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第八十六話

彼は息を乱しながら召使を睨む。

その眼光に彼女はすくむ。

「何故お前はここにいる!?」


彼女は顔を蒼白しながら言葉を探す。

「そ、そそれは」

「私が頼んだんだよ」


彼のその怒れる竜の様な瞳が私に向けられた。

「独りじゃ寂しいから話し相手になって欲しいって」

彼は納得しないような顔で召使に強い口調で訊く。


「そうなのか」

彼女は一度私の眼を見た後震えながら何度も首を縦に振る。

「……失せろ!」


彼の大きな声が部屋中に響くと彼女は慌てた様に部屋から出ようとする。一度何もない所でつまづいていた。彼女は扉さえ閉めるのを忘れて走って逃げた。


彼はゆっくりと歩きその光が差しこむ扉を閉める。

そしてそのままその扉を背にして絨毯に崩れるように腰を降ろす。

「……頼むよ。俺を休ませてくれよ。信頼できる人間とだけ一緒になれる時間をくれ。じゃないと」


彼は顔に手をやりながら荒い呼吸をする。

「……皇帝」

彼はゆっくりと立ち上がり私に近づく。そしてそのまま柔らかなベッドに私を押し倒した。


驚く気持ちと予想していた気持ちのないまぜになった。

彼は私の肩の上で涙を流す。鎖骨に小さな涙が落ちた。

「皇帝なんて呼ばないでくれ。余はもうこんな重責には耐えられん」


弱さを見せる彼の悲しさがわかってしまった。

まだほんの子供なんだ。それなのに毎日毒殺の恐怖や裏切られる心配。

それなのに無理して自分じゃない自分を演じなきゃいけない。


私はそっと彼の頭を抱きしめてしまった。

「……つらかったね」

そう私が言うと彼は少し黙った後、大きな声で泣き出した。


つらいことをつらいって言えない子供。

そんなことを知らないふりをする私たち大人。

こんな世界は正しいのかな。


そう泣きじゃくる子供の頭を撫でながら思う。

そんな私たちを窓から射し込む月夜だけが照らしてくれた。

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