぞ魔法使い』
竜は荒い息を吐く。
『真実は己で見つけ出すものだが、代わりに一つ啓示をくれてやろう』
彼の大きな口が開く。牙から唾液が線みたいに伸びていてるのが見えた。
ちょっと気持ち悪いと思ってしまった。
『お前は世界を変える魔法使いになる』
予期しない言葉が胸に強く響いた。




