第八十一話
「そんなこと言っても……」
わたしはもじもじしながら言葉を選ぶ。
「お前を歓迎してるんだぞ。お前が楽しまないでどうする」
皇帝は自分でそう言った後で何故か独り頷く。
「そうか……。ここでは俺しか頼る者がいないんだったな」
そう玉座の高い位置から彼は私の頭を抱き寄せる。
少し驚いてしまった。
「よしっ! 余も下に降りよう」
彼はそう言って玉座から飛び降りた。
「それなら良いだろう? 来いっ! 余が人生の楽しみってやつを教えてやる」
軍師も呆れるように額に手をやる。
「そういうことだ。付き合ってやってくれないか? あいつは言い出したら聞かないんだ」
私も少し頬を染めて頷いた。
嬉しさを我慢するために唇を噛んだのは初めてだった。
「皇帝!」
「イヴォークの光!」
「皇帝も子供なんだよねー」
子供がそういうと周りの重臣達が子供を叱責する。
「良い良い。確かに私は小さいがそれでもっ」
そう言って彼は子供を抱き上げる。
「お前を守ってやることぐらいならできるぞ」
そう彼は本当に嬉しそうな笑顔で笑う。
「すみませんこのような場所に子供なんぞ連れてきて」
「気にするな。俺は子供が笑えるような世界が好きなんだ。だからお前らもあんまり簡単に怒ってやるなよー」
そう彼は子供を抱きながら冗談気に微笑む。
これが敵国の皇帝なんだ。
「変わった男だろ」
そう言って私の隣にウィルさんが立つ。
「馬鹿だけど純粋で繊細で。何よりあいつの良い所は自分より困った人間や上手くいかない人間の気持ちに心の底から共感しようとする所なんだ」
そうその長髪の軍師は自分の恋人を語る様に言う。
「あいつが強くなればなるほど救われる人間も増えていく気がするんだ」
彼はそう小さな皇帝に眼をやる。
「……だから俺はあいつのためだったら命を捧げても惜しくはない」
そう長髪の軍師は子供を抱き上げて笑う皇帝を愛おしそうに見つめていた。




