第八話
講義前に生徒達は噂話に興じる。
「どっちが勝つよ」
「そりゃオレオール教国に勝ってもらわんと困るよ。同盟してるんだし」
「でもイヴォーク帝国の方が領土は広大だぜ」
生徒の一人が馬鹿と呟く。
「軍の質が全然違うだろ。教国は少数だが精鋭だ」
そうしているうちに先生が入ってきた。
生徒たちは黒板の前に姿勢を正して向き直る。
「えー授業を始める前に。みなさんご存知かと思いますが」
彼は一呼吸置く。
「戦争が始まりました」
生徒たちの反応は喜んで口笛を吹く者や落胆して溜め息を吐く者など様々だった。
「先生! 僕たちは戦争に行かないんですか」
そう生徒が質問をした。
「その可能性は低いと思います」
生徒たちが騒ぐ。
「行って何が出来んだよー。肉を腐らせない様に冷やすかー?」
「草に火をつける!」
「松明みたいな火種ありゃ足りるだろー」
そう生徒たちは好き勝手に話しだす。
先生は騒然とした教室を眺めて静かにため息を吐いた。
それからおもむろに両手から火炎を出す。
生徒たちが沈黙する。
炎が煌々と輝きみんなの顔を照らす。
「これでようやく人を焼死させられる程度の炎です」
彼はその炎の勢いとは対照的に冷静な口調で話す。
「みなさんの中でこれぐらいの炎を出せる生徒はいますか?」
みんなが一斉に首を横に振る。
「自分で言うのもなんですがこれ程の炎を出せる魔法使いは少ない」
彼は眼鏡を直し続ける。
「それでも私は弱いのです。」
彼は炎を消し生徒に質問をした。教室に煙が流れる。
「何故だかわかりますか?」
当てられた生徒はまごまごしながら答える。
「……えっと、えっと。ボウガンで打たれたら死んじゃう?」
彼は正解だと頷く。
「魔法使いはそれぞれ能力差が激しいため。軍隊で運用しようにも標準化ができない」
彼は淡々と説明する。
「そして非魔法族に比べて圧倒的に数が少ない。なおかつ人を殺傷するほどの魔力を持つ魔法使いはその中でもほんの一握り。ゆえに人員の補充も困難」
彼は白墨を持って黒板に書いていく。
「そして肝心なことは」
彼は向き直り手を止める。
「先ほど彼が述べたように一本の矢で死に至るという事実」
生徒たちは沈黙する。
「優秀な魔法使いは簡単に徴兵できる一兵士に劣るということです」
そう彼は白墨を置いた。